(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月12日06時00分
秋田県秋田船川港秋田区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船長岐丸 |
総トン数 |
1.1トン |
登録長 |
7.92メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
3 事実の経過
長岐丸は,平成2年6月に進水し,刺し網及び雑各漁業に従事するFRP製漁船で,平成16年4月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士の免許を交付されたA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成16年4月12日05時40分秋田県秋田船川港秋田区魚市場前の係留地を発し,同区内南防波堤南東付近の漁場に向かった。
ところで,A受審人は,建設会社に勤める傍ら,平成2年にB組合の正組合員になり,毎年4月から12月まで月間5回ほど秋田港内で刺し網漁を行い,平素,出漁に際しては天気予報を聴視したり,夕刊に掲載された天気図を参考にして検討し,波高が2メートル未満のときに出航していたものの,漁場に着いてからも風波が強まったときには操業を中止していた。
また,漁場は,南東方向に延びた南防波堤の南西側に多数の消波ブロックが設置され,その付近が魚種も多かったので,同ブロックから南西方約20メートル沖合に,同ブロックに沿って刺し網を設け,船首を北西方向に向けて揚網作業を行っていたことから,南西風が吹き続けると圧流されるうえ,揚網作業が困難な状況になっていた。
刺し網は,全長が約250メートル,幅2.5メートルの底刺し網で,1反が長さ約50メートルで構成されており,5反を使用していた。
発航したA受審人は,05時50分秋田旧南防波堤灯台(以下「旧南防波堤灯台」という。)から277度(真方位,以下同じ。)580メートルの,刺し網の南東端に至り,同網設置方向である311度に向首し,機関を中立運転にして船首部に備えている揚網機を操作しながら揚網作業を始めた。
05時54分A受審人は,1反の刺し網を揚げ終えたころ,南西風が強まって消波ブロックの方向に圧流され始めたが,このまま揚網作業を続けても大丈夫と思い,同網を切り離すなどして操業を中止することなく,同作業を続けた。
05時59分A受審人は,揚網機の操作を続けながら消波ブロックに沿ってわずかに前進していたところ,船体の動揺のためか,刺し網が同機に引っ掛かったので取り外しにかかり,同機を逆転させて同網を緩め始めたとき,長岐丸は,同ブロックに向かって圧流され,06時00分旧南防波堤灯台から284度650メートルの地点において,船首が270度を向き,その船尾が同ブロックに乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力5の南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果,長岐丸は風浪でさらに圧流されて消波ブロックの間に入り,同ブロックに打ち付けられて全壊し,船外機が海没して全損となった。また,A受審人は同ブロックに上ったあと防波堤上に移り,のち僚船に救助された。
(原因)
本件乗揚は,秋田船川港秋田区において,刺し網を揚網中,南西の風浪により消波ブロックの方向に圧流され始めた際,操業を中止しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,秋田船川港秋田区において,消波ブロックの南西方沖合に設置した刺し網を揚網中,南西の風浪により同ブロックの方向に圧流され始めた場合,同ブロックまで近いから,1反を揚げ終えたところで同網を切り離すなどして操業を中止すべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,このまま揚網作業を続けても大丈夫と思い,操業を中止しなかった職務上の過失により,風浪によってさらに圧流され,長岐丸の船尾が同ブロックに乗り揚げ,その後船体が同ブロックの間に入って全壊し,船外機が海没して全損を招き,同受審人が防波堤上に移り,のち僚船に救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。