(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月4日00時37分
沖縄県沖縄島大嶺鼻沖
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船春風III世丸 |
総トン数 |
2.6トン |
登録長 |
9.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
春風III世丸は,船体中央部のやや船尾寄りに操舵室を設け,平成13年8月に船舶検査証書が交付されたFRP製小型遊漁兼用船で,同16年6月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,友人4人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同年8月3日19時00分沖縄県那覇港新港ふ頭地区にある物揚場を発し,19時30分同県沖縄島南西岸にある大嶺鼻の沖に当たる,琉球大瀬灯標(以下「大瀬灯標」という。)の北北東方約1,600メートルの釣り場に至って釣りを始めた。
ところで,A受審人は,魚群探知機,レーダー及びGPSプロッターなどの航海計器が装備されていない春風III世丸を船舶所有者の指導を受けながら操縦したことがあったので,その操縦方法などを承知していたものの,単独で操縦するのは2回目であったばかりか,夜間の操縦は初めての経験であった。
A受審人は,大瀬灯標及び那覇港那覇防波堤北仮設灯台(以下「那覇防波堤北灯台」という。)などの見え具合や釣り糸の伸出量などから水深20メートルないし30メートルの前示釣り場に留まって釣りを続けたものの,芳しい釣果を得ることができなかったため,大瀬灯標付近の裾礁域外縁近くにある釣り場に移動することとし,翌4日00時22分大瀬灯標から016度(真方位,以下同じ。)1,650メートルの地点を発進し,針路を同灯標のわずか東側に向かう191度に定め,機関を半速力前進にかけて5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
A受審人は,それまで数多く大瀬灯標周辺の水域で釣りをしたことがあったため,同灯標と那覇防波堤北灯台とを結ぶ線上付近の釣り場を目指し,裾礁域がその南東側約50メートルのところまで張り出していることを承知していたものの,夜間の操縦などにあまり慣れていなかったため,同域外縁に著しく接近することがないよう,そこに生じることが多い砕け波を目印にすることとした。
A受審人は,00時28分大瀬灯標から022度730メートルの地点に達したとき,裾礁域外縁近くの釣り場に近づいたことを知ったが,砕け波などを見付けてもらうつもりで船首に懐中電灯を携えた同乗者2人を見張り員として配置したことから,同釣り場に到達する前に砕け波を視認することができるものと思い,大瀬灯標及び那覇防波堤北灯台を利用するなどして船位の確認を十分に行うことなく,極微速力前進の2.0ノットにして続航した。
こうして,A受審人は,折から穏やかな海面状態のために大瀬灯標付近の裾礁域外縁に砕け波が生じていない状況下,自らも砕け波を探すつもりで前路に目を向けていたため,00時35分半目指した釣り場に当たる,同灯標から041度280メートルの地点を通り越したことに気付かなかったばかりか,その後懐中電灯の明かりで同裾礁域外縁を視認した見張り員から口頭による報告がなされたものの,主機の騒音によりこの報告にも気付かなかった。
このため,見張り員が前示裾礁域外縁に著しく接近する状況となっても行きあしを止めないことに乗り揚げる危険を感じ,操舵室に懐中電灯の明かりを向けた直後,春風III世丸は,00時37分大瀬灯標から055度200メートルの地点において,原針路,原速力のまま,前示裾礁域の外縁部に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期で視界は良好であった。また,月齢は17.5日で月出時刻は8月3日21時19分であった。
乗揚の結果,船底外板に擦過傷を生じたが,のち修理された。
A受審人は,船体の衝撃で大嶺鼻沖の裾礁域に乗り揚げたことを知り,同域に降り立ち,船体を押して離礁させようとしたものの動く気配がなかったため,携帯電話で海上保安部に救助を要請し,03時55分来援した巡視艇に同乗者ともども救助された。一方,春風III世丸は,上げ潮期を見計らって同船に戻ったA受審人等により,07時46分ごろ自力離礁し,発航地に戻った。
(原因)
本件乗揚は,夜間,沖縄県沖縄島大嶺鼻沖において,大瀬灯標付近の裾礁域外縁近くにある釣り場に接近する際,船位の確認が不十分で,同外縁に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,沖縄県沖縄島大嶺鼻沖において,大瀬灯標付近の裾礁域外縁近くにある釣り場に接近する場合,同外縁に著しく接近することのないよう,同灯標及び那覇防波堤北灯台を利用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,船首に懐中電灯を携えた同乗者を見張り員として配置したことから,前示の釣り場に到達する前に裾礁域外縁付近に生じる砕け波を視認することができるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,折から穏やかな海面状態のために大瀬灯標付近の裾礁域外縁に砕け波が生じていない状況下,同釣り場を通り越したことも,その後同裾礁域外縁に著しく接近する状況となっていることにも気付かないまま進行して乗揚を招き,船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。