(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月24日23時55分
高知県室戸岬東側海岸
(北緯33度16.4分 東経134度11.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船益丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
18.02メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
603キロワット |
(2)設備及び性能等
益丸は,平成13年3月に進水したFRP製漁船で,まぐろはえなわ漁,かつお一本つり漁に使われていた。
3 船橋当直体制等
益丸は,A受審人ほか4人の日本人及び2人のインドネシア人が乗り組み,漁場に向かう際の船橋当直は,インドネシア人船員を除く日本人船員5人で,長男の機関長,A受審人,甲板長,次男の機関員及び甲板員の順に単独3時間の輪番制をとっていた。
なお,本件航海で,高知県甲浦港から和歌山県田辺港までの5時間半の航海は,A受審人が単独で船橋当直に当たった。
4 事実の経過
益丸は,平成16年5月24日11時10分甲浦港を発して田辺港に向かい,16時40分同港に入港し,かつお漁の餌となる,活きいわし200キログラムを積み込み,17時10分船首1.35メートル船尾2.40メートルの喫水をもって,操業の目的で田辺港を発し,土佐湾の漁場に向かった。
A受審人は,発航操船の後,17時40分ごろ機関長に船橋当直を行わせ,降橋して食事をし,無線電話で僚船と交信した後,19時ごろ自室で仮眠し,21時00分室戸岬灯台から064度(真方位,以下同じ。)30.3海里の地点で再び昇橋し,機関長から船橋当直を引き継いで単独で当直に当たり,機関を全速力前進にかけ,針路を同灯台のやや北側に向かう,245度に定め,海潮流等によって1度右方に圧流されながら,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
A受審人は,操舵室右舷側に置いたいすに座って見張りに当たっていたところ,21時30分甲浦港から田辺港まで単独で船橋当直に当たった疲れと,寝不足気味であったことから,眠気を感じるようになったが,まさか寝入ってしまうことはないだろうと思い,休息中の乗組員を呼んで補佐させるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航したところ,いつしか居眠りに陥った。
こうして,A受審人は,居眠りを続け,23時30分ごろ室戸岬の南方に向けて転針する予定の地点を通過したことに気付かないまま直進し,23時55分益丸は室戸岬灯台から017度1.6海里の地点の海岸に,原針路,原速力のまま,乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなかった。
乗揚の結果,益丸は,右舷船底外板に破口を生じて機関室に浸水し,のち船体が大破して全損となった。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,甲浦港から田辺港まで単独で船橋当直に当たって疲れており,当直前の睡眠は2時間で寝不足気味の状態でいすに座って見張りに当たっていたこと
2 A受審人が,単独で船橋当直中,眠気を感じるようになったが,まさか寝入ってしまうことはないだろうと思い,休息中の乗組員を呼んで補佐させるなど居眠り運航の防止措置をとらなかったところ居眠りに陥り,海岸に向かって進行したこと
(原因の考察)
A受審人が,夜間,単独で船橋当直中,眠気を感じるようになったとき,まさか寝入ってしまうことはないだろうと思い,休息中の乗組員を呼んで補佐させるなど居眠り運航の防止措置をとらないで居眠りに陥り,海岸に向かって進行したことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,甲浦港から田辺港まで単独で船橋当直に当たって疲れており,当直前の睡眠は2時間で寝不足気味の状態でいすに座って見張りに当たっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,室戸岬東方沖合を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,船橋当直者が,居眠りに陥り,海岸に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,室戸岬東方沖合を西行中,単独で船橋当直中に眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,休息中の乗組員を呼んで補佐させるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか寝入ってしまうことはないだろうと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,海岸に向けて進行して乗揚を招き,益丸を全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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