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平成16年仙審第65号
件名

漁船第三十一長進丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年3月17日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,勝又三郎,内山欽郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三十一長進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
推進器翼欠損,推進器軸曲損などの損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月22日03時00分
 青森県下北郡風間浦村焼山埼沖合
 (北緯41度29.1分 東経141度03.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十一長進丸
総トン数 19トン
全長 24.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能
ア 第三十一長進丸(以下「長進丸」という。)は,平成9年に進水したFRP製いか一本釣り漁船で,連続最大出力735キロワット,同回転数毎分1,500の主機を有し,推進器は翼数3枚の固定ピッチプロペラで,最大速力は14.5ノットであった。また,バウスラスタを装備していた。
 操舵室には操舵装置のほか,レーダー2台,自動衝突予防援助装置及び衛星航法装置などが設置されていた。
イ 漁ろう設備
 操舵室に魚群探知器を2台備えるほか,いか釣り機を両舷にそれぞれ7機と船尾に1機装備し,集魚灯も60個点灯できるように設備されていた。

3 事実の経過
 長進丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,平成15年10月21日13時00分北海道苫小牧港を発し,同港南西方沖合の漁場に向かった。
 15時00分A受審人は,アヨロ鼻東方沖合9.5海里ばかりの漁場に至って操業を始めたものの,漁獲が思わしくなく,また,折から低気圧が接近しており,2日ないし3日間の荒天が予想されることから,青森県大畑港に基地を移して操業することにした。
 21時00分A受審人は,操業を打切り,アヨロ鼻灯台から099度(真方位,以下同じ。)10.0海里の地点を単独の船橋当直に就いて発進し,操舵室右舷側の床に設置した背もたれ付きの固定したいすに前方を向いて座り,同室の左舷側に備え付けたテレビを見ながら大畑港に向かった。
 翌22日01時03分A受審人は,恵山港南防波堤灯台から117度1.2海里の地点に達したとき,津軽海峡の海流の影響を加味して針路を206度に定め,機関の回転数を毎分1,500にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,前日08時ごろ苫小牧港に入港し,5キログラムのいかを入れたケースを450ケースほど水揚げし,その後,氷や空のケースを積み込んだのち,3時間足らずの仮眠をとっただけで出航したもので,平素は,翌朝5時ごろまで操業するので,23時ごろから数時間仮眠をとることができていたが,当時は操業を途中で打ち切ったことから,仮眠がとれず,睡眠がやや不足した状態となっていた。
 02時17分半A受審人は,易国間港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から028.5度7.6海里の地点に達したころ,GPSプロッターで船位を確認したものの,平素は仮眠をしている時間帯であったうえ,海上も平穏で周囲に航行中の他船も認めない状況下,睡眠がやや不足した状態でいすに腰掛けていると気が緩んで居眠りに陥るおそれがあったが,眠気を催していなかったので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,休息中の甲板員を起こして2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,依然としていすに腰を掛けたまま続航した。
 こうして,長進丸は,A受審人がいつしか居眠りに陥り,東方からの海流の影響でゆっくりと右に圧流されながら進行中,03時00分東防波堤灯台から099度2.6海里の青森県下北郡風間浦村焼山埼海岸の浅礁域に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,自力離礁したが,推進器翼欠損,推進器軸曲損及びベッカーラダーの舵頭材曲損などの損傷を生じた。

(本件発生に至る事由)
1 睡眠がやや不足した状態であったこと
2 平素は仮眠をとる時間帯であったこと
3 操業を途中で打ち切ったので,仮眠がとれなかったこと
4 いすに座って単独の船橋当直にあたっていたこと
5 海面が穏やかであったこと
6 避航しなければならないような他船がいなかったこと

(原因の考察)
 本件は,漁場からの帰途,居眠りに陥り,乗揚に至ったものであるが,その原因について考察する。
 A受審人は,前日08時ごろに操業を終えて苫小牧港に入港し,水揚げや氷の積込み作業などにあたり,同日13時に操業のため出航したもので,その間3時間足らずの仮眠しかとれていなかった。また,不漁であったことと低気圧の接近で荒天が予想されたこととで,同日の21時に操業を打ち切って大畑港に向かったもので,平素,操業中に5時間ないし6時間の仮眠がとれていたのが,操業を途中で打ち切ったことで仮眠がとれず,睡眠が十分にとれていなかったことは本件発生の原因となる。
 また,A受審人が睡眠がやや不足した状態で,居眠りすることも考えられる状況下,航行中の他船にも行き会わない穏やかな海面状態のもと,いすに座って単独の船橋当直に就き,2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,津軽海峡において,漁場から青森県大畑港に向けて航行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同県下北郡風間浦村焼山埼海岸の浅礁域に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,津軽海峡において,航行中の他船にも行き会わない穏やかな海面状態のもと,平素,仮眠をとっている時間帯に漁場から青森県大畑港に向けて航行する場合,睡眠がやや不足した状態にあったから,居眠りに陥らないよう,休息中の甲板員を起こして2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,眠気を催していなかったので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いすに腰を掛けたまま操船中,いつしか居眠りに陥り,東方からの海流でゆっくりと右に圧流されながら同県下北郡風間浦村焼山埼海岸の浅礁域に向首進行し,同海岸の浅礁域への乗揚を招き,推進器翼欠損,推進器軸曲損及びベッカーラダーの舵頭材曲損などの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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