(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月6日17時30分
北海道小樽港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船新世丸 |
総トン数 |
160トン |
全長 |
37.26メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
新世丸は,沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で,A受審人ほか12人が乗り組み,平成14年12月28日夜北海道小樽港高島漁港区に帰港したのち正月休みのため停泊を続け,同15年1月3日夜荒天避難のため離岸して同港第1区に錨泊し,翌4日08時15分船首1.6メートル船尾4.6メートルの喫水をもって,小樽港第2ふとう11号岸壁に船首索船尾索各2本を出したのち船首ブレストライン船尾ブレストライン各1本をそれぞれ回しどりし,防舷材として径1メートルのタイヤを船首部と船尾部に設置して入船左舷付けで着岸した。
着岸後A受審人は,乗組員を帰宅させ,自らも小樽市内の宿舎に帰った。
ところで,11号岸壁は第2ふとう北側内奥にあり,冬季,季節風が強吹すると,同ふとうと第3ふとうとの間の水域は波浪が高まりやすく,同岸壁に係留する船舶は動揺による船体の損傷が懸念されるところであり,A受審人は,これをよく知っていた。
そして,翌5日09時00分の天気図では,勢力の強い高気圧が北海道西方に張り出し,北海道東方には低気圧が発達しながら広範囲に広がり,西高東低の冬型気圧配置が続き,強い季節風が吹くことを示し,小樽港を含む北海道後志北部には,09時40分札幌管区気象台から暴風雪及び波浪各警報が,17時40分には同警報が継続して出され,海は大しけとなり警戒が必要である旨が発表されており,小樽港内でも北寄りの季節風が強まり波浪の高まることが予想される状況であった。
A受審人は,5日の出漁が荒天により中止されたため宿舎にいて天気予報をテレビで見ており,係留岸壁周囲で波浪の高まることが予想されたが,同業船が第3ふとうに係留しているから大丈夫と思い,早期に乗組員を招集して安全な海域に錨泊するなど,荒天避難の措置を十分にとることなく係留を続けた。
翌6日A受審人は,新世丸が気になって早朝から2時間おきに見回りを続け,15時00分過ぎ風速が北北西毎秒15メートルまで強まったのを認め,ようやく16時00分ごろ乗組員全員を召集し,17時00分離岸しようとしたが強風のためかなわず,係船索の増締めをしたものの,高まった波を受けて船体が動揺するうち,17時30分新世丸は,小樽港北副防波堤灯台から真方位271度1,680メートルの地点において,左舷後部が岸壁と激突した。
当時,天候は雪で風力8の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,波高は約1.0メートルであった。
その結果,新世丸は,左舷船尾外板に凹損等を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件遭難は,冬季,北海道小樽港において,岸壁係留中,季節風が強まる状況となった際,荒天避難の措置が不十分で,高まった波を受けて船体が動揺したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,冬季,北海道小樽港において,岸壁係留中,季節風が強まる状況となった場合,岸壁周囲で波浪の高まることが予想されたから,早期に乗組員を招集して安全な海域に錨泊するなど,荒天避難の措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同受審人は,同業船が第3ふとうに係留しているから大丈夫と思い,荒天避難の措置を十分にとらなかった職務上の過失により,岸壁との激突を招き,新世丸の左舷船尾外板に凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。