(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月10日23時55分
島根県隠岐諸島島後
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十一事代丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
24.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
573キロワット |
3 事実の経過
第十一事代丸は,島根県隠岐諸島島後の西郷港を基地とし,網船や運搬船など6隻から構成された中型まき網漁業船団に所属する船首船橋型FRP製探索船兼灯船で,A受審人(平成元年2月小型船舶操縦士免許取得のところ,同16年8月一級小型船舶操縦免許に更新)及び甲板員1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成15年10月10日17時00分同港を発し,同時40分ごろ同港南西方沖合7海里の漁場に至って操業を始め,網船が投網作業に掛かったのち,21時50分同漁場を発進し,次の操業に備えて魚群探索に向かった。
ところで,A受審人は,夕方16時ごろ出港して翌日04時ごろ帰港する操業に従事し,操業中にはほとんど休息をとることができず,そのころ好天に恵まれて連日出漁していたことから,疲労が蓄積していたうえ,同日朝に前日からの操業を終えて帰港したところ,機関の冷却水系統に不具合が生じ,その修理に午後まで立ち会ったので,睡眠がとれず,睡眠不足の状態のまま出港した。
A受審人は,魚群探索を行いながら島後水道を北上したのち,23時03分少し前隠岐福浦埼灯台から257度(真方位,以下同じ。)6.0海里の地点で,針路を隠岐沖ノ島灯台の灯火を正船首少し左方に見る067度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で,島後北西岸の久見埼に向けて日本海を進行した。
定針したあと,A受審人は,操舵室右舷側の舵輪後方に置いたいすに腰を掛け,甲板員を休息させて単独の船橋当直にあたり,久見埼に5.3海里まで接近したところで魚群探索を一時中断し,次の漁場に向け針路を左方に転じて島後北岸沖合を東行するつもりで続航中,23時20分少し過ぎ隠岐福浦埼灯台から266度3.3海里の地点に差し掛かったとき,疲労の蓄積と睡眠不足から強い眠気を催したが,間もなく魚群探索を中断し,次の漁場に向け針路を転じれば当直を交替できるので,それまでは何とか我慢できるものと思い,直ちに休息中の甲板員を起こして当直を交替するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同じ姿勢で当直を続けるうち,居眠りに陥った。
こうしてA受審人は,23時22分半わずか過ぎ転針予定地点に至ったものの,居眠りに陥っていたので,このことに気付かず,予定の転針が行われないまま,久見埼に向首進行し,23時55分隠岐福浦埼灯台から046度2.9海里の地点において,第十一事代丸は,原針路原速力のまま,久見埼南側の浅所に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力3の東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
乗揚の結果,船首部から機関室に至る船底外板に破口を伴う凹損並びにプロペラ及び同軸に曲損等を生じたが,自力で離礁したあと,僚船によって西郷港に引き付けられ,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,島根県隠岐諸島島後西方沖合の日本海において,単独の船橋当直にあたって魚群探索中,居眠り運航の防止措置が不十分で,予定の転針が行われず,島後北西岸の久見埼に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,島根県隠岐諸島島後西方沖合の日本海において,単独の船橋当直にあたって魚群探索中,強い眠気を催した場合,疲労が蓄積していたうえ,睡眠不足の状態であったから,居眠り運航に陥ることがないよう,直ちに休息中の甲板員を起こして当直を交替するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同受審人は,間もなく魚群探索を中断し,次の漁場に向け針路を転じれば当直を交替できるので,それまでは何とか我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,予定の転針が行われず,島後北西岸の久見埼に向首進行して同埼南側の浅所への乗揚を招き,船首部から機関室に至る船底外板に破口を伴う凹損並びにプロペラ及び同軸に曲損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。