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平成16年横審第85号
件名

貨物船第八海耕丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂,竹内伸二,西田克史)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第八海耕丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船底外板に亀裂を伴う凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月2日20時40分
 神奈川県横須賀港
 (北緯35度18.2分 東経139度40.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第八海耕丸
総トン数 394トン
全長 49.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第八海耕丸(以下「海耕丸」という。)は,昭和62年7月に進水した船尾船橋型砂利石材運搬船で,船首部にジブクレーンを装備し,専ら神奈川県横須賀港長浦で建設残土及び砂を積み,千葉県の木更津港や館山港に荷揚げする運航に従事していた。
 操舵室には,操舵装置,機関操縦装置のほかジャイロコンパス,GPS,レーダー等の航海計器が設置されていた。

3 事実の経過
 海耕丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,残土1,100トンを積載し,船首3.5メートル船尾4.7メートルの喫水をもって,平成16年7月2日20時15分横須賀港長浦を発した後,荷揚地である館山港の入港時刻を調整することとして横須賀港浦賀に向かった。
 ところで,A受審人は,平素,横須賀港長浦を出航して同港浦賀に向かう際,横須賀港第1号灯浮標に向けて東進後,同灯浮標付近で右転しており,同灯浮標とその南西方陸岸との間に佐久根ほか多数の浅所が存在し,佐久根には灯光を発しない北方位標識の横須賀港佐久根上端浮標及び西方位標識の同下端浮標(以下「2浮標」という。)が設置されていることを知っていた。
 A受審人は,吾妻島大地ノ鼻付近で微速力から徐々に速力を上げ,20時30分半横須賀港東北防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から236度(真方位,以下同じ。)2,000メートルの地点で,針路を087度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 20時34分少し前A受審人は,防波堤灯台から215度1,320メートルの地点に達したとき,右舷船首53度1.6海里のところに,白,白,紅3灯を表示して前路を左方に横切る態勢の他船を視認し,これを早めに右転して避けることとし,転針方向には浅所が散在していたものの,自動操舵のダイヤルを数度右に回すことを繰り返して続航した。
 20時38分A受審人は,40度ほど右回頭して間もなく前示他船と無難に替わる態勢となったとき,2浮標の設置された佐久根が右舷船首方530メートルほどに接近し,そのまま右転を続けると乗り揚げるおそれがあったが,浅所はもう替わっているだろうと思い込み,レーダーやGPSを活用するなり,周囲の灯台や灯浮標等の方位から判断するなりして船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かないまま続航中,20時40分防波堤灯台から162.5度1,960メートルの地点において,海耕丸は,船首が145度を向いたとき,原速力のまま,佐久根の岩に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 乗揚の結果,船底外板に亀裂を伴う凹損を生じ,船首スラスタ室に浸水したが,積荷の残土を瀬取りのうえサルベージ会社の救援により引き下ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 佐久根の2浮標が灯浮標でなかったこと
2 A受審人が夜間にレーダーを活用するなどして船位を確認しなかったこと
3 他船を右転して替わしたこと
4 A受審人が浅所はもう替わっているだろうと思い込んでいたこと

(原因の考察)

 船長が,右舷船首方の他船を右転して避航する際,船位の確認を十分に行っていたなら,転針方向にある佐久根に接近していることに気付くことができ,右転を中止するなり行きあしを止めるなりして乗揚を防止できたものと認められる。したがって,A受審人が船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,浅所はもう替わっているだろうと思い込んでいたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 佐久根の2浮標が灯浮標でなかったことは,船位を確認することによって2浮標に接近していることが容易に分かるから,原因とならない。
 また,他船を右転して替わしたことは,原因とならない。

(海難の原因)

 本件乗揚は,夜間,神奈川県横須賀港において,右転して他船を避航する際,船位の確認が不十分で,佐久根に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独で船橋当直に当たり,横須賀港第1号灯浮標に向け進行中,前路を左舷方に横切る他船を認めこれを右転して避航する場合,転針方向には佐久根ほか多数の浅所があることを知っていたから,同浅所に接近することのないよう,レーダーやGPSを活用するなり,周囲の灯台や灯浮標等の方位から判断するなりして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,浅所はもう替わっているだろうと思い込み,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,佐久根に向首進行して乗揚を招き,船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせ,船首スラスタ室を浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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