(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月12日06時00分
秋田県秋田船川港秋田区第2区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海宝丸 |
総トン数 |
1.98トン |
登録長 |
8.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
13 |
3 事実の経過
海宝丸は,昭和53年4月に進水した,刺網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和55年8月に取得した二級小型船舶操縦士免許(5トン限定)を有するA受審人ほか2人が乗り組み,前日に仕掛けた刺網を揚げる目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年4月12日05時30分秋田県秋田船川港秋田区向浜岸壁対岸の係留地を発し,旧南防波堤南側の漁場に向かった。
ところで,漁場は,旧南防波堤東端から約100メートル西方の地点から168.5度(真方位,以下同じ。)方向に消波ブロックで防波堤が約820メートルにわたって構築され,この防波堤の南端から269度方向に向浜が防波堤とほぼ直角となるように約180メートル迫り出していた。
また,A受審人は,1反の長さが50メートル,幅が1.5メートルの刺網を7反繋ぎ,全長を350メートルとし,その両端に7.5キログラムのストックアンカーと直径が20センチメートルで,黄色のウレタン製浮標を入れ,防波堤と迫り出した向浜の海岸線に沿って入れてあった。
05時45分A受審人は,秋田旧南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から138度1,145メートルの刺網の北端に至り,折から南寄りの風が吹いていたので,同網の北端から揚げることにし,船首を南方に向けて揚網を開始した。
05時58分A受審人は,南防波堤灯台から138度1,170メートル付近に達したころ,船首部で揚網機を操作する甲板員の合図に従い,揚がってくる網の方向を見極めながら繰船していたところ,段々強くなった南西方向からの風と波浪の影響で揚網作業が困難な状況となったが,向浜の迫り出した部分の陰になっているので大丈夫と思い,網を切断して揚網を中止するなど,磯波の危険性に対して十分に配慮することなく同作業を続けた。
05時59分A受審人は,南防波堤灯台から138度1,170メートルの地点に達したとき,揚網機の巻き取る力が弱いので,これを助けるため機関を前進に操作したところ,繰船不能となって船体が全く動かなかったので,推進器に刺網が絡んだことに気付いた。
こうして海宝丸は,A受審人がどうすることもできないでいるうち,高起した磯波に持ち上げられて船体が左方に回頭し,06時00分南防波堤灯台から138度1,170メートルの地点において,船首を348度方向に向けて防波堤に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力4の南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,最高波は約2メートルであった。
乗揚の結果,海宝丸は僚船に引き下ろされて曳航途中に沈没し,のち引き揚げられたものの廃船とされた。また,A受審人ほか2人は脱出して防波堤に逃れ,携帯電話で僚船に連絡して救助された。
(原因)
本件乗揚は,秋田県秋田船川港秋田区第2区において,刺網を揚網中,風が強まり,波浪が大きくなる状況下,磯波の危険性に対する配慮が不十分で,揚網を中止しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,秋田県秋田船川港秋田区第2区において,刺網を揚網中,風が強まり,波浪が大きくなってきた場合,自船の安全を確保できるよう,網を切断して揚網を中止するなどの磯波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,向浜の迫り出し部分の陰になっているので大丈夫と思い,磯波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,推進器に刺網を絡ませて繰船不能となり,高起した磯波に持ち上げられて防波堤への乗揚を招き,廃船させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。