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平成16年長審第60号
件名

旅客船イルカ号乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月18日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:イルカ号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
プロペラ,プロペラ軸及び舵柱にそれぞれ曲損,船尾船底に小破口

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月22日15時00分
 早崎瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 旅客船イルカ号
総トン数 14トン
登録長 11.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 308キロワット

3 事実の経過
 イルカ号は,船体中央部に客室があってその前端上部に操舵室を設け,レーダー,GPS及び魚群探知機を備えた旅客最大搭載人員30人のFRP製旅客船で,A受審人(平成11年7月一級小型船舶操縦士免許取得,同16年3月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が甲板員と2人で乗り組み,旅客9人を乗せ,いるかウオッチングの目的で,船首0.75メートル船尾1.70メートルの喫水をもって,平成16年4月22日14時50分熊本県二江漁港を発し,沖合の早崎瀬戸に向かった。
 ところで,天草下島北岸にある通詞島周辺の海域には,同島北西岸から西方約300メートル及び北方約600メートルにまでそれぞれ干出岩があって,同島の北方約1,000メートルのところに存在する小亀岩灯標から干出岩北端まで南北約400メートル東西約200メートルの海域には,険礁が拡延する状況であった。
 A受審人は,電気設備関係の会社を営むかたわら,平成6年から民宿を経営するようになり,やがて有志が集まって民宿の客を対象としたいるかウオッチングを行うことにし,同8年12月に総トン数約5トンの旅客船を購入しているかウオッチングを始めたところ,乗船客が増加したので,同12年12月にイルカ号を購入した。そして,船内に海図を備え付けないまま同船の運航に従事していたが,小亀岩灯標周辺海域の水路事情を地元の漁業従事者に聞くなどして,水路調査を十分に行っていなかったので,同灯標南西側の海域にまで険礁が拡延していることを知らないまま,時折,付近の海域を無難に航行するうちに,小亀岩灯標周辺約50メートルの海域と通詞島周辺に見える干出岩を替わすようにすれば,付近の海域を無難に航行できるとの認識をもつようになっていた。
 発航後,A受審人は,甲板員を客室で旅客の案内に当たらせ,自らは操舵室で操舵操船に当たって徐々に機関の回転数を毎分1,800の全速力前進に上げ,船首が浮上して船尾が停泊時より約30センチメートル沈下した態勢で通詞島東岸沖合を北上した。
 14時57分半A受審人は,小亀岩灯標から058度(真方位,以下同じ。)800メートルの地点に達したとき,通詞島南西方の海域に数隻の漁船を認め,同業船がいるかウオッチングを行っていると思って同海域に向かうことにし,小亀岩灯標を左舷側に約50メートル離すよう針路を242度に定め,機関を全速力前進にかけたまま,15.0ノットの速力で,手動操舵で進行した。
 14時59分少し過ぎA受審人は,小亀岩灯標から302度50メートルの地点に達したとき,通詞島西岸から延びる干出岩を左舷側に離して航過するよう,針路を208度に転じたところ,同灯標南西側の海域に拡延する険礁に向首する状況となったが,このことに気付かず,前方の漁船を見ながら同じ針路で続航中,15時00分,船尾に衝撃を感じ,イルカ号は,小亀岩灯標から217度350メートルの地点に当たる険礁中の暗岩に,原速力で,208度の針路のまま乗り揚げ,擦過した。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚の結果,イルカ号は,プロペラ,プロペラ軸及び舵柱にそれぞれ曲損並びに船尾船底に小破口を生じて航行不能となったが,観光客にけがはなく,来援した同業船に移乗させたのち,他の同業船に曳航されて熊本県鬼池港に引き付けられ,のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は,早崎瀬戸において,いるかウオッチングを行うに当たり,水路調査が不十分で,小亀岩灯標南西側の海域に拡延する険礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,早崎瀬戸において,単独で操舵操船に当たり,観光客を乗せているかウオッチングを行う場合,小亀岩灯標南西側に拡延する険礁に向首進行することのないよう,地元の漁業従事者に水路事情を聞くなどして,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,小亀岩灯標周辺約50メートルの海域と通詞島周辺に見える干出岩を替わすようにすれば,付近の海域を無難に航行できるものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,同海域に拡延する険礁に向首進行して乗揚を招き,プロペラ,プロペラ軸及び舵柱にそれぞれ曲損並びに船尾船底に小破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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