(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月25日00時35分
関門港下関区小瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七泰世丸 |
総トン数 |
75トン |
登録長 |
27.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
500 |
3 事実の経過
第七泰世丸(以下「泰世丸」という。)は,沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,A受審人ほか9人が乗り組み,操業の目的で,船首2.5メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,対馬西方の漁場に向かうこととし,平成16年9月25日00時25分山口県下関(本港)漁港の魚市場前の岸壁を発した。
ところで,A受審人は,発航するにあたって,同漁港の出入水路となっている小瀬戸は入口付近の浅所以外に浅いところはないから大丈夫と思い,同瀬戸の当時の潮汐を調べるなどの水路状況の調査を行っていなかった。
A受審人は,発航時から単独で操船に当たり,機関を微速力前進にかけ,6.0ノットの対地速力で小瀬戸に沿って,手動操舵により同瀬戸に向かった。
00時34分少し過ぎA受審人は,小瀬戸導灯(前灯)から008度(真方位,以下同じ。)440メートルの地点に達したとき,右舷船首方390メートルばかりのところに,紅色舷灯と白色灯を表示した他船を視認したので,同船と左舷を対して航過するつもりで,右舵を数秒間とって船首を右に振ったのち,小角度の左舵をとり,陸岸に接近して航行することとした。
このときA受審人は,以前から右舷前方の根岳ノ岬の東側にある造船所のドックの水際から海中に向かって船舶上下架用のレールが延びていることを知っており,その約10メートル沖を通航することとしたものの,付近水域は01時16分が低潮時となっており,レールに著しく接近することは危険な状況であったが,このことに気付かなかった。
こうして,A受審人は,前示の水際から10メートルほど離す予定で,徐々に左転しながら,同速力で続航中,00時35分小瀬戸導灯(前灯)から350度370メートルの地点で,泰世丸は,原速力で180度を向首したとき前示のレールに乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,泰世丸は,僚船により引き下ろされ,自力で発航港に戻ったが,両舷ビルジキール,推進器翼に曲損を生じ,造船所の上架レールに曲損を生じた。
(原因)
本件乗揚は,夜間,関門港下関区小瀬戸を操業の目的で出航中,水路調査が不十分で,浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,関門港下関区小瀬戸を操業の目的で出航する場合,同瀬戸が屈曲した狭い水路であり,行き会い船との遭遇時に陸岸に寄せることがあったから,無難に航過できるよう,同瀬戸の潮汐を調べるなどの水路状況の調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,同瀬戸は入口付近の浅所以外に浅いところはないから大丈夫と思い,水路状況の調査を十分に行わなかった職務上の過失により,低潮時に同瀬戸沿いにある造船所の海中に向けて設置されたレールの水際から約10メートルまで接近して進行し,同レールに乗揚を招き,自船のビルジキール,推進器翼及び同レールに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。