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平成16年門審第114号
件名

漁船第八隆幸丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年1月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

理事官
島友二郎

受審人
A 職名:第八隆幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月22日20時10分
 山口県特牛港港口

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八隆幸丸
総トン数 14トン
登録長 15.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160

3 事実の経過
 第八隆幸丸(以下「隆幸丸」という。)は,いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で,小型船舶操縦士(一級,特殊,特定)の操縦免許証を受有するA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成16年2月21日14時00分基地とする山口県特牛港を発し,同港西方沖合約33海里の漁場に向かい,17時ころ到着して操業を始め,翌22日04時半ころこれを終え,同夜の操業に備えて漂泊待機していたところ,風波が強まってきたことから基地に向けて帰航することとし,17時00分特牛灯台から273度(真方位,以下同じ。)27.6海里の地点を発進し,帰途に就いた。
 ところで,隆幸丸は,船体中央部に操舵室があり,同室前部の中央に舵輪,同左舷側に魚群探知機,同右舷側に主機遠隔操縦ハンドルが装備され,同室後部の右舷側壁に取付けられた台の上にレーダー及びGPSプロッターが設置されていた。レーダーは,操縦者が舵輪の後ろに立つと右真横の位置となり,同ハンドル操作を行うために同室前部に移動すると,その画面を見ることができない状況であった。
 また,特牛港は,山口県の北西部に位置して東側に入り込んだ地方港湾で,その港口が西方の響灘に面しており,同港内の南岸には魚市場が設けられ,玄界灘周辺を漁場とするいか釣り漁船の基地になっていた。同港の港口付近には,多くの瀬や暗岩などの険礁域が散在し,港口の西方100メートルのところに1.9メートルの干出岩を含む特牛地ノ瀬(以下「地ノ瀬」という。)があって西方に約100メートル,及び同瀬の西端から西方60メートルのところに2.5メートルの干出岩を含む平瀬があって南西方に約150メートルそれぞれ拡延していた。このため,港口の北側に設置されている特牛灯台の灯光は,灯質が単明暗白赤光で明6秒暗2秒,灯高が27メートル,光達距離が13海里で,灯光を望む方位が095度から104度までの間に白光の中央分弧が設けられて安全な航行水域を,その両側の035度から095度までの間に赤光の南側分弧が設けられて鼠島,壁岩及び港口付近の険礁域を,並びに104度から170度までの間に赤光の北側分弧が設けられて双子島及び港口付近の険礁域をそれぞれ示していた。さらに,同灯台には,灯質が不動白光,灯高が26メートルの地ノ瀬照射灯が併設されており,その灯光が,同灯台から242度約110メートルの地ノ瀬上に設置された高さが平均水面上3メートルで,白色に塗装された円錐台形状のコンクリート製標柱(以下「標柱」という。)を照らすようになっていた。そして,標柱と特牛港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)とを重視する線(以下「重視線」という。)と東側の陸岸との間に,可航幅約60メートルの狭い水道が形成されていた。
 特牛港に夜間入港する船舶は,平瀬及び地ノ瀬に接近しないように,特牛灯台の白光で示される安全な航行水域の範囲内を東行し,標柱と南防波堤灯台とを重視する地点に至ったら右転し,重視線を避険線としてその西側に出ないよう,同線に沿う142度の針路で狭い水道を通航して港内に向かう必要があった。
 A受審人は,平成元年から隆幸丸に船長として乗船し,周年にわたり,特牛港を基地として長崎県対馬東方沖合から山口県角島北方沖合までの間を漁場とするいか一本つり漁業に従事しており,同港には毎年30回以上の入出港の経験があったが,午後の明るいうちに出港して朝方明るくなってから入港する機会が多く,夜間入港はこれまでに3回経験しただけであった。同受審人は,同港の入口周辺に険礁域が拡延していることも,特牛灯台の赤光の範囲を航行することが危険であることも知っており,昼間入港する際には,標柱,南防波堤灯台及び港口付近の浅瀬を目視しながら航行し,夜間入港するときには,特牛灯台の白光の範囲内を東行した後,標柱と南防波堤灯台とを重視するところで右転して港口に向かっていた。
 こうして,A受審人は,19時59分半特牛灯台から275度1,100メートルの地点で,針路を同灯台の白光に向く095度に定め,機関を極微速力前進にかけ,3.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室の右舷側前面に立って同白光を見ながら,右手を主機遠隔操縦ハンドルに当て,左手に舵輪を持って手動操舵により進行した。
 A受審人は,レーダーを作動させてはいたものの,操舵室前面に立っていてその画面を見ることができない状況の下,特牛灯台の南側分弧の赤光が見えると少し左舵を取って白光の範囲に入るように,時々針路を補正しながら続航した。
 20時07分半A受審人は,特牛灯台から275度350メートルの地点に達し,右舷船首15度280メートルのところに標柱を初めて認めたとき,同柱を過ぎたら直ぐに港口に向けて右転することとしたものの,標柱と南防波堤灯台とを重視する地点に至ってから転針しないと,標柱の西側に拡延する地ノ瀬に著しく接近するおそれのある状況であったが,同柱を正船首わずか右に見ながら東行すれば無難に地ノ瀬を替わすことができるものと思い,標柱と南防波堤灯台との重視を確かめるなどして船位を十分に確認することなく,このことに気付かないまま,針路を110度に転じ,標柱を正船首わずか右に見ながら,同じ速力で進行した。
 A受審人は,転針したことによって地ノ瀬に著しく接近する状況となり,標柱を航過したのちに右転を始めるつもりで続航中,20時10分特牛灯台から254度130メートルの地点において,隆幸丸は,原針路,原速力のまま,船尾船底が,地ノ瀬の北側岩礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力5の南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 A受審人は,船尾船底の異音を聞いて咄嗟に地ノ瀬に乗り揚げたことを知り,機関を中立に引き続き後進にかけたところ,船体が後退して離礁できたものの,損傷状況を点検したところ,機関室が浸水していることや舵が効かないことが分かり,機関を停止して自宅に電話連絡しているうちに,折からの南西風によって北東方に圧流され,特牛港の北側に隣接する肥中漁港の港口北岸の岩礁に漂着して再度乗り揚げた。
 乗揚の結果,隆幸丸は,船底に破口及び舵の破損を生じ,翌々日クレーン船によって引き下ろされ,山口県油谷港内の粟野港岸壁に陸揚げされたが,引き下ろし作業中に船体が全損し,のち解撤処理された。

(原因)
 本件乗揚は,夜間,山口県特牛港の港口において,同港に入航中,船位の確認が不十分で,地ノ瀬に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,山口県特牛港の港口において,特牛灯台の白光で示される安全な航行水域を東行して入航中,港口に向けて転針する場合,同港口付近に地ノ瀬などの険礁域が拡延していることを知っていたのであるから,同険礁域に著しく接近しないよう,標柱と南防波堤灯台との重視を確かめるなどして船位を十分に確認するべき注意義務があった。ところが,同人は,標柱を正船首わずか右に見ながら東行すれば無難に地ノ瀬を替わすことができるものと思い,船位を十分に確認しなかった職務上の過失により,地ノ瀬に著しく接近する状況に気付かないまま進行して乗揚を招き,隆幸丸の船底に破口及び舵の破損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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