(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月19日12時00分
沖縄県竹富南航路
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第八あんえい号 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
25.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,403キロワット |
3 事実の経過
(1)第八あんえい号
第八あんえい号は,平成12年3月に第1回定期検査を受け,限定沿海区域を航行区域とする3機3軸を備えた軽合金製旅客船で,上甲板上の船首部に操舵室を,船体中央部に旅客定員66人の客室を,乗下船口のあるロビーを隔てた船尾部に同定員24人の客室をそれぞれ配していた。
その操舵室には,前面に3枚の角窓並びに両舷の側壁及び出入口扉にそれぞれ1枚の三角窓及び角窓を設け,前面中央の角窓にワイパーを備えていた。そして,同室前部中央に舵輪を置き,その前面の棚上に磁気コンパスを配し,同コンパスの右舷側に3機それぞれのスロットルレバー及びクラッチレバーを,船首側に機関操作盤を,左舷側に基準進路線を表示することができるGPSプロッターを備えていた。
(2)竹富南航路
竹富南航路は,竹富島南東岸沖の干出さんご礁域や浅所域などが散在する礁海域に設けられた幅60メートル,長さ約2,500メートルの狭い水路で,専ら石垣港と前示諸港との間を定期運航する旅客船などが頻繁に航行していた。
竹富南航路の北東側入口には,竹富島南水路第1号灯標(以下,灯標の呼称については「竹富島」を略す。)及び同第2号灯標が,南西側出口には南水路第5号灯標及び同第6号灯標が,同航路の中間地点付近には右舷標識の南水路第4号灯標がそれぞれ設置されていた。一方,竹富南航路南西側出口の手前で同航路の左側端に当たる,南水路第5号灯標から055度(真方位,以下同じ。)340メートルのところに,水深0.4メートルの浅所域(以下「北東側浅所域」という。)があり,その南西側に隣接して同様な浅所域(以下「南西側浅所域」という。)が存在していたものの,これらの存在を示す標識などは敷設されていなかった。
(3)本件発生に至る経緯
第八あんえい号は,A受審人及び甲板員1人が乗り組み,定期運航の目的で,旅客1人を乗せ,船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年4月19日11時50分石垣港を発し,小浜島小浜港に向かった。
ところで,A受審人は,備え付けられていたGPSプロッターには竹富南航路の側端に沿って存在する浅所域などが表示されないものの,毎日のように同航路を航行していたため,北東側及び南西側両浅所域の所在など,その水路状況を承知しており,各灯標及びこれら浅所域などからおおよその船位が判断できるようになっていた。
A受審人は,11時57分わずか前竹富南航路の北東側入口に当たる,南水路第5号灯標から055度2,550メートルの地点で,針路を同第4号灯標のわずか東側に向かう237度に定め,機関を全速力前進にかけて38.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し,11時58分南水路第4号灯標の近くに当たる,南水路第5号灯標から053度1,320メートルの地点で,南水路第5号灯標と同第6号灯標との間に向けて235度に転じた。
A受審人は,その後間もなく寒冷前線の接近による雷電を伴うしゅう雨に見舞われ,視界が悪化して竹富南航路南西側出口の両灯標も,竹富島南東岸なども視認できない状況となったため,視程が500メートル以下になったことを知ったが,同航路の側端に沿って存在する浅所域を視認しながら航行すれば,何とか竹富南航路を航行することができるものと思い,GPSプロッターの画面に表示させていた基準進路線から偏位することのないよう,船位の確認を十分に行わなかった。
A受審人は,B社が定めた運航基準に従って減速を始め,11時58分半南水路第5号灯標から052.5度870メートルの地点に至ったとき,周囲の水路状況から竹富南航路のほぼ中央付近に位置していることを推認し,そこから北東側浅所域までは目印となる浅所域などが途切れる水域を航行するため,念のために中央機のクラッチを中立の位置にして更に減速することとした。
A受審人は,左舷正横付近から風を受ける状況下,圧流に備えて両舷機のスロットルレバーをわずかに調整しながら続航したことから,基準進路線から次第に偏位する状況となっていたものの,南水路第6号灯標を探すつもりで専ら前方の海面に目を向けるなど,依然として船位の確認を十分に行わなかったのでこの状況に気付かず,11時59分半南水路第5号灯標から062度380メートルの地点に差し掛かり,船首が226度を向いて5.0ノットとなったとき,右舷船首70度50メートル付近の水面下に北東側浅所域を視認し,初めて同航路から逸脱していることを知った。
A受審人は,北東側浅所と南西側浅所との間をすり抜けて竹富南航路内に戻ることとし,ゆっくりと右転して西進中,第八あんえい号は,12時00分南水路第5号灯標から055度340メートルの地点において,その船首が285度に向いていたとき,同じ速力のまま,右舷船尾部が北東側浅所域南端に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は雨で風力3の南南東風が吹き,潮候は下げ潮の末期で視界は300メートルであった。
A受審人は,乗揚の衝撃を感じ,直ちに両舷機のクラッチを中立の位置にして推進器翼などを調べたところ,損傷が軽微で航行に支障がなかったうえに,竹富南航路南西側出口の両灯標が視認できるようになるとともに視界回復の兆しがうかがわれたため,取りあえず目的地に向けて航行を再開した。
乗揚の結果,右舷推進器翼及び右舷舵板などに曲損を生じたが,その後いずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は,沖縄県竹富島南東岸沖において,干出さんご礁域や浅所域などが散在する水域に設けられた狭い竹富南航路を航行中,視界が制限される状況となった際,船位の確認が不十分で,同航路から逸脱したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県竹富島南東岸沖において,干出さんご礁域や浅所域などが散在する水域に設けられた狭い竹富南航路を航行中,視界が制限される状況となった場合,GPSプロッターの画面に表示させていた基準進路線から偏位することのないよう,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,竹富南航路の水路状況を承知していたことから,その側端に沿って存在する浅所域を視認しながら航行すれば,何とか竹富南航路を航行することができるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,目印となる浅所域などが途切れた水域において,基準進路線から次第に偏位する状況となったことに気付かないまま進行し,同航路から逸脱して浅所域への乗揚を招き,右舷推進器翼及び右舷舵板などに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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