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平成16年広審第118号
件名

貨物船まつなみ丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年2月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:まつなみ丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
右舷側船底外板に凹損を伴う擦過傷

原因
投錨時期の選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は,投錨時期の選定が適切に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月8日07時11分
 来島海峡西水道愛媛県大浜漁港沖合広瀬

2 船舶の要目
船種船名 貨物船まつなみ丸
総トン数 497トン
全長 75.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 まつなみ丸は,40フィート型コンテナ60本を搭載可能な船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか4人が乗り組み,自動車部品約545トンをバン詰めしたコンテナ41本(20フィート型2本及び40フィート型39本)を載せ,船首2.80メートル船尾3.80メートルの喫水をもって,平成16年8月8日02時30分広島県広島港を発し,大阪港に向かった。
 ところで,出航する時点でA受審人は,沖修理を行ったことのある愛媛県今治港沖に投錨仮泊して,3時間程度のバラストタンクの小修理工事を行う予定であった。そのため発航に先立って沖修理に当たる地元造船所と仮泊地点や工事開始時期などを打ち合わせ,以前投錨仮泊したことのある同県今治市大浜漁港沖に当たる来島白石灯標(以下,冠称の「来島」を省略する。)から152度(真方位,以下同じ。)950メートルの地点付近に投錨仮泊することになり,翌8日朝から工事を始めることにした。そこで,荷役終了後工事開始に合わせて広島港から直航して翌朝投錨する予定で潮流模様を調べたところ,予定した投錨時期が来島海峡の北流最強時に当たることを知り,しかも投錨仮泊地点付近は広瀬を含む険礁域などが存在したところで,投錨に備えて減速された船体は潮流の影響を強く受け易く不測の圧流で険礁域に異常接近する危険性があったが,それまで何度か大浜漁港沖に投錨仮泊したという過信と避険線を利用すれば予定した投錨仮泊が可能と思い,潮流の最強時を避けるなど投錨時期を適切に選ぶことなく,夕方までに出航準備を完了しながらも工事開始に合わせて直航し,翌朝投錨仮泊する予定で時間を調整して深夜に出航した。
 こうして,A受審人は,出航すると自室に退き休息して,05時過ぎ安芸灘北東部の斎島北方付近で昇橋し,その後来島海峡西口付近から船橋当直に就き,予定どおり投錨仮泊地に直航するつもりで,折からの北流に抗して四国側に寄った針路で機関を全速力前進にかけ,来島海峡西水道に向かって東行した。06時50分小島を通過したころ,来島海峡海上交通センターに「07時過ぎ事前に造船所の方から連絡した仮泊地に投錨する。」旨を報告し,その後一等航海士と甲板長の両人に投錨用意を命じて自らは単独で操舵操船に当たった。やがてほぼ北流最強時に入った西水道を手動操舵によって南下し,07時00分白石灯標から012度1,200メートルの地点で,針路を避険線を利用して予定仮泊地点に向かう171度に定め,機関回転数を下げて潮流に抗しながら7.0ノットの対地速力(以下,速力は対地速力である。)で南下し続けた。間もなく同時02分半同灯標から028度740メートルの地点付近で,機関回転数を更に下げて4.0ノットの速力に減じたところ,やがて船体が減速された船速に比して折からの最強時の北流の影響を強く受けるようになり,次第に右方に圧流されるようになった。さらに予定の投錨仮泊地点まで約1,000メートルに近づいたころから,投錨のタイミングを探るべく白石灯標と大浜漁港防波堤で船位の目測に集中するようになって,潮流による圧流や広瀬等の険礁域の接近に思い至らないまま同じ針路で減速しながら続航し,07時11分白石灯標から158度420メートルの地点において,まつなみ丸は,船底接触のショックを受けると,船首が急速に四国側に振られて南西方を向首した状態で大浜漁港沖合の険礁広瀬に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で来島海峡中水道は4.9ノットの北流最強時であった。
 乗揚の結果,まつなみ丸は,右舷側船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じたが,自力で離礁し来援した引船の援助を得て予定どおり投錨仮泊し,所定の修理工事を済ませて目的地に向かった。

(原因)
 本件乗揚は,沖修理のため愛媛県大浜漁港沖の仮泊地に投錨する際,投錨時期の選定が不適切で,来島海峡の北流最強時に投錨しようとして,投錨に備えて減速された船速に比して潮流の影響を強く受けて圧流され,同港沖の険礁広瀬に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,沖修理のため愛媛県大浜漁港沖の仮泊地に投錨する場合,予定仮泊地の付近には広瀬を含む険礁域が存在し,しかも予定した投錨時期が来島海峡の北流最強時に当たり,投錨に備えて減速された船体は潮流の影響を強く受け易いから,不測の圧流で険礁域に異常接近することのないよう,強潮流時を避けるなど投錨時期の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,それまで何度か大浜漁港沖に投錨仮泊したことがあるという過信と避険線を利用すれば予定どおり投錨仮泊することができると思い,強潮流時を避けるなど投錨時期の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,予定の投錨仮泊地に近づくに伴って船位の目測に集中するようになり,潮流による圧流や広瀬等険礁域の接近に思い至らないまま減速しながら進行し,折からの最強時の北流に圧流されて大浜漁港沖の険礁広瀬への乗揚を招き,船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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