(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月12日23時20分
平戸瀬戸
(北緯33度22.8分 東経129度34.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船利根丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
51.56メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
487キロワット |
(2)設備及び性能等
利根丸は,沿海区域を航行区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,主に九州と京浜地区の間をばら積み貨物の輸送に従事していた。
3 事実の経過
利根丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,ガラス再生材料であるガラスカレット680トンを積載し,船首2.7メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年3月12日12時10分熊本県八代港を発し,愛知県衣浦港に向かった。
発航にあたり,A受審人は,船橋当直を自らが06時から12時及び18時から24時,一等航海士が00時から06時及び12時から18時の6時間交替制の単独2直制として,平戸瀬戸を北上し,九州の北側を回る計画とした。同人が一等航海士に命じて平戸瀬戸通過の時刻と潮流の状況を調査させたところ,自身の当直時間帯が北流の最強時ごろに当たることが判明していた。
17時50分,A受審人は,野母崎北西方沖合で一等航海士から当直を引き継ぎ,平戸瀬戸に向け進行した。
ところで,平戸瀬戸は,九州本土の北西端と平戸島の間に位置する延長2海里の水道で,S字型に湾曲しており,北側水路では,ほぼ中央に存在する広瀬及び同導流堤により東水道と西水道に二分されていた。水路誌の針路法では,総トン数500トン以下の北上船は,大角度の変針を避けて東水道を中央よりやや右側寄りに航行することが推奨されていた。A受審人は,以前も同瀬戸を北流時に北上するなど何度か通航した経験があり,水路の状況や推奨された針路法も十分に承知していた。
23時13分半A受審人は,平戸大橋の中央を航過して平戸瀬戸に入り,陸上の明かりで海面に渦が巻いていることに気が付いて,潮流が予想より強いと感じたものの,漁船に注意しながら,あらかじめ海図に記入された予定航路線上に沿って水路の中央を行けばよいものと考え,手動操舵によって続航した。
23時17分A受審人は,広瀬導流堤灯台(以下「導流堤灯台」という。)から188度(真方位,以下同じ。)1,270メートルの地点に達したとき,針路を000度に定め,折からの順流に乗じて機関を全速力前進にかけ,14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
23時18分半少し過ぎA受審人は,導流堤灯台から198度600メートルの地点に至ったとき,転舵による新針路距離と潮流による圧流を考慮すれば,東水道の中央を航行するために右転を開始する時機となったが,レーダー画面を見ながら予定航路線の屈曲点である,平戸瀬戸牛ヶ首灯台に並航する地点から転針を開始し,東水道中央に船首を合わせていけば無難に航過できるものと思い,転舵を開始することなく続航した。
23時19分わずか過ぎA受審人は,予定航路線の屈曲点である導流堤灯台から205度420メートルの地点で,針路を東水路の中央へ向く050度にするつもりで,右舵5度及び同10度の舵角を繰り返しながら右転を始めたが,次第に広瀬に圧流され始めた。
23時20分少し前利根丸は,導流堤灯台に100メートルまで接近したとき,右舵一杯とされたものの,及ばずさらに接近して23時20分導流堤灯台から180度20メートルの地点において,船首を105度に向けた状態で原速力のまま導流堤灯台南方の浅瀬に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,広瀬付近では4.0ノットの北流があった。
乗揚の結果,左舷船体中央部の船底に破口及び多数の凹損を生じたが,引船により引き降ろされ,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,東水道を中央よりやや右側寄りに航行するという推奨された針路法をとらなかったこと
2 A受審人が,転舵開始時機を適切に選定しなかったこと
3 A受審人が小角度の舵角で右転を開始したこと
(原因の考察)
利根丸は,潮流の北流最強時に水道の中央を全速力で,予定航路線上に沿ってレーダーで水道の中央を確認しながら北上し,予定航路線の屈曲点に至ってから小角度の舵角で右転を開始したが,転舵による新針路距離と潮流による影響を考慮していなかったので,導流堤灯台南方の浅瀬に著しく接近して乗り揚げることになった。事前に潮流による影響などを考慮して転舵開始時機について検討し,早期に転舵を開始していれば,圧流されて予定航路線から大きく逸脱することはなかったであろう。したがって,A受審人が,転舵開始時機を適切に選定しなかったことは本件発生の原因となる。
推奨された針路法をとらなかったことと小角度の舵角で右転を開始したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,北流最強時の平戸瀬戸を北上中,東水道に向けて針路を転じる際,転舵開始時機が不適切で,東水道北側の広瀬導流堤南方の浅瀬に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北流最強時の平戸瀬戸を北上中,東水道の中央に向けて針路を転じる場合,航行を予定した東水道中央から広瀬導流堤南方の浅瀬に接近しないよう,事前に潮流の影響について検討しておくなど,転舵開始時機を適切に選定すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,以前も同瀬戸を北流時に北上するなどの経験があったので,レーダー画面を見ながら平戸瀬戸牛ヶ首灯台と並航してから東水道中央に船首方向を合わせていけば無難に航過できるものと思い,転舵開始時機を適切に選定しなかった職務上の過失により,潮流に圧流されて水路中央から大きく外れ,同浅瀬への乗揚を招き,左舷船体中央部の船底に破口及び多数の凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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