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平成16年神審第101号
件名

貨物船第十八邦友丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年2月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,中井 勤)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第十八邦友丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第十八邦友丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船底に多数の凹損

原因
針路保持不十分

主文

 本件乗揚は,針路の保持が不十分で,海岸に向首進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月22日00時33分
 長崎県平戸瀬戸
 (北緯33度22.3分 東経129度34.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十八邦友丸
総トン数 460トン
全長 71.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第十八邦友丸(以下「邦友丸」という。)は,平成8年9月に竣工し,鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,バウスラスターを有し,船橋には,前面中央にジャイロコンパス組込型操舵スタンドが設置され,その周囲には,前方の前窓の上部に舵角指示器,左方にレーダー2基,右方にGPSプロッタ,後方に海図台及び機関室監視用モニターが設置されており,積み地を愛知県豊橋港とし,主な揚げ地を千葉県市川港としながらも,月に1回程度九州方面に向かうこともあった。
 邦友丸は,最大速力が,主機回転数毎分240で12.3ノット,最大横距が,左右ともに約105メートル,全速力後進発令から船体停止までの所要時間が1分59秒で,そのときの航走距離は約285メートル,また,操舵装置が電動油圧式で,舵中央から舵角35度への転舵所要時間が7秒,30度回頭するまでの所要時間が21秒であった。

3 事実の経過
 邦友丸は,A,B両受審人ほか3人が乗り組み,鋼材1,270トンを積載し,船首3.35メートル船尾4.60メートルの喫水をもって,平成15年9月18日16時30分豊橋港を発し,平戸瀬戸を南航する予定で,長崎県長崎港に向かった。
 ところで,平戸瀬戸は,S字型に湾曲した地形で複雑な潮流の海上交通の難所といわれる水道であり,船長が自ら操船指揮を執るとともに,操舵する際は,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見て舵効き状況を確認するなどして,針路の保持を十分に行う必要があった。
 A受審人は,従来から船橋当直を3人による4時間3直交代制とし,平戸瀬戸等の狭い水道を通峡する際も,狭視界及び強潮流時以外は当直順の単独当直として自ら操船指揮を執ることはなかった。
 9月21日23時45分A受審人は,平戸瀬戸北口北東方8海里の地点において,視界が良く,潮流が弱い転流前でもあり,同瀬戸は狭いので気を付けるようにと指示しただけでB受審人に船橋当直を引き継いで機関室に赴き,機関を点検することとした。
 翌22日00時26分少し前A受審人は,広瀬導流堤灯台から018度(真方位,以下同じ。)5.3海里の地点に達したとき,予定どおり平戸瀬戸に接近していることを知っていたが,機関の点検を続け,B受審人が単独での通峡経験があったので,そのまま船橋当直を任せても大丈夫と思い,昇橋して操船指揮を執らなかった。
 このとき,B受審人は,レーダー2基をそれぞれ3海里及び1.5海里レンジとしたうえ,手動による操舵に慣れていなかったものの,手動操舵に切り替えて舵輪の後方に立ち,GPSプロッタ画面の予定針路線に船首線を表示した自船の位置を乗せるよう操船しながら平戸瀬戸に向かった。
 00時29分B受審人は,広瀬導流堤灯台から277度190メートルの地点に達したとき,機関を回転数毎分230の全速力前進にかけ10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,後方から波高1.5メートルのうねりを受けながら,針路を181度に定めて進行したが,その後,GPSプロッタ画面上の船首線に気を取られ,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見て舵効き状況を確認するなどして,針路の保持を十分に行わなかったので,船首方位が定まらず,船首線を安定させるため徐々に舵角を大きく取ることを余儀なくされながら続航した。
 00時31分少し過ぎB受審人は,南風埼灯台から329度470メートルの地点に達したとき,GPSプロッタ画面上の船首線が右に振れたので,左舵一杯を取ったところ,船首が大きく左転する状況となったが,依然,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見なかったので,舵を中央に戻したものの,船首線が安定せず,舵効きの状況を十分に把握できないまま気が動転したことから,南風埼海岸に向首していることに気付かずに進行中,00時33分わずか前南風埼灯台を船首方に認め,右舵一杯,機関中立としたが及ばず,00時33分邦友丸は,南風埼灯台から326度70メートルの地点において,162度に向首し,原速力のまま南風埼海岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力4の北北東風が吹き,北方からのうねりの波高1.5メートル,潮候はほぼ低潮時で,付近には1.0ノットの南に流れる潮流があった。
 A受審人は,機関が中立となった音を聞いて,船橋への階段を登り始めたときに衝撃で乗揚を知り,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底に多数の凹損を生じ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,日頃,狭い水道を通峡する際,単独の船橋当直体制としていたこと
2 A受審人が,予定どおり平戸瀬戸に接近していることを知っていたが,昇橋して操船指揮を執らなかったこと
3 南航中,南へ流れる1.0ノットの潮流があったこと
4 B受審人が,手動操舵に慣れていなかったこと
5 後方から波高1.5メートルのうねりを受けていたこと
6 B受審人が,GPSプロッタ画面上の船首線を安定させることに気を取られ,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見て舵効き状況を確認するなどして,針路の保持を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件乗揚は,夜間,海上交通の難所である長崎県平戸瀬戸に,予定どおり接近していることを知っていたA受審人が,昇橋して操船指揮を執っていなかったため,B受審人が針路を保持できないまま,南風埼海岸に向首進行したもので,A受審人が,昇橋して操船指揮を執り,B受審人を操舵にあてて適切な操舵指示を与えていれば,余裕を持って針路の保持ができたものと思われる。
 したがって,A受審人が,昇橋して操船指揮を執らなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,B受審人が,GPSプロッタ画面上の船首線を安定させることに気を取られ,針路が保持されず,南風埼海岸に向首進行して乗り揚げたもので,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見て舵効き状況を確認するなどして,針路の保持を十分に行っていれば,南風埼海岸に向首進行することはなかった。
 したがって,B受審人が,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見て舵効き状況を確認するなどして,針路の保持を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,日頃,狭い水道を通峡する際,船橋当直を単独当直としていたこと,B受審人が,手動操舵に慣れていなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 邦友丸が,南航中,南へ流れる1.0ノットの潮流があったこと,後方から波高1.5メートルのうねりを受けていたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,長崎県平戸瀬戸を南航中,針路の保持が不十分で,南風埼海岸に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,平戸瀬戸に接近していることを知った際,昇橋して操船指揮を執らなかったことと,船橋当直者が針路を十分に保持しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,夜間,長崎県平戸瀬戸を通峡の目的で同瀬戸に接近した場合,昇橋して操船指揮を執るべき注意義務があった。しかるに同人は,平戸瀬戸を単独での通峡経験がある船橋当直者に任せても大丈夫と思い,昇橋して操船指揮を執らなかった職務上の過失により,船橋当直者が針路を保持できないまま南風埼海岸に向首進行していることに気付かず,同海岸に乗り揚げ,船底に多数の凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人が,夜間,長崎県平戸瀬戸を手動操舵により通峡する場合,南風埼海岸に向首進行しないよう,舵角指示器及びジャイロコンパスの示度を見て舵効き状況を確認するなどして,針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は,GPSプロッタ画面上の船首線を安定させることに気を取られ,針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により,船首方位が定まらないまま動転し,南風埼海岸に向首進行していることに気付かず,同海岸に乗り揚げ,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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