(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月15日13時45分
沖縄県那覇港北東方沖
(北緯26度16.8分 東経127度41.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボート アイランダー |
登録長 |
5.37メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
(2)設備及び性能等
ア アイランダー
アイランダーは,限定沿海区域を航行区域とし,B社製のGN1-A型と称する,最大とう載人員6人の一層甲板型FRP製オープンデッキのモーターボートで,船尾中央に同社製の60FETOL型と称する船外機を装備し,平成9年3月に第1回定期検査を受け,同15年1月にCが購入して魚釣り等のマリンレジャーに使用されていた。
イ 甲板上の機器配置
アイランダーの甲板上には,船体中央の右舷側に舵輪,魚群探知機,コンパス及びトリム計のほか,船外機の回転計及び発停スイッチなどが組み込まれた操縦操作盤及び操縦席を,左舷側に主電源スイッチ,ブレーカパネル及び救命胴衣が格納されたダッシュボード及び助手席をそれぞれ備え,操縦席と助手席との間に長さ約60センチメートル(以下「センチ」という。) ,幅約42センチ,コーミングの高さ約6センチのいけすを,その後部に両舷ブルワークの後部寄りの下部に排水口各1個が設けられた船尾甲板を,続いて右舷側に蓄電池が格納されたスターンハッチ(以下蓄電池格納ハッチ」という。)を,中央部及び左舷側に容量 24リットルの船外機用燃料油タンクが格納されたスターンハッチ(以下「燃料油タンク格納ハッチ」という。)を配していた。また,各ハッチは,高さ約30センチのコーミング上にハッチカバーを備え,ハッチ内の底部に船尾甲板下のボイドスペースに至るドレン孔を設けていた。
ウ 甲板下のビルジ系統
甲板下のボイドスペースに浸入した海水及び雨水は,各隔壁に設けられたビルジ孔を通って船首方から船尾方に流れ,船尾外板の下部に設けられた直径25ミリメートルのドレンプラグ孔に至るようになっており,上架した際に同プラグ孔に取り付けられたドレンプラグが取り外されて船外に排出されるようになっていた。
3 事実の経過
平成16年2月15日朝,A受審人は,自宅で起床したとき,快晴で,予定も無かったことから,アイランダーを借用して魚釣りに行くことを思い立ち,07時ごろC船舶所有者に電話をしてアイランダーの使用許可を得たのち,D友人,E友人及びF友人にその旨を連絡したところ,全員が魚釣りに参加することとなり,アイランダーが保管されている沖縄県宜野湾市にあるGマリーナ(以下「マリーナ」という。)に12時に集合することを決めた。
しかしながら,A受審人は,一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち,自ら船長としてモーターボートに乗り組んだ経験がこれまで1回しかなく,また,上架している同ボートを海面に下ろし,これを浮上させた経験がなかったのに,アイランダーを借用する際にC船舶所有者に浮上時及び航走時の安全・注意事項等についての説明を求めなかったので,アイランダーがドレンプラグを取り外したままの状態で上架されていること,蓄電池格納ハッチ及び燃料油タンク格納ハッチのハッチ内の底部に設けられたドレン孔が開放されていることを知らず,また,小型船舶用信号紅炎及び救命浮環などの法定備品の格納状況についても知らなかった。
A受審人は,12時15分ごろD友人,E友人及びF友人がマリーナに到着し終えたので,発航に先立ち,船外機の燃料油タンク及び予備燃料油タンクを点検したうえ,それぞれのタンクにガソリンを給油し,雨水浸入防止用カバーを被せられていない船体及びプロペラ翼などの損傷の有無を調べ,助手席前部にあるダッシュボードに救命胴衣が格納されていることを確認したのち,上架しているアイランダーを浮上させることとしたが,一級小型船舶操縦士の受験講習時にドレンプラグの取付け位置及びその取扱い方法等について講義を受け,また,アイランダーの船尾外板に「同プラグの締付け不良は浸水,沈没の危険があり,浮上前に必ず確実に締め付けること」旨の注意書が貼り付けられていたのに,これに気付かず,同プラグが取り付けられているものと思い,同プラグの取付けの有無についての点検を十分に行うことなく,アイランダーを載せた台車を船揚げ場に移動して浮上させるようマリーナの係員に指示した。
こうして,アイランダーは,ドレンプラグが取り付けられないまま,A受審人が船長として乗り組み,D友人,E友人及びF友人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,全員が救命胴衣を着用しないで,13時00分マリーナを発し,その西方約8海里沖にある慶伊瀬島(チービシ)に向かった。
A受審人は,船外機を半速力前進にかけ,5分ほど航走して牧港第4号灯浮標付近に差し掛かったとき,北西風が強く,海上には波高約2メートルの波浪があって,海上が少ししけ気味であったことから,慶伊瀬島に向かうのを断念し,沖縄県浦添市の海岸線に沿って同県那覇港に向け南下しながら魚群探知機を使用して釣り場を探すこととし,牧港第2号灯浮標を右舷側に見て航過したのち左舵をとり,さんご礁外縁の浅瀬を避けるため同探知機を監視しながら20ないし22メートルの水深に沿って南下した。
操船に就いていたA受審人は,ドレンプラグ孔から船底に浸入した海水によりアイランダーの船尾が徐々に沈下し始め,船尾甲板上に海水が滞留するようになったものの,異常だとは思わず,船体の異常発生の有無について注意を払わないまま,13時30分那覇港浦添北内防波堤灯台から040度(真方位,以下同じ。)1.6海里に位置する沈船の北西方沖の釣り場に至り,アイランダーの船首を南東方に向けた状態で船外機を停止した。
漂泊を開始したアイランダーは,ドレンプラグ孔から浸入した海水が船底のボイドスペースを経て蓄電池格納ハッチ,燃料油タンク格納ハッチ及び船首方の同スペースなどに浸入するようになり,船尾の沈下が進行して船尾甲板両舷の排水口から浸入する海水が増加し,蓄電池格納ハッチなどの周辺に,海水が約10センチの深さで滞留する状況となった。
A受審人は,操縦席で弁当を食べていたところ,蓄電池格納ハッチカバーに腰掛けて釣りの仕掛けを作っていたE友人が,船尾甲板上の海水の滞留状態に疑問を抱き,船首甲板に移動して船尾方を見たところ,船尾が著しく沈下しているのを認めて「おかしい」と大声を発したことから,船体の異常発生に気付いたものの,直ちに救命胴衣の着用を友人3人に指示することも,両舷の排水口をウエスなどで閉塞させることも,所持していた携帯電話でマリーナや海上保安庁などに通報することもしないまま,バケツなどで排水作業を始めるよう友人に指示した。
A受審人は,急ぎマリーナに帰航しようと船外機の発停スイッチを操作したが,セルモータが回転せず,13時45分那覇港浦添北内防波堤灯台から026度1.8海里の地点において,蓄電池格納ハッチカバーを開放し,蓄電池が冠水して給電不能となっていることを認めた。
当時,天候は晴で風力4の北西風が吹き,潮候は高潮時で,海上には波高約2メートルの波浪があった。
アイランダーは,船首部に避難したD友人が携帯電話でマリーナに異常発生を通報し終えたのち,さんご礁外縁付近で高起した砕け波を受けて転覆し,全員が海面に投げ出された。
その結果,クーラーボックスを浮き代わりにして漂っていたA受審人及び沈船に泳ぎ着いたE友人はマリーナからの通報を受けて来援した海上保安庁のヘリコプターにより救助され,E友人は自力で海岸に泳ぎ着いたが,D友人は行方不明となり,翌々17日朝,溺死体で発見され,アイランダーはさんご礁に打ち上げられて大破し,のち解体処分された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人がモーターボートの取扱い等に精通していなかったこと
2 アイランダーを借用する際,C船舶所有者に浮上時及び航走時の安全・注意事項等についての説明を求めなかったこと
3 船尾外板に貼り付けられていたドレンプラグについての注意書に気付かなかったこと
4 アイランダーを浮上させる際,ドレンプラグの取付けの有無についての点検が行われていなかったこと
5 発航時,救命胴衣を着用しなかったこと
6 操船中,船体の異常発生の有無について注意が払われていなかったこと
(原因の考察)
上架しているアイランダーを浮上させる際,ドレンプラグの取付けの有無についての点検が行われていたならば本件は発生しなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,アイランダーを浮上させる際,船体の周囲を一回りして,船体及びプロペラ翼などの損傷の有無を調べたにもかかわらず,船尾外板に貼り付けられていたドレンプラグについての注意書に気付かず,また,一級小型船舶操縦士の受験講習時に講習を受けたように,通常,モーターボートを上架した際には,船底のドレンを排出するため同プラグを取り外しておくことが多く,アイランダーが雨水浸入防止用カバーを被せないまま上架されていたのであるから,同プラグの取外しを疑って,同プラグの取付けの有無を点検しなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,アイランダーを借用する際,C船舶所有者に浮上時及び航走時の安全・注意事項等についての説明を求めなかったこと及び操船中,船体の異常発生の有無について注意を払っていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,A受審人が,モーターボートの取扱い等に精通するよう努力することを含め,アイランダーを借用する際にはC船舶所有者から浮上時及び航走時の安全・注意事項等についての情報を事前に入手すること,及び船長として,操船時には船体等の異常発生の有無に注意を払うべきことなどについては,海難防止の観点からいずれも是正されるべき事項である。
なお,同乗していたD友人が溺死したのは救命胴衣を着用しなかったことによるものであり,A受審人が,アイランダーに乗り組んだ際に,助手席前部にあるダッシュボードに救命胴衣が格納されていることを確認していたにもかかわらず,友人に着用するよう指示しておらず,また,本人自らこれを着用しなかったことは是正されるべきである。
(海難の原因)
本件遭難は,沖縄県宜野湾市にある宜野湾港マリーナにおいて,上架しているアイランダーを浮上させる際,船尾外板に設けられたドレンプラグの取付けの有無についての点検が不十分で,漂泊して魚釣りの準備中,同プラグ孔から海水が船底に浸入して船尾が著しく沈下し,多量の海水が船尾甲板上に滞留したことによって発生したものである。
なお,同乗していた友人1人が死亡したのは,救命胴衣を着用しなかったことによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県宜野湾市にあるマリーナにおいて,上架しているアイランダーを浮上させる場合,海水が船底に浸入することのないよう,ドレンプラグの取付けの有無についての点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,同プラグが取り付けられているものと思い,同プラグの取付けの有無についての点検を十分に行わなかった職務上の過失により,同プラグが取り付けられていないことに気付かないままアイランダーを浮上させ,漂泊して魚釣りの準備中,同プラグ孔から海水が船底に浸入し,船尾が著しく沈下して船尾甲板上に多量の海水が滞留する事態を招き,その後さんご礁外縁付近で高起した砕け波を受けて転覆し,海面に投げ出された友人1人を溺死させ,船体を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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