(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月22日10時50分
福岡県倉良瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船宝生丸 |
総トン数 |
187トン |
登録長 |
47.61メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
宝生丸は,専ら大分港から九州西岸及び瀬戸内海の各港へ鋼材を輸送する鋼製貨物船で,A受審人ほか1人が乗り組み,空倉のまま,海水バラスト100トンを積載し,船首0.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成16年10月21日19時25分熊本県長洲港を発し,大分港に向かった。
ところで,A受審人は,航海当直を,機関長と2人で適宜当たることとしていたものの,長洲港への途上,同月18日21時15分台風避難のため佐世保港に入港し,21日明け方まで船橋で仮眠をとりながら停泊当直に当たり,同日15時50分長洲港に入港して揚荷を終えた後出港したもので,この間,連続した睡眠をとることができなかった。
発航後,A受審人は,船橋当直を機関長に任せ,2時間半ほど休息して22日00時ごろ平戸瀬戸通過のため昇橋し,02時30分同瀬戸を通過して再び機関長に同当直を委ねて4時間ばかり睡眠をとったものの,同受審人は多少睡眠不足気味となっていた。
A受審人は,07時30分ごろ佐賀県姫島北方沖合で船橋当直を引き継ぎ,引き続き機関を全速力前進に掛けて9.5ノットの対地速力で東行し,09時43分筑前相ノ島灯台から325度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で,針路を040度に定め,操舵室右舷側に置かれた椅子に腰を掛け,目視による見張りを行いながら自動操舵で進行し,10時38分一ノ瀬灯浮標を右舷側600メートルばかりで並航したことを確認した。
10時39分A受審人は,倉良瀬灯台から203度1.9海里の地点に達したとき,天候が良く海上も穏やかで周囲に他船も見えず,多少睡眠不足気味であったことから眠気を覚えたが,転針地点が近いので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,立ち上がって窓を開け外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとらなかった。
宝生丸は,A受審人がいつしか居眠りに陥り,10時45分転針地点に達したものの,転針が行われないまま続航中,10時50分倉良瀬灯台から139度1,100メートルの地点において,原針路,原速力のまま地ノ島北西方の浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で,風力3の北風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,船底外板全般に亀裂を伴う凹損を生じたが,引船によって引き下ろされ,のち,修理された。
(原因)
本件乗揚は,関門海峡に向かう予定で倉良瀬戸を通航する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,地ノ島北西岸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,単独で船橋当直に当たり,関門海峡に向かう予定で倉良瀬戸を通航中,眠気を覚えた場合,居眠り運航とならないよう,立ち上がって窓を開け外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,転針地点が近いので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,予定の転針を行わないまま,地ノ島北西岸の浅礁に向首進行して乗揚を招き,船底外板全般に亀裂を伴う凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。