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平成16年那審第51号
件名

漁船福寿丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田敏,杉崎忠志,加藤昌平)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:福寿丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部外板に破口,船底外板に擦過傷,機器類に濡損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日01時30分
 鹿児島県加計呂麻島東岸
 (北緯28度04.3分 東経129度19.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船福寿丸
総トン数 9.1トン
全長 15.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 301キロワット
(2)設備及び性能等
 福寿丸は,平成3年1月に進水した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,上甲板上には船首側から順に船首倉庫,前部甲板,船室,操舵室及び船尾甲板を配し,船首倉庫の上に船首甲板を,前部甲板の下に魚倉を,船室の下に機関室を,操舵室の下に乗組員居室を,船尾甲板の下に物入れ庫などをそれぞれ設けていた。
 また,操舵室の前面中央部右舷寄りに舵輪を置き,その右舷側に主機のクラッチレバー及びスロットルレバーを配し,左舷側に魚群探知機及びGPSプロッターを備えていた。そして,同室の船首側に隣接する船室には,右舷側の側壁に沿って取り付けた棚上に船首側から順に2基のレーダーと操舵装置の操作盤をそれぞれ左舷方に向けて置き,後壁に無線機などを備え,左舷側の側壁に沿って寝台を設けていた。
 操舵装置は,B社製の航法援助対応全方位オートパイロットCB−87と称するもので,その操作盤上の中央に状態表示画面などが,左側に操舵方法設定つまみなどが,右側に針路設定つまみなどがそれぞれ配置されていた。
 その操舵装置には,舵輪による手動操舵,遠隔管制器による遠隔操舵,操舵方法設定つまみを切り替えたときの船首方位で保針する自動操舵(以下「自動A」という。),針路設定つまみで設定した針路で保針する自動操舵(以下「自動B」という。)及びGPSプロッターなどで設定した目的地に向かう自動操舵(以下「航法」という。)の各操舵方法が装備されていた。そして,上記の順に時計回りに配置されたいずれかの操舵方法を操舵方法設定つまみで選択すると,状態表示画面にその操舵方法,船首方位,設定針路及び舵角などの諸情報を表示するようになっており,また,自動Bに切り替えた際に急激な回頭を防止する調整も施されていた。
 福寿丸は,機関を毎分回転数1,200にかけた約8ノットを航海速力とし,同回転数600にかけた約3ノットを極微速力としていた。

3 事実の経過
 福寿丸は,A受審人が1人で乗り組み,まぐろ旗流し漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって,平成16年5月17日21時30分鹿児島県奄美大島古仁屋港を発し,前示の漁場に向かった。
 A受審人は,手動操舵により大島海峡を東行し,22時05分皆津埼灯台から261度(真方位,以下同じ。)0.8海里の地点に至ったところで,前示浮魚礁の西方1.7海里の地点を目的地と定めてGPSプロッターに入力し,操舵方法設定つまみを航法に切り替え,機関を全速力前進にかけたところ,折からの風潮流により6度右方に圧流されながら170度の進路及び8.2ノットの対地速力となって進行した。
 A受審人は,23時05分皆津埼灯台から175.5度8.2海里の地点に差し掛かったとき,2.5海里に設定していたレーダーの見張り警報機能が作動して警報音が鳴ったため,同機能のスイッチを切るとともに右舷船首方に北上する他船(以下「北上船」という。)の灯火を認め,その見え具合から同船と著しく接近するおそれがある態勢と判断し,北上船を避けるつもりで操舵方法設定つまみを手動操舵に戻すとともに機関の毎分回転数を600に減じ,そのクラッチレバーを中立にして停留した。
 A受審人は,その後西南西方にゆっくりと流されながら北上船の動向を見守り,23時15分皆津埼灯台から176.5度8.3海里の地点に達したとき,自船の船首方約1海里のところを航過した同船が左舷正横付近に至ったため,機関のクラッチレバーを前進側に入れて発進し,増速しないまま操舵方法設定つまみを航法に切り替えることとした。
 A受審人は,船室に移動して操舵方法設定つまみを操作したものの,そのつまみが指し示す操舵方法も,状態表示画面に表示された諸情報も確認しなかったため,自動Bを選択していることに気付かず,レーダーの見張り警報機能のスイッチを入れるつもりで3マイルレンジとしたレーダー画面に目を移したところ,同警報の範囲内にいる北上船のほかに船舶らしき映像が見当らないことを知り,同船が同範囲外に遠ざかるまでのしばらくの間,寝台に入って待つこととした。
 このとき,A受審人は,出漁が続いていたうえに朝から漁具の手入れなどを行っていたため,やや疲労を感じており,くつろいだ姿勢をとると居眠りに陥るおそれがあったが,北上船のほかに船舶らしきレーダー映像が見当らなかったうえに操舵方法を航法に切り替えたつもりでいたことから,目的地に向けて無難に航行するものと思い,操舵室に戻って見張りに当たるなどの居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった。
 こうして,A受審人は,寝台に入って横になった姿勢でレーダー画面を見ていたものの,福寿丸がゆっくりと回頭を続け,北上船を右舷方に見る状況となっていたことも,針路設定つまみで設定していた350度に向いたことにも気付かず,その後北上船が2海里に遠ざかったことをおぼろげに知ったものの,間もなく居眠りに陥った。
 A受審人は,折からの風潮流により左方に17度圧流されながら2.9ノットの対地速力となって北上し,翌18日01時10分皆津埼灯台から212度3.9海里の地点に差し掛かったとき,船首方約1海里のところに加計呂麻島東岸にある集落の明かりを視認でき,同島東岸沖の裾礁域に乗り揚げるおそれがあることを判断できる状況となっていたものの,依然として居眠りをしていたため,この状況に気付かず,福寿丸は,01時30分皆津埼灯台から225度3.5海里の地点において,原針路,原速力のまま,加計呂麻島東岸の裾礁域外縁部に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力3の北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は,乗揚の衝撃で目覚め,直ちに機関のクラッチを中立にするとともに周囲を見渡し,加計呂麻島東岸の裾礁域外縁部に乗り揚げたことを知り,船首から重さ40キログラムの錨を入れて船固めをしたのち,救助を依頼した。
 福寿丸は,その後東方から寄せる波高約1.5メートルの波浪を受けて錨索が切断し,陸岸に打ち上げられたものの,同日午後来援した僚船等により引き下ろされ,古仁屋港に曳航された。
 乗揚の結果,船首部外板に破口を,船底外板に擦過傷を,機器類に濡損をそれぞれ生じたものの,その後いずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 操舵方法の選択において航法と自動Bが隣り合わせであったこと
2 出漁が続いたうえに朝から漁具の手入れなどを行っていたため,やや疲労を感じていたこと
3 操舵方法を航法に切り替えたつもりでいたが,自動Bになっていたこと
4 操舵方法設定つまみが指し示す操舵方法も,状態表示画面に表示された諸情報も確認しなかったこと
5 北上船のほかに船舶らしきレーダー映像が見当たらなかったこと
6 レーダー画面を見ていたものの350度に向いたことに気付かなかったこと
7 寝台に入って横になった姿勢でいたこと
8 居眠りに陥ったこと
9 加計呂麻島東岸の約1海里手前で同島東岸にある集落の明かりを視認することができたこと

(原因の考察)
 本件乗揚は,漁場に向かうつもりで南下中,他船を避けるために一旦停留し,その後発進したところ,北上する針路となって進行したことにより発生したものであり,その原因について考察する。
 操舵方法の選択において自動Bと航法が隣り合わせであったこと,及び操舵方法を航法に切り替えたつもりでいたが,自動Bになっていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,操舵方法設定つまみが指し示す操舵方法も,状態表示画面に表示された諸情報も確認しなかったこと,レーダー画面を見ていたものの350度に向いたことに気付かなかったこと及びその後間もなく居眠りに陥ったことから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 A受審人が,出漁が続いていたうえに朝から漁具の手入れなどを行っていたため,やや疲労を感じており,寝台に入って横になるなどのくつろいだ姿勢をとると居眠りに陥るおそれがあることは,予見できたものと認められる。また,加計呂麻島東岸の約1海里手前で同島東岸にある集落の明かりを視認することができたことから,通常の見張りを行っていれば,加計呂麻島東岸の裾礁域外縁部への乗揚を回避する措置をとることができたものと認められる。したがって,北上船のほかに船舶らしきレーダー映像が見当らなかったうえに操舵方法を航法に切り替えたつもりでいたことから,目的地に向けて無難に航行するものと思い,操舵室に戻って見張りに当たるなどの居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,鹿児島県加計呂麻島東岸沖において,漁場に向けて南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,切り替えた操舵方法を確認しないまま居眠りに陥り,同島東岸に向かう針路となって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,鹿児島県加計呂麻島東岸沖において,漁場に向けて南下中,出漁が続いていたうえに朝から漁具の手入れなどを行っていたため,やや疲労を感じていた場合,くつろいだ姿勢をとると居眠りに陥るおそれがあったから,操舵室に戻って見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,航過した北上船のほかに船舶らしきレーダー映像が見当らなかったうえに漁場に向かう自動操舵方法に切り替えたつもりでいたことから,目的地に向けて無難に航行するものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,その操舵方法を確認しないまま寝台に入って横になった姿勢でレーダー画面を見ているうち,居眠りに陥り,加計呂麻島東岸に向かう針路となっていることに気付かないまま進行し,同島東岸の裾礁域外縁部への乗揚を招き,船首部外板に破口を,船底外板に擦過傷を,機器類に濡損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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