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平成16年神審第79号
件名

プレジャーボートオーシャン、ドリーム0335乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年2月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野浩三,橋本 學,平野研一)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:オーシャン、ドリーム0335船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船尾船底板に亀裂を伴う凹損,推進翼,舵板及び推進機軸に曲損

原因
針路選定不適切

主文

 本件乗揚は,針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月29日14時30分
 兵庫県洲本市Bマリーナ北東沖合
 (北緯34度20.1分 東経134度54.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 プレジャーボートオーシャン、ドリーム0335
総トン数 17トン
登録長 12.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 706キロワット
(2)設備及び性能等
 オーシャン、ドリーム0335(以下「オ号」という。)は,平成12年に第1回定期検査を受けたFRP製モーターボートで,操舵室の右舷側に操舵輪,その前にエンジン回転計,磁気コンパス,右前にはGPS,レーダー,水深計,無線電話などを備え,いすに腰掛けて操縦するようになっていた。
 操縦位置からの見通しは,視野を遮る構造物がなく良好だった。
(3)Bマリーナの状況
 Bマリーナは,兵庫県淡路島南部東岸に位置し,ヨット,モーターボートなどを,桟橋に110隻,陸上に300隻保管することが可能で,港の開口部は幅約300メートルで,開口部に2つの防波堤が設けられ,南側の防波堤(以下「南防波堤」という。)は長さ230メートル,北側の防波堤(以下「北防波堤」という。)は長さ70メートルで,ヨット,モーターボートなどが出入りする両防波堤間(以下「防波堤入口」という。)の距離は,70メートルであった。
 北防波堤北端から北方200メートル,距岸50メートルの水域は,水深が5メートル以下で,浅瀬が点在して船舶の通航はできなかった。
 両防波堤内の陸岸には大きなホテルが建ち並び,防波堤内にはホテルからの桟橋が設けられていた。

3 事実の経過
 オ号は,A受審人1人が乗り組み,友人7人が同乗し,Bマリーナに所在するホテルでの1泊を含めた周遊航海の目的で,船首0.9メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,平成16年2月29日13時30分阪南港第3区いずみさの関空マリーナを発し,Bマリーナに向かった。
 ところでA受審人のBマリーナへの入航法は,これまでの入航経験から,北防波堤北端と陸岸との間の水路幅が狭くて通航できないことは知っていたが,それより北方水域の浅瀬の状況についての知識がなかったため,陸岸に著しく接近するときは,水深計を頼りに水深5メートル以下の水域内を航行しないようにしていた。
 しかしながら,Bマリーナ周辺の水路状況について,所有海図及びGPS表示には,水深5メートル以下の詳細な浅瀬の所在が示されていなかったが,その様な浅瀬のある水域は,海底の凹凸が激しく水深が急激に変化し,単に船体直下の水深を表示するだけの水深計に頼って航行すると,乗揚のおそれがあったが,A受審人はこのことに気付いていなかった。
 14時27分A受審人は,洲本港南防波堤灯台から117度(真方位,以下同じ。)2,300メートルの地点において,針路を270度に定め,防波堤内の水域が狭く,その中で他船と出会うことを避けるため,防波堤入口の北方陸岸沖合から南下して,建ち並ぶホテルの中から,目的のホテルが防波堤内のどのあたりに位置するかを確かめようとして,水深計を見ながら陸岸に接近し,その後防波堤内の状況を見ながら防波堤入口に向けて進行するつもりでいたが,目的のホテルを探し当てるために,陸岸に著しく接近する必要がなかった。
 こうしてA受審人は,定針したとき,乗り揚げるおそれのない沖合からホテルを探し当てることは可能であったが,水深計に頼って,水深5メートルを目安に,陸岸へ接近すれば乗り揚げることはないと思い,陸岸から十分な水深のある沖合から,防波堤入口に向かう針路を選定することなく,機関を全速力前進の23.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)から,半速力前進の10.0ノットの速力に減速し,手動操舵により進行した。
 14時29分半A受審人は,洲本港南防波堤灯台から130度1,700メートルの地点において,陸岸まで180メートルに接近し,左舷前方に目的のホテルを見つけ,ホテルを更に確認するため針路を235度に転じ,水深計を見ながら4.0ノットの速力に減じて,更に陸岸に近づいていった。
 14時30分少し前A受審人は,陸岸まで約40メートルで水深表示が5メートルとなり,乗揚のおそれのある水域内に進入したとき,目的のホテルの所在が明確になり,一旦行きあしを停止し,機関を使用して防波堤入口に向け左転したところ,14時30分洲本港南防波堤灯台から138度1,700メートルの地点において,ほとんど行きあしのない状態で左回頭中,船首が180度に向いたとき,船尾が浅瀬に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力2の西南西風が吹き,潮侯は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,船尾船底板に亀裂を伴う凹損,推進翼,舵板及び推進機軸に曲損を生じ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,乗揚地点付近の水深の状況について水路調査を行っていなかったこと
2 A受審人が,陸岸に接近するときには水深計の水深により航行していたこと
3 A受審人が,陸岸から十分な水深のある沖合から,防波堤入口に向かう針路としなかったこと
4 A受審人が,陸岸に著しく接近したこと

(原因の考察)
 小型船が陸岸に著しく接近して浅瀬に乗り揚げた状況を検討する。
 陸岸近くの水域を航行する際には,陸岸近傍は水深の変化が急激で,自船の喫水に応じた,詳細な水深を記載した最大縮尺の海図を使用しなければ,航行できないことは明らかで,乗揚地点付近の最大縮尺海図は80,000分の1で,水深5メートル以下の詳細な水深の変化については記載されていない。
 当時A受審人は,陸岸近傍の水路調査ができず,また水路調査を行ったとしても,浅瀬の状況が判明しないのであるから,当時の状況からして,乗揚の危険を冒してまで陸岸に著しく接近する必然性がなかったことは明らかである。
 よってA受審人が,特に前もって水路調査を行っていなかったことは本件発生の原因とはならない。
 A受審人は,水深計表示が5メートルを示したときにはそれより陸岸に近寄らないようにしていたのであるが,水深計は船体の真下のみの水深を計測しているので,水深計だけに頼っていては,水深が大きく変化する陸岸近傍の水域において,船体周囲の浅瀬の存在を知ることはできない。
 したがって,予定した水域の自船喫水に応じた水深が記載された海図を所有せず,また他の手段によっても水路調査ができない場合には,水深計の水深表示に頼ることなく,そのような水域から遠ざかった針路を選定すべきであり,そのような措置を執らなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,兵庫県洲本港南方のBマリーナに入航する際,同マリーナ沖合からの針路選定が不適切で,水深計の水深表示を頼りに陸岸近傍の浅瀬が存在する水域に向かって航行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,兵庫県洲本港南方のBマリーナに入航する場合,同マリーナ北方陸岸近傍は,海図に記載されていない浅瀬が存在し,他の手段によっても浅瀬の所在を確認することができない状況で,特に陸岸に著しく接近する必然性もなく,また水深計の水深表示に頼って航行すると,水深計は船体直下の水深を表示するのみで,水深が急激に変化する陸岸近傍においては付近の浅瀬を予見できないから,十分な水深のある沖合から目的地に向かう針路を選定すべき注意義務があった。しかるに,同人は,水深計の水深表示を見ていれば大丈夫と思い,十分な水深のある沖合を航行中に目的地に向かう針路を選定しなかった職務上の過失により,同マリーナ北方陸岸近傍の水深が急激に変化して乗揚のおそれのあることに気付かず,水深計に頼って浅瀬に接近して乗揚を招き,船尾船底板に亀裂を伴う凹損,推進翼,舵板及び推進機軸を曲損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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