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平成16年門審第111号
件名

貨物船れきお乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,清重隆彦,寺戸和夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:れきお船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:れきお二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
キール及び船底外板に凹損,プロペラ翼に曲損などの損傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月22日03時30分
 那覇港北方沖合
 (北緯26度17.7分 東経127度43.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船れきお
総トン数 4,945トン
全長 119.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 7,060キロワット
(2)設備及び性能等
 れきおは,平成2年5月にC社で進水した船尾船橋型の鋼製ロールオンロールオフ及びコンテナ運搬船で,大阪,博多及び那覇各港間を1週間で巡る定期航路に就航していた。
 同船は,スターンスラスタ及び可変ピッチプロペラを装備し,船橋楼前方の上甲板下にコンテナ貨物倉を,同楼後方の上甲板に車両搭載スペースをそれぞれ設けており,同楼最上部の操舵室には,中央部に操舵スタンドがあり,その右舷側に主機遠隔操縦装置が組み込まれたコンソールスタンド,左舷側にレーダー2台がそれぞれ配置され,右舷後部にある海図室にはGPSが設置されていた。また,船首端から船橋前面までの長さは約75メートルあり,当時の眼高は約17メートルで,同室から前方の視界を遮る構造物はなかった。

3 事実の経過
 れきおは,A受審人及びB受審人ほか10人が乗り組み,コンテナ及びシャーシ835トンを積み,船首4.56メートル船尾5.57メートルの喫水をもって,平成16年1月20日21時10分博多港を発し,那覇港に向かった。
 ところで,A受審人は,那覇港では24時間荷役が可能であったところ,前回の入港時から荷受業者が変わり,23時から翌日04時にかけては荷役が行われなくなったため,同港への到着が早くなりそうな場合には時間調整を行うこととしていた。
 A受審人は,博多港出港時,自船の航海速力では時間調整が必要になるものと判断し,当直航海士に対し,04時00分に同港唐口沖に至るよう時間調整を行うことを指示したものの,当時の海象では1時間を超える調整が必要であることを予測できたが,同調整を行う場合,減速措置が望ましいことや,海図に当たって減速開始地点を示すなど,減速に関わる具体的指示を行うことも,不安を感じたときには知らせるように指示することもしなかった。
 翌々22日00時00分B受審人は,沖縄県伊是名島西方沖合約6海里の地点で,前直の三等航海士から1時間20分ばかりの時間調整が必要である旨の引継ぎを受けたのち,甲板手とともに船橋当直に就き,引き続き機関を全速力前進にかけ,約18ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により南下した。
 B受審人は,強い北西風が吹き波浪も高く,船体動揺が激しかったことから,このような状況下に針路変更のみで時間調整を行うことに不安を感じたものの船長に知らせることなく,01時40分残波岬北西方約12海里の地点から時間調整を開始し,針路を船体動揺の少ない南西方向と南東方向に交互に転じながら同じ速力で進行した。
 02時45分B受審人は,神山島灯台から307度(真方位,以下同じ。)7.1海里の地点に達したとき,針路を宜野湾市の海岸に向く100度に定め,17.7ノットの速力で続航した。
 ところで,A,B両受審人は,那覇港入港経験が10回ばかりあったことから,宜野湾市の海岸西方には,海岸から約2海里沖合にかけて水深5メートル以下の浅礁が拡延していることなど同港周辺の水路事情を把握していた。
 02時55分A受審人は,那覇港入港予定時刻に近づいたことから入港操船指揮に備えて昇橋し,概略の船位を確認するとともに,B受審人から針路を宜野湾市の海岸に向けている旨の報告を受けたのち,引き続き同人に操船を任せて操舵室の左舷扉近くの椅子に腰を掛け,前方の見張りに当たった。
 03時10分B受審人は,神山島灯台から028度3.4海里の地点で6海里レンジとしたレーダーにより船位を確認し,同時20分神山島灯台から061度5.2海里の地点に至り,甲板手を手動操舵に就かせたとき,宜野湾市の海岸西方の浅礁域まで2.5海里ばかりとなっており,転針するべき状況となっていたが,同市の街灯りまで遠いように感じたことから,浅礁までまだ余裕があると思い,04時に港外到着となるよう,那覇港唐口沖への転針時機の目安としていた那覇港中央灯浮標(以下「中央灯浮標」という。)の距離をレーダーで測定することに気をとられ,船位の確認を十分に行わなかったので,同浅礁に著しく接近していることに気づかなかった。
 このころ,A受審人は,時折椅子から立ち上がって前面の窓まで移動し,前方を見て宜野湾市の街灯りが近いように感じたものの,B受審人がレーダーを見ながら操船に当たっている様子から,船位を確認しているものと思い,転針時機を決められるよう,自らレーダーで同市の海岸までの距離を測定するなどして船位の確認を十分に行わなかったので,転針すべき頃合になっていることや,浅礁に著しく接近していることに気づかなかった。
 B受審人は,機関室に入港30分前の連絡をしたのち,03時29分半わずか過ぎ針路を那覇港唐口沖に転じるため甲板手に右舵7度続いて右舵15度を命じ,右転が始まったころ,03時30分浜川港第2号灯標から232度2.0海里の地点において,れきおは,船首が110度に向いたとき,原速力のまま,宜野湾市の海岸西方に拡延する浅礁に乗り揚げ,これを乗り越えた。
 当時,天候は曇で風力7の北西風が吹き,波浪が高く,潮候は上げ潮の中央期にあたり,東シナ海南部に海上強風警報が発表されていた。
 A受審人は,船底に衝撃を感じて乗り揚げたことを知り,直ちに操船指揮を執り,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,キール及び船底外板に凹損を,プロペラ翼に曲損を,舵板及びラダーストックに損傷をそれぞれ生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 れきお
(1)時間調整を行う必要があったこと
(2)A受審人が,当直航海士に対し,時間調整を行う場合,減速措置が望ましいことや,海図に当たって減速開始地点を示すなど,減速に関わる具体的指示を行わなかったこと
(3)A受審人が,当直航海士に対し,当直中に不安を感じたときには知らせるよう指示しなかったこと
(4)B受審人が,しけ模様の状況下で時間調整を行うことに不安を感じたとき,船長に知らせなかったこと
(5)B受審人が,しけ模様の状況下において減速による時間調整の措置をとらなかったこと
(6)B受審人が,宜野湾市の海岸に向かう針路としたこと
(7)A受審人が,レーダーで宜野湾市の海岸までの距離を測定するなど自らも船位の確認を十分に行わなかったこと
(8)B受審人が,転針時機の目安としていた中央灯浮標までの距離の測定に気をとられていたこと
(9)B受審人が,浅礁までまだ余裕があると思い,レーダーで宜野湾市の海岸までの距離を測定するなど船位の確認を十分に行わなかったこと
2 気象
(1)強い北西風が吹き,波浪が高かったこと

(原因の考察)
 れきおは,時間調整のため針路を宜野湾市の海岸に向けて進行中,船位の確認を十分に行っていれば前方の浅礁に著しく接近することなく転針することができたものであり,本件は発生しなかったと認められる。
 したがって,A受審人が,自ら船位の確認を十分に行わなかったこと及びB受審人が,浅礁までまだ余裕があると思い,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,当直航海士に対し,時間調整を行う場合,減速措置が望ましいことや,海図に当たって減速開始地点を示すなど,減速に関わる具体的指示を行わなかったこと及び当直中に不安を感じたときには知らせるよう指示しなかったこと並びにB受審人が,しけ模様の状況下において減速による時間調整の措置をとらなかったこと,しけ模様の状況下で時間調整を行うことに不安を感じたとき,船長に知らせなかったこと,宜野湾市の海岸に向かう針路で進行したこと及び転針時機の目安としていた中央灯浮標までの距離の測定に気をとられていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 時間調整を行う必要があったことは,減速航行するなどの時間調整の措置をとることにより,陸岸に著しく接近するような針路をとることもなく安全な沖合を航行することが可能であり,また,強い北西風が吹き,波浪が高かったことは,時間調整のための針路の選定に制約を与える要因となったものの,冬季の典型的な気圧配置による気象状況であり,特段の異常気象とは言えず,これらはいずれも本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,那覇港北方沖合において,時間調整の目的で宜野湾市の海岸に向けて進行中,船位の確認が不十分で,同海岸西方に拡延する浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,那覇港北方沖合において,同港への入港予定時刻が近づいたことから昇橋し,時間調整の目的で宜野湾市の海岸に向けて進行する場合,同海岸西方に浅礁が拡延しているのを知っていたのであるから,同浅礁に著しく接近することのないよう,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,当直航海士がレーダーを見ながら操船に当たっていたことから,同航海士が船位を確認しているものと思い,自ら船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同浅礁に著しく接近していることに気づかずに進行して,同浅礁への乗り揚げを招き,キール及び船底外板の凹損,プロペラ翼の曲損並びに舵板及びラダーストックの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,那覇港北方沖合において,時間調整を行う目的で宜野湾市の海岸に向けて進行する場合,同海岸西方に浅礁が拡延しているのを知っていたのであるから,同浅礁に著しく接近することのないよう,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,前方の同市の街灯りまでまだ遠いように感じたことから,同浅礁までまだ余裕があると思い,転針時機の目安としていた中央灯浮標までの距離の測定に気をとられ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同浅礁に著しく接近していることに気づかずに進行して,同浅礁への乗り揚げを招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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