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平成16年神審第93号
件名

漁船第十八司丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年1月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一,甲斐賢一郎,橋本 學)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第十八司丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部圧壊,シューピース及び舵等を損傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月25日13時30分
 和歌山県串本町大島北岸
 (北緯33度28.8分 東経135度48.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十八司丸
総トン数 18トン
全長 19.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
(2)設備及び性能等
 第十八司丸(以下「司丸」という。)は,平成11年12月に竣工した一層甲板型FRP製漁船で,船首から約13メートルに操舵室を備え,同室には,レーダーを2基及びGPSを装備しており,最大速力は,機関回転数毎分1,300の約8ノットで,極微速力は,同毎分600の約2ノットであった。

3 事実の経過
 司丸は,A受審人ほか息子2人が乗り組み,まぐろを水揚げしたのち回航の目的で,船首0.7メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成16年2月25日11時30分和歌山県勝浦港を発し,高知県以布利港に向かった。
 A受審人は,勝浦港から以布利港に向かう場合,潮岬半島東方に位置する大島の南方沖合を経由すると,逆潮で流れが速いうえに,大型船と頻繁に行き会い,危険を感じるので,平素は樫野埼北方沖合から同半島と同島間の串本港内を通過して紀伊半島西岸に出ることとしていた。
 A受審人は,出航操船に引き続き,視界が良好であったので,レーダーを休止としたまま単独の船橋当直に就いたのち,12時40分ころ梶取埼南方沖合において,周囲に航行の支障となる他船を見かけず,また串本港東口に向ける転針地点に達するにはしばらく時間があったことから,次回の出漁に備えてまぐろはえ縄の準備を思い立ち,操舵室下の物入れから枝縄と釣り針を操舵室に持ち込んだ。
 13時00分A受審人は,樫野埼灯台から033度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点で,針路を249度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 定針したのち,A受審人は,舵輪後方の椅子に腰掛けて枝縄に釣り針を取り付ける作業を始めたところ,腰掛けたままでは船首方の見通しが悪かったので,時々首を伸ばして周囲を見まわしたり,GPSの表示を覗き込むなどしながら,続航した。
 13時17分A受審人は,樫野埼灯台から324度1.4海里の地点で,転針地点まで0.5海里となり,このまま進行すれば,戸島埼南東方の岩場に乗り揚げる状況となったが,枝縄に釣り針を取り付ける作業に気を取られ,転針時機を失しないよう,レーダーの電源を入れてその映像やGPSの表示を確認し,戸島埼までの距離を測定するなど,船位の確認を十分に行わなかった。
 13時21分A受審人は,戸島埼が,ほぼ正船首方1.2海里となって転針地点に達したが,依然船位の確認を行わなかったので,転針地点を通過したことに気付かず,戸島埼に向首したまま進行中,13時30分戸島埼灯台から134度150メートルの地点において,司丸は,原針路,原速力で,船首船底部が大島北岸の岩場に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で,風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,船首部を圧壊し,シューピース及び舵並びにプロペラとシャフトにそれぞれ損傷を生じたが,14時00分自力で離礁して土佐清水港に向かい,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 舵輪後方の椅子に座ったままでは,司丸の船首方の見通しが悪かったこと
2 A受審人が,次回の出漁に備え,操舵室内で,枝縄に釣り針を取り付ける作業にあたっていたこと
3 A受審人は,転針地点まで0.5海里の地点に達したものの,レーダーの映像やGPSの表示を十分に確認するなど,船位の確認を行わないで進行したこと

(原因の考察)
 A受審人が,串本港内を通過するため,同港東口に向けて西行中,転針地点手前で,レーダーの電源を入れてその映像やGPSの表示を十分に確認して,戸島埼までの距離を測定するなど,船位の確認を十分に行っていれば,転針地点において串本港東口に向かう所定の針路に乗っていくことは可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,転針地点手前で,船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,船首方の見通しが悪くなる舵輪後方の椅子に腰掛けたまま,次回の出漁に備え,枝縄に釣り針を取り付ける作業にあたったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,船位の確認を十分に行っていたならば,転針地点において,所定の針路に向けることは可能であったのであるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は,和歌山県串本港北東方沖合において,同港を通過するため,東口に向け西行する際,船位の確認が不十分で,戸島埼に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,和歌山県串本港北東方沖合において,同港内を通過するため,東口に向け西行する場合,転針時機を失しないよう,レーダーの電源を入れてその映像やGPSの表示を確認して,戸島埼までの距離を測定するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,枝縄に釣り針を取り付ける作業に気を取られ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,転針地点である戸島埼の北東方1.2海里の地点を通過したことに気付かず,戸島埼に向首したまま進行して乗揚を招き,船首部を圧壊させ,シューピース及び舵並びにプロペラとシャフトにそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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