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平成16年仙審第71号
件名

漁船招神丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月29日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:招神丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
ブルワーク及び船底各外板に破損,船長が12日間の入院加療を要する前頭部裂傷及び脳挫傷,同人の妻が1箇月半の入院加療を要する頚椎骨折及び中心性頚髄損傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月10日08時15分
 青森県野辺地湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船招神丸
総トン数 4.2トン
全長 13.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 147キロワット

3 事実の経過
 招神丸は,平成2年に進水し,船首部にもマグネットコンパスと操舵輪を備え,桁網及び採介藻各漁業に従事し,レーダー不装備のFRP製漁船で,平成15年10月二級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士の免許を交付されたA受審人が1人で乗り組み,同人の妻を乗せ,操業の目的で,船首尾とも0.4メートルの等喫水をもって,平成16年6月10日04時30分青森県野辺地町馬門地区の係留地を発し,野辺地湾有戸西方沖合の漁場に向かった。
 05時00分A受審人は,有戸西方沖合1.0海里の漁場に着いてほたて桁網漁を開始し,06時00分2回目の操業が終わったころ,霧で視界が狭まり始めたものの,操業を続け,07時30分ごろ約500キログラムのほたて貝を獲たので漁を終え,同貝の選別作業に取り掛かった。
 A受審人は,選別作業を終えたころ,依然,視界が10メートルで,周囲の陸岸,野辺地漁港の灯台や建物等が視認できなかったものの,レーダーを装備していなかったのでマグネットコンパスでおおよその針路を決め,水揚げのため野辺地漁港に向かうことにした。
 08時07分A受審人は,船首部の操舵輪に就き,野辺地漁港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から035.5度(真方位,以下同じ。)3.5海里の地点を発進する際,霧で陸岸等を視認することができなかったが,今までどおりおおよその針路で航行しても大丈夫と思い,視界が回復するまで待機し,陸岸等を視認するなどして船位を確認することなく,針路を188度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの対地速力として手動操舵で進行した。
 しばらくして,A受審人は,野辺地町古明前付近の海岸に向首していたことに気付かないまま続航中,招神丸は,08時15分北防波堤灯台から056度2.2海里の地点で,同海岸に設置されていた護岸用消波ブロックに,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は霧で風はほとんどなく,潮候は高潮時で,視程は10メートルであった。
 乗揚の結果,ブルワーク及び船底各外板に破損を生じたが,僚船に救助されて野辺地漁港に引き付けられ,のち修理された。また,A受審人が衝撃で転倒して12日間の入院加療を要する前頭部裂傷及び脳挫傷を,同人の妻が1箇月半の入院加療を要する頚椎骨折及び中心性頚髄損傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件乗揚は,野辺地湾において,レーダー不装備で,霧により視界が制限されて周囲の状況を確認することができない状況下,漁場を発進する際,船位の確認が不十分で,野辺地町古明前付近の海岸の護岸用消波ブロックに向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,野辺地湾において,霧により視界が制限されて周囲の状況を確認することができない状況下,漁場を発進する場合,レーダー不装備であるから,視界が回復するまで待機し,陸岸等を視認するなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,今までどおりおおよその針路で航行しても大丈夫と思い,船位を確認しなかった職務上の過失により,視界が回復するのを待たずに発進し,護岸用消波ブロックに向首進行して乗揚を招き,ブルワーク及び船首部船底外板に破損を生じさせ,同人に脳挫傷等を,同人の妻に頚椎骨折等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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