(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月28日13時05分
和歌山県田倉埼西岸
(北緯34度15.7分 東経135度03.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボート金龍丸 |
登録長 |
7.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
18キロワット |
(2)設備及び性能等
金龍丸は,昭和54年11月に竣工した最大搭載人員7人のFRP製モーターボートで,船体中央やや後方に操舵室を有し,マグネットコンパス,魚群探知機,電動油圧操舵装置を備えていた。
操舵室は,前面に設置された操縦台の左舷側に舵輪とその後方に操縦席が,操縦台の右下奥は機関室入口でその前面に計器盤が配置され,計器盤には冷却水の温度計,充電メーター,主機回転計が並び,それぞれ警報灯及び警報ブザーで異常を知らせるものであり,また,操舵室から前方の見通しはよかった。
3 事実の経過
金龍丸は,A受審人が1人で乗り組み,同乗者2人を乗せ,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成16年3月28日05時30分和歌山下津港を発し,田倉埼西方2海里沖合で釣りを行ったのち北上し,加太瀬戸の北西方2海里の釣り場に至って再び釣りを行い,12時30分同釣り場を発進し,同瀬戸を南下して田倉埼海岸に接航するいつもの進路で,和歌山下津港に向けて帰途に就いた。
ところで,A受審人は,田倉埼海岸での船釣りや付近を通航した経験から,田倉埼海岸に沿って約100メートルの範囲の水域に点在する岩礁があること,岩礁付近には不規則な潮流があることも知っていたので,潮の干満を見ながら岩礁を約30メートル離す進路で通航していた。
また,A受審人は,金龍丸を購入したとき,業者に整備を任せたまま,計器盤の警報について理解していなかった。
こうして,A受審人は,操縦席に腰掛けて操船にあたり,12時58分半加太港第1防波堤灯台から270度(真方位,以下同じ。)440メートルの地点に達したとき,針路を190度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
13時02分半A受審人は,田倉埼灯台から324度350メートルの地点に達したとき,計器盤の赤色警報灯が点滅していることに気付き減速したものの,警報灯の意味がよくわからず,機関の点検が必要となった際,点検を行うと操舵がおろそかとなって,岩礁との距離を把握できなくなるとともに,潮流に圧流されるおそれがある状況となったが,岩礁から十分に離れているので,いつもの進路で進行しても大丈夫と思い,岩礁から遠ざかるよう沖合に向く適切な針路とすることなく,この状況に気付かず,続航した。
13時03分半A受審人は,田倉埼灯台から280度250メートルの地点に達し,いつものように田倉埼海岸に沿って緩やかに左転して岩礁を30メートル離す針路で進行中,突然警報ブザーが鳴り出したので,慌てて右下の計器に書かれた文字を読むため計器盤をのぞき込んだところ,操舵がおろそかになり,その後潮流に圧流されたものか岩礁に向首することとなり,計器の文字を読み取るうち冷却水温度計の高温警報であることを知ったことから13時04分半機関を中立としたが,依然,計器に気をとられたまま13時05分少し前ふと前方を見て岩礁に気付き,機関を後進にかけたが及ばず,金龍丸は,13時05分田倉埼灯台から215度260メートルの地点において,船首を160度に向け,2.5ノットの速力で岩礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,金龍丸は,舵,プロペラが曲損したほか船底等に破口を生じ,のち廃船処理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,釣り場から和歌山下津港に帰港する際,田倉埼海岸に沿って約100メートルの範囲の水域に点在する岩礁があり,これらを約30メートル離す進路で通航していたこと
2 A受審人が,業者に整備を任せたまま,計器盤の警報について理解していなかったこと
3 A受審人が,赤色警報灯の点滅に気付いて減速したものの機関の点検が必要となった際,岩礁から遠ざかるよう沖合に向く針路としなかったこと
4 A受審人が,警報ブザーが鳴った際,計器に書かれた文字を読むため計器盤をのぞき込んだことにより,操舵がおろそかになったこと
(原因の考察)
A受審人は,岩礁が点在する田倉埼海岸に沿った針路で航行中,赤色警報灯が点滅したことに気付いて減速したものの機関の点検が必要となった際,しばらくの間航行可能であり,いつもの進路で進行すると操舵がおろそかになり,岩礁との距離を把握できなくなるとともに,潮流に圧流されるおそれがある状況となったが,岩礁から遠ざかる針路とすることなく続航したため,警報ブザーが突然鳴り,慌てて,警報の意味を知ろうと右下の計器に書かれた文字を読むために計器盤をのぞき込んだことにより,操舵がおろそかになって同海岸の岩礁に向首して乗り揚げたもので,赤色警報灯の点滅に気付いて機関の点検が必要となった際,岩礁から遠ざかるよう沖合に向く針路としていれば,乗揚を防止できたことは明らかである。
したがって,A受審人が,警報灯が点滅したことを認めて機関の点検が必要となった際,岩礁から遠ざかるよう沖合に向く針路としなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,計器盤の警報について理解していなかったこと,警報ブザーが鳴った際,右下の計器に書かれた文字を読むために,計器盤をのぞき込んだことにより,操舵がおろそかになったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
A受審人が,田倉埼海岸に沿って約100メートルの範囲の水域に点在する岩礁があり,これらを約30メートル離す進路で通航していたことは,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件乗揚は,岩礁が点在する和歌山県田倉埼海岸に沿った針路で接航中,赤色警報灯の点滅を認めて機関の点検が必要となった際,針路の選定が不適切で,岩礁に向首する針路で航行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,岩礁が点在する和歌山県田倉埼海岸に沿った針路で接航中,計器盤の赤色警報灯が点滅していることを認め,機関の点検が必要となった場合,操舵がおろそかになり,岩礁との距離を把握できなくなるとともに潮流に圧流されるおそれがあったから,岩礁から十分距離をとったうえで機関の点検ができるよう,岩礁から遠ざかるよう沖合に向く適切な針路の選定を行うべき注意義務があった。しかるに同人は,いつもの進路で進行しても大丈夫と思い,適切な針路の選定を行わなかった職務上の過失により,岩礁に向首して乗揚を招き,舵,プロペラを曲損したほか船底等に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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