(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月26日23時00分
大畠瀬戸
(北緯33度57.3分 東経132度10.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船長栄丸 |
総トン数 |
198トン |
全長 |
57.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
長栄丸は,平成9年5月に進水し,専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,前部に1個の貨物倉を有し,貨物倉の下方は二重底で,バラストタンクと一部が燃料タンクになっていた。
また,航海計器としてレーダーとGPSプロッタを設備しており,サイドスラスタを装備していた。
海図は,小縮尺のW1108などを保有しており,大縮尺のW152はなかったものの,代理店に依頼するなどして入手することは可能な状況であった。
3 事実の経過
長栄丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,海水バラスト約300トンを張り,船首1.40メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,平成16年5月26日16時10分関門港小倉区を発し,大畠瀬戸を経由する予定で広島県呉港に向かった。
ところで,A受審人は,前日25日の夕刻,運航会社に電話連絡を行った際,仕向け港を大阪港から呉港に変更し,同月27日01時には荷役を開始する旨を伝えられ,荷役開始時刻に間に合うよう,夜間,大畠瀬戸を東航することとしたが,船内にあった小縮尺の海図W1108だけを見て,同瀬戸に戒善寺礁灯浮標の存在を認め,同灯浮標は安全水域標識のようなので,その右方を無難に航過できるものと思い,浅礁などに接近しないよう,海図W152を入手して精査するなど,水路調査を十分に行わず,同灯浮標が北方位標識で,その南方に沖ノ離岩と呼ばれる浅礁があることに気付かなかったので,同灯浮標の右方を通航する航海計画を立てた。
A受審人は,発航操船に当たったのちしばらく航海士に船橋当直を委ね,17時30分大分県姫島西方で昇橋して単独の同当直に就き,平郡水道を経て大畠瀬戸に接近し,22時51分大畠航路第3号灯浮標の南東方で,大磯灯台から246度(真方位,以下同じ。)1.4海里の地点において,針路を戒善寺礁灯浮標の少し右方に向首する061度に定め,機関を半速力前進にかけ,折からの潮流に乗じ9.2ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
A受審人は,レーダーやGPSプロッタを見て船位を確認しながら見張りに当たり,22時54分ごろ大磯灯台の灯火と戒善寺礁灯浮標の灯火との間隔を狭いと感じたものの,同灯浮標の右方を無難に航過できるものと思っていたので,同じ針路のまま続航し,23時00分長栄丸は,大磯灯台から312度225メートルの地点において,原針路原速力のまま,沖ノ離岩に乗り揚げ,これを擦過した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の中央期で,付近には約2ノットの東流があった。
A受審人は,軽い衝撃を感じ,広い海域でバラストの排水を試みて浸水を認め,事後の措置に当たった。
乗揚の結果,船底外板に亀裂を伴う凹損を生じ,バラストタンクに浸水したが燃料油の流出はなく,自力で造船所に回航し,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,大縮尺の海図W152を保有していなかったこと
2 A受審人が,大畠瀬戸を東航したことがなかったこと
3 A受審人が,水路調査を十分に行っていなかったこと
4 付近には約2ノットの東流があったこと
5 A受審人が,大磯灯台の灯火と戒善寺礁灯浮標の灯火との間隔を狭いと感じたものの,同じ針路のまま続航したこと
(原因の考察)
本件は,夜間,大畠瀬戸を東航するにあたり,あらかじめ代理店に依頼し,海図W152を入手して精査するなど,水路調査を十分に行うことが可能な状況であったうえ,水路調査を行っていれば,戒善寺礁灯浮標が北方位標識で,その南方に沖ノ離岩と呼ばれる浅礁があることに気付くと認められるので,A受審人が,水路調査を十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
したがって,A受審人が,大縮尺の海図W152を保有していなかったこと及び大畠瀬戸を東航したことがなかったことは,水路調査を行うべきとした背景要因であり,本件発生の原因と判断しない。
A受審人が,大磯灯台の灯火と戒善寺礁灯浮標の灯火との間隔を狭いと感じたものの,同じ針路のまま続航したことは,水路調査を十分に行っていなかったことの結果であり,本件発生の原因とならない。
付近には約2ノットの東流があったことは,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,大畠瀬戸を東航するにあたり,水路調査が不十分で,同瀬戸南部の沖ノ離岩に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,大畠瀬戸を東航する場合,同瀬戸の通航経験がなかったのであるから,浅礁などに接近しないよう,大縮尺の海図を入手して精査するなど,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,小縮尺の海図だけを見て,戒善寺礁灯浮標は安全水域標識のようなので,その右方を無難に航過できるものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,同灯浮標が北方位標識で,その南方に沖ノ離岩と呼ばれる浅礁があることに気付かず,沖ノ離岩に向首進行して乗揚を招き,船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせ,バラストタンクに浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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