(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月2日10時15分
瀬戸内海安芸灘
2 船舶の要目
船種船名 |
ヨット樹の花 |
全長 |
7.01メートル |
登録長 |
7メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
5キロワット |
3 事実の経過
樹の花は,軽クルーザーと称する深さが約1.5メートルのバラストキールを有する船外機付きFRP製ヨットで,A受審人が1人で乗り組み,知人1人を乗せ,クルージングの目的で,船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,平成16年5月2日06時20分愛媛県今治市大三島町浦戸を発し,機走と帆走とを交互に繰り返しながら同県堀江港に向かった。
A受審人は,同15年7月に弟と共同で樹の花を購入し,同年8月二級小型船舶操縦士(5トン)免許を取得したのち,同月及び翌16年4月に弟と2人でクルージングを楽しみ,今回が初めて船長として航海することとなった。
ところで,愛媛県の波妻ノ鼻北東方1.6海里には,海岸から約500メートル沖合に東西300メートル南北200メートルにわたって干出岩や暗岩を含む汐出磯が拡延し,その北端に右舷標識の汐出磯灯標が設置されており,これらが樹の花に備え付けの海図(W141号)及びヨット・モーターボート用参考図(H−147W号)に記載されていた。
A受審人は,来島海峡を桴磯(いかだ)まで南下したのち,梶取ノ鼻付近から推薦航路に沿って南西進する予定であったところ,天気が良かったことから景色も楽しむつもりで波妻ノ鼻北東の松山市北岸に近づくこととし,同海域の航行は初めてであったが,その際,海岸から数百メートル離れれば険礁はないものと思い,備え付けの海図及びヨット・モーターボート用参考図に当たって陸岸沿いの険礁域を調べるなどの水路調査を十分に行わないまま,09時42分半菊間港防波堤灯台から310度(真方位,以下同じ。)1,200メートルの地点で,針路を220度に定め,機関を全速力前進にかけて5.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
A受審人は,コックピットの右舷側に腰掛けてチラーを握り,左舷側に知人を座らせ,10時02分半汐出磯灯標から059度1.0海里の地点に達したとき,右舷船首19度1.0海里に汐出磯灯標を認め,同灯標の南側至近を航行することとして針路を237度に転じたが,同針路で進行すると汐出磯に乗り揚げる危険があったものの,依然として水路調査を十分に行わなかったので,同灯標が右舷標識であることに気付かずに続航中,10時15分汐出磯灯標から226度70メートルの地点において,樹の花は,原針路,原速力のまま,干出岩に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,バラストキールに亀裂等を生じたが,来援船により満潮を待って引き下ろされ,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,安芸灘を愛媛県堀江港に向けて南西進中,水路調査が不十分で,汐出磯に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,愛媛県今治市大三島町浦戸から同県堀江港に向け南西進中,波妻ノ鼻北東の松山市北岸に近づこうとする場合,険礁域の有無を確かめるよう,海図及びヨット・モーターボート用参考図に当たるなどして,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,海岸から数百メートル離れれば険礁はないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,汐出磯に向首進行して乗揚を招き,バラストキールに亀裂等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。