(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月23日11時00分
北海道函館港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十三寳来丸 |
総トン数 |
138トン |
登録長 |
29.71メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
3 事実の経過
第六十三寳来丸(以下「寳来丸」という。)は,昭和54年6月に進水した従業区域が乙区域のいか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で,漁期終了に伴う長期間係船のため,空倉のまま船首1.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成16年2月8日16時00分北海道函館港第1区豊川ふ頭岸壁上のビットに,径50ないし55ミリメートルの合成繊維製係船索を船首に3本,船首スプリングに2本,船尾ブレストに1本,船尾に1本をそれぞれとり,228度(真方位,以下同じ。)を向首して左舷付けし,5月中旬まで係船することとなった。
ところで,豊川ふ頭岸壁は,函館港の南東港奥部にあり,同岸壁の北方には風波を遮るものに乏しく,北寄りの強風波の影響を受けるところであった。また同岸壁側面には,長さ1.5メートル幅0.2メートル厚さ0.2メートルのゴム製防舷材が岸壁上端から下方0.2メートルのところに5メートル間隔で鉛直方向に取り付けられていた。
A指定海難関係人は,B社の専務取締役として,運航管理業務のほか係船管理業務に従事し,船長が休暇下船した休漁期間中の寳来丸についても自ら船舶管理責任者となり,同船の係船地の選定に際し,強風波による影響の少ない岸壁が他の漁船で満杯となって確保できなかったことから,寳来丸を豊川ふ頭岸壁に係船して係船当番要員の機関長と共に無人とした同船の管理に当たることにした。
A指定海難関係人は,北寄りの季節風が卓越する冬季,豊川ふ頭岸壁では寳来丸が強風波の影響を受け,船体動揺により岸壁に当たって損傷するおそれがあったが,寳来丸の船側外板と岸壁縁部との緩衝のため,径0.2メートル長さ1.7メートルの防舷材など12個を左舷側のハンドレールに1.5メートル間隔で吊り下げただけで,同船と岸壁との間隔を十分に確保して船体動揺に効果を発揮する浮上式大型防舷材を準備するなど,強風波の影響に対する対策を十分に行うことなく,時折,機関長と寳来丸を見回り,係船索の緩みや防舷材の当たり具合の調整などを行っていた。
2月23日07時00分A指定海難関係人は,発達した低気圧が津軽海峡を東進して時化模様となることを知り,その後北寄りの風に変わって風勢が増し,08時00分機関長から寳来丸の係船状況が悪化した旨の連絡を受けて係船岸壁に赴いたところ,強風波の影響を受けて船体動揺が激しくなっており,船側に吊り下げた防舷材のみでは,岸壁縁部との衝撃を軽減することが困難な状況となったのを認めたものの,どうすることもできず,寳来丸は,11時00分函館港中央ふ頭南船だまり防波堤灯台から205度1,500メートルの地点において,左舷側中央部が係船岸壁に激突した。
当時,天候は雪で風力8の北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,渡島東部には暴風雪,波浪警報が発表されていた。
その結果,寳来丸は左舷側中央部外板に凹損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件遭難は,冬季,北海道函館港において,船舶管理者が,無人の寳来丸を長期間係船管理する際,強風波の影響に対する対策が不十分で,係船中,船体動揺により係船岸壁に激突したことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が,冬季,北海道函館港において,無人の寳来丸を長期間係船管理する際,同船と岸壁との間隔を十分に確保して船体動揺に効果を発揮する浮上式大型防舷材を準備するなど,強風波の影響に対する対策を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては,勧告しない。