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平成16年広審第75号
件名

旅客船ななうら丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,佐野映一)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:ななうら丸船長 海技免許:二級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:C社運航管理者
補佐人
D,E,F(受審人A及び指定海難関係人B各選任)

損害
右舷船首部船底外板に破口,亀裂及び凹損,旅客6人が打撲傷などの負傷

原因
船位確認不十分,運航管理者が安全運航について指導不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 運航管理者が,団体臨時運航便の安全運航についての指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aの二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月12日11時45分
 広島湾宮島瀬戸
 (北緯34度16.3分 東経132度20.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船ななうら丸
総トン数 196トン
全長 31.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
(2)設備及び性能等
 ななうら丸は,昭和61年11月に進水した平水区域を航行区域とする旅客船兼自動車渡船で,3時間未満の航路で車両を搭載しない場合の最大搭載人員は675人で,可変ピッチプロペラを装備し,上方から順に船橋甲板,客室甲板及び車両甲板を有し,船橋甲板船首部に操舵室を,車両甲板船首部にランプウェイドアを配置し,C社の定期航路である広島県佐伯郡大野町の宮島口桟橋と同郡宮島町の宮島桟橋とを結ぶ宮島航路に就航していた。
 操舵室は,前側中央部に舵輪及び主機操作レバーなどを組み込んだ操船コンソールが設置され,その左舷側にレーダー及び客室等監視用モニター,正面窓外側にマグネットコンパスがそれぞれ備えられていた。

3 海から詣でる厳島七浦巡り
 海から詣でる厳島七浦巡り(以下「七浦巡り」という。)は,C社の関連会社が企画し,宮島にある杉ノ浦,鷹ノ巣浦,腰細浦,青海苔浦,山白浦,須屋浦及び御床浦などに建てられている各神社を船で巡って海上から参拝するツアーで,平成16年5月28日から6月17日にかけて計5回計画されており,海上運送法第20条第2項の人の運送をする不定期航路事業,いわゆる団体臨時運航便にあたり,一定の航路を所轄官庁に届け出る必要がなかった。

4 腰細浦の水路状況
 腰細浦は,宮島南岸東部に位置し,同浦の東岸端から南東方約90メートルのところに洗岩及び同洗岩南方約30メートルのところに最低水面上の高さ0.3メートルの干出岩が存在しており,同干出岩から西方約170メートル及び腰細浦神社から南方約210メートルのところから,一連となった2台のかき養殖筏(以下「筏」という。)が南方に向けて設置されていた。

5 B指定海難関係人の指導模様
 B指定海難関係人は,一定の航路が定められていない団体臨時運航便である七浦巡りを行うに当たり,宮島周辺には多数の筏が設置され,浅礁が存在していたにもかかわらず,各船長は経験豊富で宮島周遊航海に慣れていることから,わざわざ指導するまでもないものと思い,各船長と綿密な打ち合わせを行い,航行経路や航行の障害となるものの位置を確認するなどして安全運航について指導を十分に行わなかった。

6 事実の経過
 ななうら丸は,A受審人,機関長及び一等機関士が乗り組み,旅客125人及び観光ガイドなどの関係者11人を乗せ,船首1.66メートル船尾2.28メートルの喫水をもって,平成16年6月12日11時00分宮島口桟橋を発し,4回目の七浦巡りに向かった。
 ところで,A受審人は,腰細浦沖合の干出岩などの存在を知っていたので,発航に先立って潮汐表によって調査を行い,正午ころが低潮時にあたるものの同干出岩は水面上に現れないことを知っていたが,レーダーを活用して同干出岩に対する避険線を設定していなかった。
 こうして,A受審人は,発航から自ら操舵操船に当たり,厳島神社大鳥居及び聖埼沖合を航過し,杉ノ浦及び包ヶ浦両神社を参拝し,11時30分安芸絵ノ島灯台から286度(真方位,以下同じ。)1,000メートルの地点で,針路を181度に定め,機関を回転数毎分346にかけてプロペラ翼角を12度とし,7.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,一等機関士を手動操舵に当たらせ,自らは舵輪右側に置いてあるいすに腰掛けて進行した。
 11時37分A受審人は,安芸絵ノ島灯台から217度1,650メートルの地点に達したとき,針路を鷹ノ巣浦神社沖合に向首する252度に転じ,その後減速しながら同神社を参拝し,同時41分半宮島233メートル頂から103度800メートルの地点で,針路を更に182度に転じ,翼角5度の5.0ノットの速力とし,一等機関士に対し,腰細浦の陸岸から125メートルばかり沖合には干出岩が存在するから,陸岸から180メートルばかりのところで右転して筏と腰細浦陸岸との間に向かい,筏に近寄って西行するよう指示して続航した。
 11時44分少し前操舵中の一等機関士は,右舷側の腰細浦陸岸近くの岩を見て,「右舷側に岩が見える。」とA受審人に報告した。
 11時44分A受審人は,宮島233メートル頂から131度1,020メートルの地点に達したとき,その報告を聞いて右転することとしたが,腰細浦沖合の干出岩は水面上に現れないことを失念していたことから,報告のあった岩を同干出岩と勘違いし,同干出岩が見えたのであれば乗り揚げることはないものと思い,同干出岩に著しく接近しないよう,いすから立ち上がって同報告を確認したり,0.5海里レンジとしていたレーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うことなく,その岩を十分離して右転するよう一等機関士に指示し,操舵室右舷後方にある海図台に赴いた。
 こうして,ななうら丸は,一等機関士が筏と腰細浦陸岸の間に向けて転針し,A受審人が海図を見ているとき,11時45分宮島233メートル頂から136度980メートルの地点において,船首を267度に向け,5.0ノットの速力で水面下の干出岩に乗り揚げ,これを擦過した。
 当時,天候は晴で風はなく,潮候は低潮時で,潮高は1.06メートルであった。
 乗揚の結果,右舷船首部船底外板に破口,亀裂及び凹損を生じ,旅客6人が打撲傷などを負った。
 A受審人は,機関室に浸水したものの,防水や排水作業を行わせながら自力で宮島沖を時計回りに航行を続け,12時50分宮島北岸の網ノ浦桟橋に着桟し,旅客全員を下船させた。

7 事後の措置
 B指定海難関係人は,見張り及び船位確認を十分に行うこと並びにレーダーを適切に活用することなどを徹底するため,社内再発防止対策会議,団体臨時運航に伴う協議会及び外部講師などによる安全運航研修会を開催し,臨時運航の際には海図の3メートル等深線内には進入しないこと及びレーダーを新機種に換装するなどの再発防止措置を講じた。

(本件発生に至る事由)
1 B指定海難関係人が,安全運航についての指導を十分に行わなかったこと
2 A受審人が,腰細浦沖合の干出岩についての避険線を設定していなかったこと
3 A受審人が,いすに腰掛けたこと
4 一等機関士が「右舷側に岩が見える。」とA受審人に報告したこと
5 A受審人が,腰細浦沖合の干出岩が水面上に現れないことを失念して報告のあった岩を同干出岩と勘違いしたこと
6 A受審人が,船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,団体臨時運航便である宮島周遊航海の際に干出岩に乗り揚げたものである。
 A受審人が船位の確認を十分に行わなかったことは,腰細浦沖合の干出岩の近くを航行していることを分かっており,レーダーも設備されていたのであるから,同干出岩に著しく接近しないよう,船位の確認を十分に行うべきであったので,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が団体臨時運航便の安全運航についての指導を十分に行わなかったことは,宮島周辺には多数の筏が設置され,浅礁も存在し,一定の航路が定められていなかったのであるから,船長と綿密な打ち合わせを行い,航行経路や航行の障害となるものの位置を確認するなどして安全運航についての指導を十分に行うべきであったので,本件発生の原因となる。
 A受審人が,腰細浦沖合の干出岩についての避険線を設定していなかったこと,いすに腰掛けたこと,同干出岩が水面上に現れないことを失念して報告のあった岩を同干出岩と勘違いしたことは,いずれも船位の確認を十分に行わなかった態様である。
 一等機関士が「右舷側に岩が見える。」とA受審人に報告したことは,同受審人が前示勘違いした背景である。
 ところで,本件発生後に宮島沖を時計回りに航行して宮島北岸の網ノ浦桟橋に着桟した点について付言すると,発生地点から同桟橋までの航程は約8海里,同地点東方の包ヶ浦桟橋までの航程は約2海里であり,多数の旅客の安全を考慮し,直ちに最寄りの同桟橋に向かうべきであったものと思料される。

(海難の原因)
 本件乗揚は,団体臨時運航便である宮島周遊航海の際,船位の確認が不十分で,水面下の干出岩に向けて転針進行したことによって発生したものである。
 運航管理者が,団体臨時運航便である宮島周遊航海の安全運航についての指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,団体臨時運航便である宮島周遊航海中,同島南岸東部の腰細浦沖合の干出岩が存在する海域で転針する場合,同干出岩に著しく接近しないよう,レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同干出岩は水面上に現れないことを失念していたことから,操舵中の一等機関士から「岩が見える。」との報告を同干出岩が見えたものと勘違いし,同干出岩が見えたのであれば乗り揚げることはないものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,水面下の同干出岩に向けて転針進行して乗揚を招き,ななうら丸の右舷船首部船底外板に破口,亀裂及び凹損を生じさせ,旅客6人が打撲傷などを負う事態に至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,一定の航路が定められていない団体臨時運航便である宮島周遊航海を行う際,船長と綿密な打ち合わせを行い,航行経路や航行の障害となるものの位置を確認するなどして安全運航について指導を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,本件後,社内再発防止対策会議,団体臨時運航に伴う協議会及び外部講師などによる安全運航研修会を開催するなど,再発防止措置を講じたことにより,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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