(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月27日17時23分
沖縄県瀬底島北岸沖(ヌハン瀬)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船さと丸 |
総トン数 |
4.7トン |
登録長 |
9.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
139キロワット |
3 事実の経過
(1)さと丸
さと丸は,平成元年7月に進水した主としてそでいか旗流し漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で,船体中央部やや後方に船室と操舵室を配し,操舵室内の前部中央部に舵輪を備え,その前面に設けた棚の上には,舵輪の前方に主機計器盤,左舷側に磁気コンパス及びGPSプロッター,右舷側に主機遠隔操作用クラッチ及びスロットルレバー並びに魚群探知器を,天井に自動操舵装置及び漁業無線送受信機を備えていた。
GPSプロッターは,平成15年8月に取り付けられたもので,その画面表示は,等深線を赤,紫及び黄色の実線及び破線により示し,陸岸を黄色で塗りつぶして表示するようになっており,画面を拡大すると,陸岸付近に散在する浅礁が2メートル等深線を示す黄色の破線により囲まれて表示され,航路標識がシンボルマークによって示されるものであった。
操舵室前面の窓は,窓枠により2分割され,操舵室後方左舷側にいす代わりに設置された板に座って前方を見ると,船首わずかに右舷側に同窓枠が位置するものの,操舵室前方には,ほかに視界の妨げとなる構造物はなく,座った姿勢のままで身体を左右に動かせば船首方の死角は解消されるものであった。
また,機関を回転数毎分1,400にかけた8.0ノットを航海速力としていた。
(2)瀬底島北方から沖縄県渡久地港に至る水路
渡久地港は,沖縄県沖縄島北部の本部半島西岸にあり,同港沿岸及びその南西方対岸の瀬底島北岸沖には,瀬底島灯台から北東方約1.2海里のところに存在するヌハン瀬と称する浅礁のほか多数の浅礁が散在することから,瀬底島灯台から038度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点に渡久地港第1号灯浮標(以下,灯浮標の呼称については,「渡久地港」を略す。)及び同灯浮標の南西方約0.1海里の地点に第2号灯浮標,並びに両灯浮標の東南東方約0.3海里のところに第5号灯浮標及び第4号灯浮標をそれぞれ敷設し,ヌハン瀬南側を航行する水路(以下「渡久地水路」という。)が示されていた。
渡久地水路南側には,瀬底島と沖縄島に挟まれ,高さ約22メートルの瀬底大橋が架けられた幅約0.3海里の瀬底水路と呼ばれる小型船が通航可能な水道があり,同水路を経由して本部半島南岸の名護漁港に至ることができた。
(3)A受審人
A受審人は,長年陸上で仕事をしたのち,平成11年から義父の所有する漁船で漁業を手伝うようになり,同15年4月にさと丸を中古船で購入し,同年6月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち,11月から単独でそでいか漁を行うようになった。
A受審人は,そでいか漁を行うに当たり,さと丸を名護漁港から沖縄島東岸の汀間漁港に移動し,同漁港を基地として翌16年6月下旬まで沖縄島東方沖合で一航海4日ほどの操業を繰り返していた。
(4)本件発生に至る経緯
さと丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.62メートル船尾1.75メートルの喫水をもって,平成16年6月23日14時00分汀間漁港を発し,同漁港東方沖合の漁場に至って翌24日朝から操業を始め,その後,漁場を移動しながら操業を続けたのち,27日14時ごろ沖縄島辺戸岬北方約5海里の漁場を発進し,名護漁港に向けて帰航の途についた。
17時00分A受審人は,備瀬埼灯台から278度0.85海里の地点に至ったとき,そのまま進行すれば明るいうちに瀬底島付近を通航できることから,それまで自ら操船して瀬底水路を航行したことがなかったので,GPSに同水路通航時の航跡を記録しておこうと考え,針路を瀬底島に向首する179度に定め,8.0ノットの対地速力で進行した。
ところで,A受審人は,義父の操船する漁船で手伝っていたとき,何度か渡久地水路を通過した経験があったものの,自ら操船したことはなく,渡久地水路周辺の浅礁の拡延状況や航路標識の敷設状況に不案内であったが,一対の灯浮標の間を通過したのち瀬底水路を南下した記憶があったことから,同灯浮標を探してその間を通過すれば問題ないものと思い,GPSプロッターを操作して瀬底島北岸沖に広がる浅礁や同水域の航路標識の敷設状況を確認するなど,水路調査を十分に行わなかった。
こうしてA受審人は,左舷船首方に見える瀬底大橋の方向に灯浮標を探しながら続航し,17時17分瀬底島灯台から013度1.6海里の地点に達したとき,瀬底大橋の手前となる左舷船首33度1.05海里のところに第5号灯浮標を,そのすぐ右側に第4号灯浮標を視認したことから,両灯浮標を,瀬底水路を南下した際に通過した灯浮標と考え,両灯浮標の中央に向けて針路を148度に転じ,ヌハン瀬に向首進行する態勢となったが,このことに気付かず同一速力で進行した。
A受審人は,その後もGPSプロッターを操作して画面を確認しなかったので,ヌハン瀬に向首していることも,第4号及び第5号両灯浮標の西側に渡久地水路の入口を示す第1号及び第2号両灯浮標が存在することにも気付かないまま,同一針路,速力で続航中,17時23分わずか前,目前に浅瀬を認めて機関を後進としたが,効なく,17時23分瀬底島灯台から040度1.2海里の地点において,原針路,原速力のまま,ヌハン瀬外縁部に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,推進器軸及び同翼に曲損を,並びに舵板に欠損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,沖縄県瀬底島北岸沖において,浅礁が散在する水域に設けられた渡久地水路に向けて進行する際,水路調査が不十分で,同水路の北側に存在するヌハン瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県瀬底島北岸沖において,浅礁が散在する水域に設けられた渡久地水路に向けて進行する場合,それまで自ら操船して同水域を航行したことがなく,その水路事情に不案内であったから,同水路の北側に存在する浅礁に乗り揚げることのないよう,GPSプロッターを操作して同島北岸沖の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,義父の操船する漁船で同水域を航行した際,一対の灯浮標の間を通過したのち瀬底水路を南下した記憶があったことから,同灯浮標を探してその間を通過すれば問題ないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,瀬底大橋の手前に視認した第4号及び第5号両灯浮標がそのときの灯浮標であると考え,両灯浮標の中央に向けて転針し,渡久地水路の北側に存在するヌハン瀬に向首進行して乗揚を招き,推進器軸及び同翼に曲損を,並びに舵板に欠損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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