(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月9日12時20分
伊万里港
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船第二貴丸 |
総トン数 |
4.6トン |
登録長 |
10.58メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
209キロワット |
3 事実の経過
第二貴丸(以下「貴丸」という。)は,昭和52年に進水したFRP製交通船兼作業船で,A受審人(平成元年3月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,回航の目的で,船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年2月9日10時35分佐賀県呼子港の係留地を発し,伊万里港に向かった。
ところで,伊万里港は,伊万里湾東部に位置する福島の東西両側に入航水路があり,東側の水路にはコージボ瀬戸及びタツノ瀬戸の狭い水道があって,小型船が通航するようになっており,タツノ瀬戸から港域内に入ると幅0.4海里ばかりの海域の両側に島しょが連なってほぼその中央付近に当たる,伊万里港福島灯標から南東方0.7海里付近にカマブタ瀬と称する浅礁が存在していた。
A受審人は,以前にタツノ瀬戸の北方約1,000メートルのところにある福島大橋近くを基地とした漁船に乗り組んで,何度か伊万里港に入航した経験があり,そのときはカマブタ瀬が存在することを知らなかったものの,船主から福島よりの海域には浅礁があることを聞き,同島を離すよう南よりの海域を航行するようにしていたが,今回約10年ぶりに伊万里港へ入航するに当たり,カマブタ瀬が存在することを失念したまま,過去に入航した経験があるので大丈夫と思い,発航に先立ち,海図W166を入手するなどして付近の水路調査を十分に行わなかった。
こうして,A受審人は,離岸操船に引き続いて操舵操船に当たり,呼子港内を北上して波戸岬を左舷側に見て南下したのち,11時25分ごろ日比水道北口に入航して同水道を南下し,伊万里湾内から福島の東側水路に入航して,コージボ瀬戸及びタツノ瀬戸を通過し,12時16分伊万里港福島灯標から078度(真方位,以下同じ。)2,000メートルの地点に当たる港界付近の海域に達したとき,針路を219度に定め,機関を全速力前進よりやや減じて10.0ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
定針したとき,A受審人は,カマブタ瀬に向首する状況となったが,水路調査を行っていなかったのでこのことに気付かず続航し,12時20分貴丸は,伊万里港福島灯標から116度1,300メートルの地点に当たるカマブタ瀬に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果,貴丸は,船底に破口を伴う擦過傷を,舵板,プロペラ翼及び同軸に曲損をそれぞれ生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,佐賀県呼子港を発航するに当たり,水路調査が不十分で,伊万里港内のカマブタ瀬と称する浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,回航のため約10年ぶりに伊万里港に向けて佐賀県呼子港を発航する場合,発航に先立ち,海図W166を入手するなどして伊万里港東口付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,過去に入航した経験があるので大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,カマブタ瀬と称する浅礁が存在することを失念したまま,同浅礁に向首進行して乗揚を招き,船底に破口を伴う擦過傷を,舵板,プロペラ翼及び同軸に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。