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平成16年門審第113号
件名

貨物船ゼン ユアン乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年2月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年,長谷川峯清,寺戸和夫)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:ゼン ユアン船長 

損害
船首部清水タンクの船底に破口

原因
水路調査不十分,船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,水路調査が不十分であったばかりか,船位の確認が不十分で,浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月15日21時20分
 関門港響新港区白州
 (北緯33度59.0分 東経130度47.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ゼン ユアン
総トン数 498トン
登録長 48.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
(2)設備及び性能等
 ゼン ユアン(以下「ゼ号」という。)は,1980年に日本の造船所で建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端から船橋前面までが約40メートルであった。
 船橋前部の上甲板下に貨物倉2個を有し,船橋には,ジャイロコンパスが組み込まれた操舵スタンドが中央に配置され,同スタンドの右側に船内電話装置,主機遠隔操縦盤及びその前方に1号レーダーが,同スタンドの左側にフード付きレーダー,GPS受信機及び2号レーダーがそれぞれ備えられていた。なお,自動操舵装置は備えられていなかった。
 旋回性能は,全速力航行時において,右旋回の最大縦距が245メートル,最大横距が280メートルで,左旋回の各値もほぼ同様であった。
 本件当時,冷凍魚500トンを積載し,喫水は船首3.0メートル船尾3.8メートルで,眼高は約6.2メートルであった。レーダーは2台が作動中で,1号レーダーの距離レンジが主として0.5海里ないし1.5海里に,2号レーダーの同レンジが主として3海里にそれぞれ設定されていた。

3 事実の経過
 ゼ号は,A指定海難関係人ほか中華人民共和国(以下「中国」という。)人10人が乗り組み,冷凍魚500トンを積載し,平成16年7月13日11時10分(中国標準時)中国山東省石島を発し,関門海峡経由の予定で愛媛県宇和島港に向かった。
 A指定海難関係人は,船橋当直を,中国標準時の00時から04時まで及び12時から16時までを甲板長格の甲板手に受け持たせ,04時から08時まで及び16時から20時までを自らが執り,08時から12時まで及び20時から00時までを一等航海士に受け持たせ,各直に甲板手1人を配して2人1組による輪番制とし,出入港時,視界制限時及び狭水道通航時などは,必要に応じて自らの当直時間外でも昇橋し,操船指揮を執ることとしていた。
 同月15日17時00分(日本標準時,以下同じ。)A指定海難関係人は,福岡県小呂島北方沖合に達したとき,前直の甲板手と交替して船橋当直に就き,相直の甲板手を手動操舵に当たらせて玄界灘を東行し,18時ごろ降橋して夕食をとったのち再び昇橋し,18時39分少し過ぎ筑前大島灯台から337度(真方位,以下同じ。)6.1海里の地点で,備え付けの海図第201号(倉良瀬戸至角島)に当たり,針路を関門海峡西口付近に向く096度とし,引き続き機関を全速力前進にかけ,8.0ノットの対地速力で進行した。
 20時45分ごろA指定海難関係人は,妙見埼灯台の北方沖合に至り,一等航海士とその相直の甲板手が昇橋したものの,関門海峡の通峡に備えてそのまま在橋して操船指揮を執ることとし,2号レーダーを遠距離レンジに切り換えて関門海峡西口周辺の状況を見たところ,当時,高潮時で白州灯台周辺の干出岩が海面下となっていたことから,同灯台とその至近の岩場とが1点の映像となり,これを船舶の映像と誤認したものか,北九州市小倉北区藍島の西側付近には障害物などはないと思い,海図第201号に当たって障害物の存在や各航路標識の灯質を調べるなど,水路状況の調査を行わなかったので,白州の存在に気付かなかった。
 20時48分半A指定海難関係人は,白州灯台から262度4.5海里の地点に達したとき,横瀬北灯浮標に近づき過ぎるように感じたことや,藍島にもう少し寄せれば関門海峡西口に接近しやすいと考え,針路を同島の南端部に向く082度に定め,筑前丸山出シ灯浮標を右舷側に並航したときに右転して同西口に向ける予定としたものの,同針路が白州灯台の至近に向首しており,転針時機を失すると同灯台西方の浅礁に著しく接近する状況であったが,水路調査不十分で,このことに気付かないまま,一等航海士を左舷前面に配して目視による見張りのみを行わせて続航した。
 定針して間もなく,A指定海難関係人は,正船首やや右方に白州灯台の灯光を認めたものの,白州の存在に気付いていなかったことから,藍島南部付近にある灯台の灯光と錯覚し,目視による見張りのみで関門海峡西口に接近できるものと思い,一等航海士にレーダー監視を行わせるなり,自らがレーダーを監視したうえで,レーダー映像と海図とを比較し,筑前丸山出シ灯浮標の方位の監視を続けるなどの船位の確認を十分に行わなかったので,転針予定地点に近づきつつあることに気付かないまま,右舷前面に立って目視による見張りのみを行いながら進行した。
 21時07分半少し前A指定海難関係人は,白州灯台から263度2.0海里の地点に達し,筑前丸山出シ灯浮標を右舷側に1,360メートルで並航したが,依然として船位の確認を十分に行わなかったので,予定の転針が行われず,同じ針路及び速力のまま続航中,21時20分白州灯台から266度600メートルの地点において,ゼ号は,原針路,原速力のまま,浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力1の南東風が吹き,潮候は高潮時にあたり,視界は良好であった。
 乗揚の結果,船首部清水タンクの船底に破口を生じたが,引船によって引き下ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 藍島の西側付近には障害物などはないと思ったこと
2 水路状況の調査を行わなかったこと
3 白州の存在に気付かなかったこと
4 目視による見張りのみで関門海峡西口に接近できるものと思ったこと
5 レーダーを監視したうえで,レーダー映像と海図とを比較し,筑前丸山出シ灯浮標の方位の監視を続けるなどの船位の確認を十分に行わなかったこと
6 転針予定地点に近づきつつあることに気付かなかったこと

(原因の考察)
 本件乗揚は,夜間,関門海峡を通峡する目的で,これまでに航行経験のない同海峡西口に向かって東行中,浅礁に向かって進行したことにより発生したものである。妙見埼灯台北方沖合から藍島に至る間の水域は浅礁域の多いところであり,このことは,海図第201号を一見すればすぐに分かることであり,同水域に至る前に海図による水路状況の調査を行っていれば,白州の存在や,白州灯台がその中心部の面積の小さい岩場に構築されていること,また,その周辺が干出岩であり更にその外側が浅礁域となっていることが分かり,同浅礁域を避けて安全な白州南西方灯浮標の南側を通航することとなり,本件発生を防ぐことができたものである。また,筑前丸山出シ灯浮標の並航を転針予定地点と決めていたのであるから,同地点に至る前に船位の確認を行っていれば,予定通り転針でき,危険水域に立ち入ることはなかったものであり,その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,水路状況の調査を行わなかったこと,船位の確認を行わなかったことは本件発生の原因となる。
 次に,A指定海難関係人が,白州の存在に気付かなかったこと,転針予定地点に近づきつつあることに気付かなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,A指定海難関係人が,藍島の西側付近には障害物などはないと思ったこと,及び目視による見張りのみで関門海峡西口に接近できるものと思ったことは,同指定海難関係人が水路状況の調査を行わなかったこと,及び船位の確認を行わなかったことの理由とはなるものの,本件と相当な因果関係があるとは認められないが,通航経験のない海域を航行しているのであるから,海図を見ること,及びレーダー映像と海図とを比較することの重要性を十分に認識し,安全運航に心掛けなければならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,関門海峡を通航する目的で関門港響新港区を東行中,水路調査が不十分であったばかりか,船位の確認が不十分で,白州西方に拡延する浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,関門海峡を通峡する目的で,航行経験のない関門港響新港区を東行する際,レーダーを監視してその映像と海図とを比較し,並航時に転針を予定していた筑前丸山出シ灯浮標の方位の監視を続けるなどの船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,勧告しないが,今後,この経験を生かし,航行経験のない海域を通航する際には,レーダー映像と海図とを絶えず比較し,並航時に転針を行う物標についてはその方位を続けて監視するなど,船位の確認を十分に行い,安全運航に万全を期すよう努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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