(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月12日04時20分
岡山県鷲羽山東方海岸
(北緯34度26.1分 東経133度49.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第二十八若栄丸 |
総トン数 |
688トン |
全長 |
72.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
(2)設備及び性能等
第二十八若栄丸(以下「若栄丸」という。)は,平成9年9月に進水し,主として瀬戸内海各港間で砂利を運搬する船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で,バウスラスタと船橋の前方に荷役クレーンを備え,船橋にはレーダー及びGPSを設備し,操舵方法は舵輪のほか主として遠隔操舵用のレバーが使用されており,操舵室後部には自動車のシートを改造した背もたれ付きのいすが設置されていた。また,海上公試運転成績表によると,旋回径が船の長さの2倍で,所要時間が約2分半,最短停止距離が約250メートルで,所要時間が約1分10秒となっていた。
3 事実の経過
若栄丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.5メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年4月12日00時00分徳島県今切港を発し,下津井瀬戸経由予定で,広島県福山港に向かった。
A受審人は,船橋当直体制を,自らを含め一等航海士及び一等機関士の順に,単独3時間交替制としており,発航操船に当たったのち,一等機関士に船橋当直を委ね,03時00分男木島北方で再び昇橋して同人と同当直を交代し,同航船や操業中の漁船がいたことから立ったまま手動で操舵に当たり,宇高東航路付近で備讃瀬戸東航路を離れ,下津井瀬戸に向け西航した。
03時54分A受審人は,大槌島の北方で,犬戻鼻灯標から210度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点において,針路を275度に定め,機関を回転数毎分295の全速力前進にかけ,12.2ノットの対地速力とし,所定の灯火を表示し,舵輪後方に置いたいすに腰掛け,自動操舵に切り替えて進行した。
ところで,A受審人は,前日,朝から息子を連れて山に出かけ,夕食をすませて20時半ごろ帰宅したのち,休息をとらないまま,23時半自宅を出て帰船し,発航操船に当たった。その後,一等機関士に船橋当直を委ねている間,およそ1時間半の仮眠をとっただけであったので,睡眠不足気味になっていた。
定針したときA受審人は,備讃瀬戸東航路を航行中に気にしていた同航船と操業中の漁船を後方にかわし終え,付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなったが,まさか居眠りすることはないものと思い,立って見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,いすに腰掛けた姿勢のまま続航した。
A受審人は,前日の睡眠不足や気の緩みなどからいつしか居眠りに陥り,下津井瀬戸に向け針路が変更されず,岡山県鷲羽山東方の海岸に向首したまま進行し,04時20分久須見鼻灯標から344度630メートルの地点において,若栄丸は,原針路原速力のまま,同海岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
A受審人は,衝撃で目覚め,事後の措置に当たった。
乗揚の結果,船首部船底外板に多数の破口と凹損を生じたが,クレーン船により吊り上げられて離礁し,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,舵輪後方に置いたいすに腰掛けていたこと
2 A受審人が,睡眠不足気味になっていたこと
3 A受審人が,それまで気にしていた同航船と操業中の漁船を後方にかわし終え,付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなったので,気が緩んだこと
4 A受審人が,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(原因の考察)
A受審人が,居眠り運航の防止措置をとって周囲を見張っておれば,船首方に鷲羽山東方の陸地を視認し,針路を変更することが可能であったと認められるので,まさか居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
したがって,A受審人が,舵輪後方に置いたいすに腰掛けていたこと,睡眠不足気味になっていたこと及びそれまで気にしていた同航船と操業中の漁船を後方にかわし終え,付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなったので,気が緩んだことは,居眠りしたことの起因の一部であり,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,下津井瀬戸に向け備讃瀬戸を西航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,鷲羽山東方の海岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,単独で船橋当直に当たり,下津井瀬戸に向け備讃瀬戸を西航中,同航船と操業中の漁船を後方にかわし終え,付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなった場合,いすに腰掛けたままでいると,前日の睡眠不足や気の緩みなどから居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,立って見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,鷲羽山東方の海岸に向首したまま進行して同海岸への乗揚を招き,船首部船底外板に多数の破口と凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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