(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月1日07時40分
静岡県御前崎港
(北緯34度37.1分 東経138度12.9分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第七栄福丸 |
総トン数 |
313トン |
全長 |
62.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
第七栄福丸(以下「栄福丸」という。)は,昭和59年3月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,二層甲板の貨物倉1個と,同倉下二重底の左右両舷に1番から4番までのバラストタンク8個を配置し,船橋中央部前方には操舵スタンドを,その左舷側にレーダー及び右舷側に機関操縦盤を備えていた。
3 御前崎港
御前崎港は,北東に開けた港口を有し,港口の西側がほぼ菱形の西ふ頭,同ふ頭南西対岸が工場敷地と水面貯木場(以下「貯木場」という。),同敷地の南東側が中央ふ頭及び東ふ頭になっていた。
西ふ頭南西岸壁前面の水域(以下「西ふ頭泊地」という。)は,北側を同岸壁,西側を工場敷地の岸壁,南側を貯木場の防波堤に囲まれ,同ふ頭南端と貯木場防波堤の北東端との間が西ふ頭泊地の進入口をなし,同口から北西方に奥行きが約700メートル,同口の幅が約230メートル,中央部の幅が約430メートル,同泊地の北西港奥の幅が約310メートルとなっていた。
4 西ふ頭泊地の水深等
西ふ頭泊地は,大部分が水深5.0メートルないし7.0メートルに 浚渫されていたが,進入口から中央部に至る貯木場に隣接した水域が,将来ふ頭用地に計画されていて浚渫が行われておらず,最大幅約150メートル長さ約320メートルにわたり水深4メートル未満の浅水域と,同水域内に底質が岩で水深3メートルの浅所が存在していたものの,黄色に塗色した工事用の小型灯浮標(以下「航路灯」という。)が4個設置され,各航路灯を結ぶ線が浅水域の北側境界を示しており,縮尺1万分の1で図名「御前崎港付近」の海図と照合すると,このことが明らかな状況であった。
5 事実の経過
栄福丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首0.35メートル船尾3.00メートルの喫水をもって,平成15年11月30日06時00分名古屋港を発し,静岡県御前崎港に向かい,16時30分御前崎港防波堤C灯台(以下「C灯台」という。)から013度(真方位,以下同じ。)1,550メートルの地点に錨泊した。
ところで,A受審人は,所有している海図には御前崎港内に浅水域と同水域内に水深3メートルの浅所が存在することが記載されていたものの,同海図が小縮尺であったので,同水域の範囲や浅所の位置を正確に確かめることができなかったが,約1年前同港に無難に入港したことから大丈夫と思い,発航前に「御前崎港付近」の大縮尺海図を入手したり,発航後,代理店から着岸バースを知らせてきた際も,浅水域の範囲や浅所の正確な位置を問い合わせたりするなど,入港前の水路調査を十分に行わなかった。
翌12月1日07時15分A受審人は,入港操船に備え3番バラストタンクに海水約140トンを注入して同タンクを一杯とし,船首0.5メートル船尾3.3メートルの喫水をもって錨泊地点を発進し,西ふ頭泊地港奥の西ふ頭9番バース(以下「9番バース」という。)に向った。
発進後,A受審人は,乗組員を入港配置に就けて単独で船橋当直に当たり,西ふ頭南東岸に沿い西ふ頭泊地の進入口に向って南下し,07時35分C灯台から314度440メートルの地点で,9番バースに向首する298度に針路を定め,機関を極微速力前進にかけ2.2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,C灯台から300度790メートルに設置されていた航路灯を左舷船首14度370メートルに認めていたが,水路調査を十分に行っていなかったので,同灯が浅水域北端を示していることも,同灯を右舷に見ると自船が浅水域に入る状況であることにも思い至らず,その後,時折突風を伴う北東風を右舷に受けるようになり,低速であったことも影響して左方に圧流される状況となり,9番バースに積んであったスクラップの山を船首目標として,逐次,右舵を取って針路を修正しながら同バースに向った。
こうして,A受審人は,次第に前示航路灯が右舷方にかわり,自船が浅水域に入って同水域内に存在する水深3メートルの浅所に向首進行したが,依然,このことに気付かないまま続航中,07時40分C灯台から296.5度750メートルの地点において,栄福丸は,315度に向首し,原速力のまま,船尾が前示浅所に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候はしゅう雨性の雨で突風を伴う風力4の北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,潮高は77センチメートル(以下「センチ」という。)であった。また,静岡県沿岸に強風波浪注意報が発表されており,御前崎港内の波高は約70センチであった。
A受審人は,衝撃を感じたもののそのまま着岸し,船体の点検を行って4番バラストタンクへの浸水を認め,事後の処置に当たった。
乗揚の結果,船尾船底外板に亀裂を伴う軽度の凹損を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 御前崎港内に浅水域と同水域内に水深3メートルの浅所が存在したこと
2 A受審人が,小縮尺の海図しか所有していなかったこと
3 A受審人が,入港前の水路調査を十分に行わなかったこと
4 低速であったこと
5 左方に圧流されたこと
6 A受審人が,浅水域に入って同水域内の水深3メートルの浅所に向首進行したこと
7 突風を伴う北東風が吹いていたこと
8 御前崎港内の波高が約70センチであったこと
(原因の考察)
本件は,入港前の水路調査を十分に行っていたなら,浅水域に入って同水域内の水深3メートルの浅所に向首進行することはなかったものと認められるので,A受審人が,小縮尺の海図しか所有せず,入港前の水路調査を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
御前崎港内に浅水域と同水域内に水深3メートルの浅所が存在したことは,大縮尺海図を見ればその範囲や位置を正確に確かめることが可能であり,さらに航路灯の設置により注意が喚起されており,これらを避けることは容易であったと認められるので,本件発生の原因とならない。
低速であったこと及び突風を伴う北東風が吹いていたことは,これらによって左方に圧流されたものの,針路を修正しながら着岸していることから,浅水域への圧流を回避することが可能であったと認められるので,いずれも本件発生の原因とならない。
御前崎港内の波高が約70センチであったことは,当時の潮高,水深及び喫水から波浪がなければ乗り揚げることがなく,波浪の底部で乗り揚げたものと認められるが,水路調査を十分に行っていれば浅水域に入らなかったものと認められるので,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件乗揚は,静岡県御前崎港に入港するにあたり,水路調査が不十分で,同港内に存在する浅水域に入り,同水域内の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,御前崎港に入港しようとする場合,所有していた小縮尺海図では同港内に存在する浅水域の範囲や同水域内に存在する浅所の位置を正確に確かめることができなかったのだから,大縮尺海図を入手したり,代理店に同水域の範囲や浅所の正確な位置を問い合わせたりするなど,入港前の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,約1年前同港に無難に入港したことから大丈夫と思い,入港前の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,浅水域に入り,同水域内の浅所に向首進行して乗揚を招き,船尾船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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