(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月1日11時50分
鳴門海峡
(北緯34度14.4分 東経134度39.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船光陽丸 |
総トン数 |
199トン |
登録長 |
43.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
(2)設備及び性能等
光陽丸は,平成元年6月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする,航海速力10.0ノットの鋼製貨物船で,レーダー1基及びGPSを装備していた。
3 事実の経過
光陽丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,塩酸151.16トンを積載し,船首1.8メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,平成16年7月1日09時40分徳島県今切港を発し,鳴門海峡を経由する予定で香川県坂出港へ向かった。
ところで,A受審人は,出航に先立って鳴門海峡の潮流を調べたところ,大鳴門橋付近に差し掛かるころ,南流の最盛期と重なることが予想されたので,これを避けるため時間調整を行うこととし,今切港長原導流堤灯台を替わし終えたのち,機関を半速力前進として鳴門海峡へ向かったのであった。
また,A受審人は,内航船員としての長い乗船経歴を有していたことから,過去,鳴門海峡を数え切れないくらい通過した経験があったうえ,昼間に通峡する際は,周囲の状況や浅礁などを目視によって確認することが可能であることから,時折,大鳴門橋の中瀬橋脚と門埼間(以下「門埼側水路」という。)の浅礁が点在する狭隘な海域を通過することもあった。
そして,A受審人は,鳴門海峡中央部付近の強潮流域を避けるため,一旦,淡路島の行者埼を船首目標として北上したのち,11時35分門埼灯台から150度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき,門埼側水路を通過する320度の針路に定め,引き続き,機関を半速力前進にかけ,強潮流に抗した6.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
針路を定めたとき,A受審人は,最盛期が過ぎたと言えども,未だ南流が強い時間帯であったことから,圧流されて浅礁に乗り揚げることがないよう,一般船舶が航行する孫埼と中瀬橋脚間(以下「孫埼側水路」という。)の海域へ向かう安全な針路を選定する必要があったが,平素から,当該海域に較べて,門埼側水路は流速が遅いと感じていたことなどから,南流が弱くなる時間帯まで待たなくとも,同水路なら無難に通過できるものと思い,同じ針路,速力のまま続航した。
こうして,A受審人は,その後も,針路の選定を適切に行うことなく進行中,11時45分大鳴門橋直下まで200メートルの地点に至ったとき,折りからの強い南流によって速力が急激に落ちたことから,急きょ,機関を全速力前進にかけたものの,効なく,やがて右舷側に圧流される状況となり,11時50分門埼灯台から235度300メートルの地点において,光陽丸は,船首を北西方に向け,1.2ノットの速力で,その船尾付近が浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,光陽丸は,舵板及び舵頭材に損傷を生じて操舵不能となり,曳船によって坂出港に引き付けられ,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,一般船舶が航行する孫埼側水路へ向かう針路を選定しなかったこと
2 A受審人が,潮流が強い時間帯の通峡を避けなかったこと
(原因の考察)
光陽丸は,一般船舶が航行する孫埼側水路へ向かう針路を選定していたならば,同水路は門埼側水路に較べて広いうえ,浅礁が点在している海域でもないことから,少しばかり圧流されたとしても浅礁への乗り揚げを回避することは,十分に可能であったものと認められる。
したがって,A受審人が,針路の選定を適切に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,潮流が強い時間帯の通峡を避けなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,鳴門海峡において,潮流が強い時間帯に通峡しようとした際,針路の選定が不適切であったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,鳴門海峡において,潮流が強い時間帯に通峡する場合,門埼側水路は浅礁が点在している狭隘な海域であることから,圧流されて浅礁に乗り揚げることのないよう,一般船舶が航行する孫埼側水路へ向かう安全な針路を選定すべき注意義務があった。ところが,同人は,門埼側水路は,孫埼側水路より流速が遅いと感じていたことなどから,潮流が弱くなる時間帯まで待たなくとも無難に通過できるものと思い,孫埼側水路へ向かう安全な針路を選定しなかった職務上の過失により,浅礁が点在している門埼側水路を航行し,強い潮流に圧流されて乗揚を招き,舵板及び舵頭材に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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