(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月28日05時15分
沖縄県沖縄島宜野湾港沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船ゆりの丸 |
総トン数 |
4.2トン |
登録長 |
9.09メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
ゆりの丸は,延縄漁業などに従事するFRP製漁船で,平成7年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,出漁に備えて砕氷を積み込む目的で,船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,同16年5月28日05時03分沖縄県沖縄島西岸に位置する宜野湾漁港を発し,その南西方約1.3海里のところにある同県牧港漁港に向かった。
ところで,ゆりの丸は,船首から順に船首甲板,前部甲板,機関室,船室,後壁のない操舵室及び船尾甲板を配していた。そして,船体中央部にある船室内には,前面の棚上中央部にレーダーを,右舷側の棚上にGPSプロッターをそれぞれ船尾方に向けて置き,船室の船尾側に隣接する操舵室には,前面の中央に舵輪を配し,その右舷側に磁気コンパスを置き,右舷側の側壁後端付近に主機のクラッチレバー及びスロットルレバーを取り付け,その下に操舵装置の遠隔管制器を掛けていた。
また,A受審人は,宜野湾漁港から牧港漁港に向けて数多く航行したことがあったため,両漁港の中間付近にある宜野湾港の沖には裾礁域(以下「宜野湾港沖裾礁域」という。)が大きく張り出していることも,ゆりの丸に備えていたGPSプロッター用海岸線データカードでは,その画面に等深線などを表示することができないことも承知していた。
このため,A受審人は,宜野湾漁港から牧港漁港に向かうときには,宜野湾漁港の北西方約650メートルに当たる,宜野湾港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から040.5度(真方位,以下同じ。)1,700メートルの地点に敷設された私設の紅色円柱灯浮標を左舷側に見て大きく左転したのち,牧港漁港入口沖の南西方約0.7海里のところにある空寿埼付近の建物を船首目標にして宜野湾港沖裾礁域の外縁部から約50メートル沖を南西進し,同入口沖に敷設された私設の緑色紡錘(ぼうすい)形灯浮標付近で左転して牧港漁港に入航するようにしていたので,南西進時の針路が233度であることまでは把握していなかった。
A受審人は,離岸したのち,操舵室付近の右舷側外部通路に立って操船に当たり,前示の円柱灯浮標に差し掛かったとき,日出前の薄明時のうえに折から靄(もや)がかかり,空寿埼付近の船首目標などが視認できないことを知ったため,宜野湾港沖裾礁域の外縁部に著しく接近することがないよう,GPSプロッターに記録させていた自船の航跡(以下「自航跡」という。)に沿って航行することとし,レーダーを起動することなく,いつものように同灯浮標を左舷側に見て左転を始めた。
こうして,A受審人は,05時09分わずか前北防波堤灯台から040度1,700メートルの地点で,船首が牧港漁港入口沖付近に向く状況となったとき,自船の位置マークがほぼ自航跡の上に位置しているのを認め,直ちに舵を中央に戻し,その後左転が止まって直進状態となったところでそのまま針路を225度に定め,機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は,自航跡から左方に偏位すると宜野湾港沖裾礁域の外縁部に著しく接近するおそれがあることを承知していたが,自航跡に沿って南西進するようにしたつもりでいたことから,同外縁部に著しく接近することはないものと思い,その後船位の確認を十分に行うことなく,前示の通路に立って前路の見張りなどに当たっていたため,自船の位置マークが南西進するにつれて次第に自航跡から左方に偏位する状況となっていたことに気付かないまま続航した。
A受審人は,折から穏やかな海面状態のために宜野湾港沖裾礁域の外縁部に砕け波などが生じていない状況下,05時15分少し前北防波堤灯台から031度620メートルの地点で,2メートル等深線を通過して浅所域に侵入したことにも気付かないまま進行し,ゆりの丸は,05時15分北防波堤灯台から029.5度560メートルの地点において,同裾礁域の外縁部に原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の東南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で日出時刻は05時38分であった。
A受審人は,衝撃を感じるとともに船体が停止したことから,乗り揚げたことを知り,主機のクラッチを中立位置に戻して損傷などを確認しているうち,船体の傾斜が増大する状況となったため,父親に救助を依頼した。こうして,ゆりの丸は,同日12時30分来援した僚船により上げ潮期を利用して引き下ろされ,その後自力で宜野湾漁港に戻った。
乗揚の結果,船底外板に亀裂を伴う小破口及び擦過傷などを生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,日出前の薄明時のうえに折から靄がかかった状況下,沖縄県沖縄島西岸にある宜野湾港沖裾礁域の外縁部近くを南西進する際,船位の確認が不十分で,同外縁部に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,日出前の薄明時のうえに折から靄がかかった状況下,沖縄県沖縄島西岸にある宜野湾港沖裾礁域の外縁部近くを南西進する場合,同外縁部に著しく接近することのないよう,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,GPSプロッターの画面に表示させた自航跡に沿って南西進するようにしたつもりでいたことから,同航跡から左方に偏位して宜野湾港沖裾礁域の外縁部に著しく接近することはないものと思い,その後船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,自船の位置マークが南西進するにつれて自航跡から左方に偏位する状況となっていたことに気付かないまま進行して乗揚を招き,船底外板に亀裂を伴う小破口及び擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。