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 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年横審第1号
件名

漁船大発丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:大発丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板に破口,漁網流出,のち廃船

原因
濃霧時,速やかに停船しなかったこと

裁決主文

 本件乗揚は,離岸堤に接近して濃霧となった際,速やかに停船しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月7日02時14分
 茨城県日立市十王町伊師浜海岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船大発丸
総トン数 4.88トン
登録長 11.44メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット

3 事実の経過
 大発丸は,小型底びき網,ひき縄,刺網及びはえ縄の各漁業に従事するFRP製漁船で,レーダー,GPS,磁気コンパス及び魚群探知機を装備し,昭和51年9月に一級小型船舶操縦士(5トン未満限定)免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み,かさごなどの磯魚を対象とするはえ縄漁の目的で,船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年7月7日02時00分茨城県川尻港を発し,同港北方の伊師浜海岸沖合の漁場に向かった。
 ところで,伊師浜海岸は,川尻埼から北方に約1キロメートルにわたって伸びる,なだらかな傾斜をした幅約50メートルの砂浜で,約100メートル沖に離岸堤4堤があり,いずれも多数のテトラポッドを海岸とほぼ平行に敷設して造られており,北側の3堤は長さ150ないし160メートル,南側のものは同34メートルで,いずれも標識灯が無く,潮位が高くなると大部分が水面下に没してレーダーに映りにくいため,夜間,これら離岸堤に接近するときには注意を要したが,離岸堤外側は磯魚の好漁場で,地元漁船が操業していた。
 A受審人は,陸岸が見えないような沖合で方向を確かめるときに磁気コンパスを見るだけで,同コンパスにより針路を定めることをせず,また,レーダーの操作に不慣れで,時々レーダーを見るものの,もっぱら一緒に乗り組んでいる乗組員が操作していた。そして,航行中は操舵室中央の踏台の上に立ち,同室天井に設けられた見張り用の開口部から顔を出し,陸上の目標を見て船位及び進行方向を確かめながら操船していた。
 A受審人は,夜間,離岸堤外側にはえ縄を投入する際,長年の経験から陸上の明かりを見て離岸堤からの距離を把握し,川尻埼東方沖合を通過した後,伊師浜海岸北方の陸岸や高萩市街の明かりによって船位及び進行方向を確かめながら最も北側の離岸堤に接近し,魚群探知機を見て水深7ないし8メートルのところではえ縄の投入を始め,その後蛇行しながら離岸堤に沿って南方に移動し,約1時間半かけて離岸堤外側にはえ縄を投入していた。
 発航時A受審人は,霧模様であるものの,陸岸の明かりがぼんやりと見える状態であったので航行に支障がないと判断し,港外に出たあと,乗組員2人が傘付き作業灯を点けた前部甲板上ではえ縄の準備を行い,自らは,操舵室天井の開口部から顔を出して周囲を見ながら手動操舵にあたり,川尻埼を約450メートル離して通過したとき,いつも船首目標としていた伊師浜海岸北方の陸岸や高萩市街の明かりが見えなかったが,そのうちに見えてくると考え,川尻埼の高台にある国民宿舎などの明かりを操船目標として船位及び進行方向を目測し,02時12分少し前川尻灯台から052度(真方位,以下同じ。)1,500メートルの地点で,針路を最も北側の離岸堤に向く330度とし,機関を全速力前進にかけて15.0ノットの対地速力で進行した。
 定針して間もなくA受審人は,急に霧が濃くなり,02時13分川尻灯台から032度1,680メートルの地点に達し,船首方の離岸堤まで450メートルに接近したとき,霧のため国民宿舎など陸岸の明かりが見えず船位の確認が困難となり,このまま進行すれば前路に迫った離岸堤に乗り揚げる状況であったが,霧は一時的ですぐに薄くなり,再び明かりが見えるようになってから停船すれば大丈夫と思い,速やかに機関を止めて停船することなく,1.5海里レンジで使用中のレーダーを見て,左舷側から船首方向に伸びる伊師浜海岸と離岸堤の映像を認めたものの,できるだけはえ縄投入地点に近づくつもりで続航中,02時14分川尻灯台から020度1,950メートルの地点において,大発丸は,原針路,原速力のまま,前部船底が離岸堤に乗り揚げた。
 当時,天候は霧で風力1の西北西風が吹き,視程は約10メートルで,水戸地方気象台から茨城県北部に濃霧注意報が発表され,潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,大発丸は,船底外板に破口が生じて機関室に浸水するとともに船尾甲板に積んであった漁網が流出した後,波浪により離岸堤を越えて伊師浜海岸に圧流され,砂浜に乗り揚げた。その後海上への引き下ろしが困難となり,起重機によって陸上に引き上げられたが,のち廃船となった。

(原因)
 本件乗揚は,夜間,茨城県日立市十王町伊師浜海岸沖合において,はえ縄漁の漁場に向かうため,同海岸沖の離岸堤に接近中,濃霧となった際,速やかに停船せず,離岸堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,茨城県日立市十王町伊師浜海岸沖合のはえ縄漁の漁場に向かうため,同海岸沖の離岸堤に接近中,濃霧となった場合,陸岸の明かりが見えず,船位の確認が困難であったから,前路に迫った離岸堤に乗り揚げないよう,速やかに機関を止めて停船すべき注意義務があった。しかし,同人は,霧は一時的ですぐに薄くなり,再び明かりが見えるようになってから停船すれば大丈夫と思い,速やかに機関を止めて停船しなかった職務上の過失により,離岸堤に更に接近して乗揚を招き,船底外板に破口が生じて機関室に浸水させるとともに漁網を流出させ,波浪によって砂浜に乗り揚げたのち廃船となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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