(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月6日12時05分(現地時間)
ミクロネシア連邦ポナペ港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十一太陽丸 |
総トン数 |
379トン |
全長 |
54.71メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十一太陽丸(以下「太陽丸」という。)は,船体中央部に船橋を備え,主として南太平洋及びオーストラリア東方沖合を漁場としてまぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で,A受審人ほか日本人7人,インドネシア人13人が乗り組み,まぐろ260トンを載せ,船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成15年11月11日06時20分(現地時間,以下同じ。)ミクロネシア連邦ポナペ港に入港し,インドネシア人を下船させ,11時56分同港を発し,静岡県焼津港に向った。
ところで,ポナペ港は,周囲をさんごの干出礁で囲まれたポナペ島の北西岸に位置し,同礁の切れ間を利用した港口の南東方約2海里に商業岸壁が設けられ,港内にも多数の干出礁が存在しており,港口から同岸壁に至る2.5海里の水路には,同礁を示す航路標識が設置されていた。また,商業岸壁の北西方400メートル付近は,東西両岸間の幅が約800メートルの一見広い水域であったが,西岸から東岸近くまで干出礁が拡延し,南北方向で可航幅約80メートルの狭い水路となっていた。
A受審人は,約1年前にポナペ港に寄港したとき入出港とも水先人を乗せて同港内を航行し,当日朝の入港時も,水先人のきょう導によって商業岸壁南側に出船右舷付けで着岸しており,GPSプロッターにその航跡を残していた。
そして,A受審人は,インドネシア人が下船した後,経費節約のために水先人を乗せないで出港しようとした際,自ら操船してポナペ港内を航行するのは初めてであったが,入港時のGPSの航跡に沿えば無難に出港できるものと思い,所有していた英国版海図981号のポナペ港分図を検討のうえ,針路や狭い水路の可航幅を確認したり,船首目標や避険線を設定したりするなど,発航前の水路調査を十分に行わなかったので,同航跡の至近に干出礁が存在していることを知らなかった。
発航後A受審人は,漁ろう長を操船の補佐に就けてGPSプロッターの監視に当たらせ,自らが遠隔手動操舵に当たって北上を開始し,12時03分ペイパラップ灯台から073度(真方位,以下同じ。)1,100メートルの地点で,針路を327度に定め,機関を極微速力前進にかけ4.0ノットの対地速力とした後,舵輪による手動操舵に切り替え,GPSプロッターの表示を注視しながら進行した。
定針したときA受審人は,自船が狭い水路南口のわずか西側に向いていて,正船首240メートルのところに存在していた水深約1メートルの干出礁に向首進行したが,依然,同礁の存在を知らないまま続航中,12時04分少し過ぎGPSプロッターの表示によって,自船が入港時の航跡より少し左側に出ていることを認め,船位を同航跡上に徐々に戻そうと右舵5度をとったものの,12時05分ペイパラップ灯台から062度1,050メートルの地点において,太陽丸は,ほぼ原針路,原速力のまま,左舷船首が前示干出礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴れで風はなく,潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,左舷船首船底外板に凹損を生じたが,代理店手配による引船の援助を得て離礁し,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,港内に多数の干出礁が存在するミクロネシア連邦ポナペ港を出港するにあたり,水路調査が不十分で,干出礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,水先人を乗せないで港内に多数の干出礁が存在するミクロネシア連邦ポナペ港を出港しようとする場合,自ら操船して同港内を航行するのは初めてであったから,海図を検討のうえ船首目標や避険線を設定するなど,発航前の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,入港時のGPSの航跡に沿えば無難に出港できるものと思い,発航前の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,干出礁に向首進行して乗揚を招き,左舷船首船底外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。