(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月16日01時22分
徳島県橘湾
(北緯33度52.6分 東経134度42.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船こすも丸 |
総トン数 |
1,599トン |
全長 |
89.91メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
(2)設備及び性能
こすも丸は,平成8年10月に進水した船尾船橋型油送船で,操舵室前面中央窓際にジャイロコンパスリピーター,その後方約1メートルのところに操舵輪,エンジンテレグラフなどを装備したコンソール,コンソールの左舷方にはレーダー2台,その後方に海図台が配置されていた。
当時の喫水で,眼高は約9メートルとなり,船橋前面から船首端まで58.4メートルであった。
3 事実の経過
こすも丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,和歌山県和歌山下津港において,C重油3,000キロリットルを積載し,船首4.75メートル船尾5.98メートルの喫水をもって,揚げ荷の目的で,平成16年6月15日23時00分和歌山下津港を発し,徳島県橘港に向かった。
ところでA受審人は,自船所有海図上に,橘港港界線から約1海里沖合の指定錨地付近に,乗揚のおそれのあるサブコウジ,ノべリバエ,梶取碆などの浅礁海域(以下「浅礁海域」という。)が,色鉛筆で囲んで識別してあることや,浅礁海域北方の,舟磯灯標から204度(真方位,以下同じ。)0.78海里の地点を中心として,半径0.3海里の円内が指定錨地となっていることを知っていた。
こうしてA受審人は,着岸予定が翌日午前中となっていたので,ひとまず橘港指定錨地で投錨待機する予定で,また同錨地までの所要時間が1時間40分程度であったことから,離岸操船に引き続き投錨まで当直に就くこととしていた。
23時25分A受審人は,下津沖ノ島灯台から320度0.7海里の地点において,前示指定錨地円内北方の投錨地点に直航するつもりで,針路を232度に定め,二等航海士及び甲板長を在橋させて,1.0ノットの潮流に乗じ,13.0ノットの対地速力(以下,「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
A受審人は,定針後まもなくして南北方向に航行する大型船を避航しているうち,船位が予定針路線上から左偏し,このまま直航すれば,浅礁海域に向かうおそれがあった。その後甲板長が30分ごとに海図上へ船位を記入し,その報告を受けたものの,ジャイロコンパスリピーター付近で,前方の漁船群などの動静を監視していたことから,海図台に赴いて,船位を確認して浅礁海域に向かっているかどうかを確かめなかった。
翌16日01時06分A受審人は,舟磯灯標から081度2.0海里の地点において,同針路同速力で進行中,船位が予定針路線上から0.7海里左偏し,2.0海里前方の浅礁海域に向かって進行していたが,依然として船位の確認を行っていなかったことから,このことに気付かず,船首方約3海里のところに2隻の錨泊船を認め,その付近が予定投錨地点で,予定針路線上を進行しているものと思い込み,甲板長を船首,一等機関士をテレグラフ操作,二等航海士を手動操舵にそれぞれ就かせて投錨配置とし,減速しながら続航した。
A受審人は,浅礁海域に気付かないまま進行中,01時22分舟磯灯標から163度1.0海里の地点において,同針路,5.8ノットの速力で浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の西風が吹き,潮侯は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船底部左舷外板に破口を伴う凹損を生じたが,破口箇所が機関室及び二重底の海水バラストタンクであったので油流失がなく自力離礁したものの,機関の一部が濡れ損を生じて自力航行できず,積荷を瀬取りしたのち引船の援助により,最寄りの造船所に引きつけられ,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,乗り揚げるまで船位を確認していなかったこと
2 A受審人が,予定針路線から偏位したまま浅礁海域に向かって進行したこと
(原因の考察)
A受審人が,錨地に向かう直航針路として定針したのち,他船を避けるために針路を変更したのであるから,海図上で船位を検討していれば,乗揚のおそれのある浅礁海域に向かっていることを知ることが出来たことは明らかである。
したがって,A受審人が,船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,徳島県橘港沖合の錨地に向かって進行中,船位の確認が不十分で,浅礁海域に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,徳島県橘港沖合の錨地に向けて進行する場合,錨地付近に浅礁海域があったから,同海域に向かうことのないよう,船位を確認すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前方に認めた錨泊船付近が予定錨地であると思い込み,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,浅礁海域に向かって進行して乗揚を招き,船底部左舷外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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