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 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年長審第45号(第1)
平成16年長審第48号(第2)
件名

(第1)漁船第三国見丸養殖施設衝突事件
(第2)漁船第三国見丸沈没事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月1日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:第三国見丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
(第1)船底に破口,海苔養殖施設の海苔網,外縁ロープ及びアンカーロープ等に損傷
(第2)操舵室及び機関室の機器に濡損,船体に亀裂,のち廃船

原因
(第1)船位確認十分
(第2)船体の損傷時の確認不十分

主文

(第1)
 本件養殖施設衝突は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
(第2)
 本件沈没は,船体の損傷状況の確認が不十分で,船底に破口を生じて浸水したまま回航したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成15年11月9日05時00分
 島原湾
 (北緯32度57.1分 東経130度13.6分)
(第2)
 平成15年11月9日08時25分
 島原湾
 (北緯32度58.0分 東経130度15.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三国見丸
総トン数 4.91トン
登録長 12.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
(2)設備及び性能等
 第三国見丸(以下「国見丸」という。)は,昭和50年9月に進水した船尾楼付きの和船型FRP製漁船で,船尾楼甲板上に操舵室,同甲板下に機関室,前部甲板下に船首側から順に1ないし6番の各船倉が配置され,各船倉間及び6番船倉と機関室間にはそれぞれ隔壁を設け,3番及び6番をいけす,5番を物入れ,その他は空気室とし,前部甲板船首部に揚網機を備えていた。
 機関室は,中央に主機を備え,操舵室の両舷通路船首側にそれぞれ設けた縦及び横が約0.8メートル及び約0.5メートルのさぶた付き開口部のほか,操舵室床面前部中央に横板を敷き詰めた縦横いずれも約1メートルの開口部を設け,いずれからも機関室に出入りできるようになっていた。
 プロペラ及びプロペラ軸は,船尾管の後方で自在継手が組み込まれて油圧で同軸を上下できる装置が設けられ,その引上げ軸がブラケットでプロペラ軸に接続され,船尾船底の凹部に取り付けられた引上げ軸ガイドを通り,船尾楼甲板上の油圧シリンダのアームと連結され,船体を砂浜に上げるときなどに同凹部内に引き上げて保護するようになっていた。

3 佐賀県竹崎島沖合の海域
 有明海の南部西岸の諫早湾口北部に当たる竹崎島沖合には,養殖区画が設定され,その区画は,夜灯鼻灯台から093度(真方位,以下同じ。)900メートル,117度2,250メートル,150度2,250メートル,175度850メートルの各地点を順次結んだ線に囲まれた区域で,例年9月ごろから翌年5月ごろまでの間,同区画内には浮き流し海苔養殖施設(以下「海苔養殖施設」という。)が設置され,西端付近を含めて同区画内の四隅には点滅式簡易標識灯が設けられ,また,竹崎島南端から南方約100メートルの地点から南東方約150メートル,南西方約100メートルの矩形に囲まれた区画に垂下式かき筏が設置されていた。
 そして,諫早湾口には,竹崎島南岸付近から133度方向に点滅式簡易灯付きの諫早湾干拓事業B4地点観測櫓(以下,観測櫓の名称については「諫早湾干拓事業及び地点」を省略する。),S9,S10及びB5観測櫓が,1,700ないし2,300メートル間隔で,並びにS9観測櫓から北東方1,700メートルにB6観測櫓がそれぞれ設置されていた。

4 事実の経過
(第1)
 国見丸は,A受審人が1人で乗り組み,刺し網漁の目的で,船首0.15メートル船尾0.75メートルの喫水をもって,平成15年11月9日01時30分長崎県多比良港を発し,竹崎島の南方1海里の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,いつもS9観測櫓からB4観測櫓を見通した海岸までの延長線以西の漁業区で操業していて,かき養殖施設や海苔養殖施設の正確な位置は把握していなかったもののその存在はよく承知していた。
 01時45分A受審人は,漁場に到着して操業を開始し,2回目の揚網を終えたところ,網がもつれていたのでこれを解くことにし,04時10分夜灯鼻灯台から180度2,000メートルの地点において,機関を中立にして錨を投入しないで停留したまま,潮流によって北西方に圧流されながら網のもつれを解く作業を続け,04時53分半夜灯鼻灯台から217度1,100メートルの地点で,船首が南東方を向いていたとき,ようやく作業を終えて周囲を見たところ,右舷正横至近に黒く広がるかき養殖筏を認め,竹崎島付近まで圧流されたことを知って気が動転し,かき養殖筏に張られたロープと接触しないよう急いで同筏から離れることにして,針路を佐賀県道越漁港竹崎地区(以下「竹崎港」という。)沖に向かう074度に定めて同地点を発進し,折からの上げ潮流によって左に10度圧流されながら,5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,手動操舵により進行した。
 定針したのち,A受審人は,しばらく同じ針路で続航することにしたが,かき養殖施設を十分に離すことのみに気をとられ,GPSプロッターに表示させていたB4観測櫓と竹崎島の間の位置関係を見るなどして船位の確認を十分に行うことなく,海苔養殖施設に接近していることに気付かないで進行し,竹崎港沖に達して04時59分少し前夜灯鼻灯台から182度650メートルの地点で,針路をB4観測櫓の黄色標識灯に向く164度に転じて元の操業地点付近に向けることにしたものの,依然,船位の確認を行わなかったので海苔養殖施設に向かう針路となっていることに気付かなかった。
 05時00分少し前A受審人は,ほぼ正船首50メートルのところに黄色点滅灯を認め,同灯をかき養殖施設の東側に設置された標識灯と思って同灯の北方を通過すれば安全であると考え,大回りをして迂回するつもりで左転して同灯を右舷側に替わしたのち右転して続航中,船首方の海面上に航海灯に照らされた海苔養殖施設外縁の赤い浮きを認め,全速力後進をかけたが及ばず,05時00分国見丸は,夜灯鼻灯台から176度900メートルの地点に当たる,海苔養殖施設の北西端付近において,北側から同養殖施設の外縁ロープに衝突し,これを乗り越えて同養殖施設に乗り入れた。
 当時,天候は曇で風力1の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 国見丸は,海苔養殖施設に乗り入れたとき,機関を後進にかけていたので,外縁ロープや海苔網などをプロペラと同軸に絡ませ,多量のロープ等を引上げ軸とプロペラボスとの間に巻き込み,機関が停止するとともに,引上げ軸が船首側へ押し出されて変位し,船底のFRP部材に過大な応力が作用して破口を生じた。
 衝突の結果,国見丸は,船底に破口を生じて機関室に浸水し,海苔養殖施設は,海苔網,外縁ロープ及びアンカーロープ等に損傷を生じた。
(第2)
 国見丸は,多量のロープ等をプロペラ軸などに絡ませて船底に破口を生じ,機関室に浸水したものの,プロペラ軸に絡んで緊張した外縁ロープに支持される形で停止した。
 A受審人は,一旦停止した機関を中立運転として船内電源を確保したのち船尾に赴き,プロペラ及び同軸に海苔養殖施設のロープ等が絡んでいるのを確認し,このことで機関が停止したことを認めたが,同養殖施設から抜け出ることのみに気をとられ,船倉や機関室の点検など,船体の損傷状況の確認を十分に行うことなく,船底に生じた破口や浸水状態にも,自船が外縁ロープに支えられてようやく浮上していることにも気付かないまま,同ロープ等を外そうと何度も試みたものの手が届かないで果たせず,05時30分ごろ携帯電話により近くで操業中の松福丸に救援を依頼して到着を待つことにした。
 06時00分国見丸は,すでに船尾破口部から機関室に多量の海水が浸入しており,A受審人が来援した松福丸の支援を得て,国見丸の船尾端から手を伸ばしてプロペラに絡んだ海苔養殖施設の5本のロープを切断したところ,外縁ロープが切断されたために船尾から海中に沈み始めた。
 A受審人は,操舵室に駆け込んで中立運転中の機関を停止したのち,松福丸に飛び移り,やがて船首部を海面上に出して水船状態となった国見丸を海苔網から引き出したところで,携帯電話で国見丸を購入した福岡県の鉄工所に救援を依頼し,そのまま待つように指示を受けたものの,水船状態のまま曳航できるものと思って同県大牟田港に向けて曳航することにした。
 A受審人は,松福丸で曳航しようとしたものの,同船は小型で馬力が弱いことから,海苔養殖施設から引き出した地点に留まり,06時30分携帯電話で僚船の宝来丸に曳航を依頼し,07時00分夜灯鼻灯台から176度900メートルの海苔養殖施設衝突地点の北側付近において,到着した宝来丸の船尾左右2本のたつから直径18ミリメートル,長さ40メートルの合成繊維ロープ2本を伸ばして国見丸の船首たつに係止し,自らも宝来丸に移乗して曳航を開始した。
 宝来丸は,国見丸を水船状態のまま,海苔養殖施設の北西縁に沿って曳航し,同養殖施設の北端を替わったのち,07時32分半夜灯鼻灯台から092度900メートルの地点において,針路を大牟田港に向かう063度に定め,1.3ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 その後国見丸は,前部甲板下船倉及び機関室の一部に残留していた空気が徐々に抜け,更に浮力を減少させながら,船首部のみを海面上に出して曳航された。
 08時25分A受審人は,夜灯鼻灯台から072度1.6海里の地点において,大牟田港から来援した鉄工所の船に出会い,曳航を交代するため,宝来丸の機関を中立としたところ,曳航索の1本が切断し,国見丸は,浮力を喪失して沈没した。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は高潮時であった。
 沈没の結果,国見丸は,操舵室及び機関室の機器に濡損を生じ,のちサルベージのクレーン船によって引き揚げられ,多比良港に陸揚げされたが,吊り上げた際に船体に亀裂を生じ,陸揚げ後,船体縦方向に分断して廃船とされた。

(本件発生に至る事由)
(第1)
1 A受審人が,もつれた網を解く作業にかかるとき錨を入れなかったこと
2 A受審人が,もつれた網を解く作業に時間がかかり過ぎ,この間周囲の見張りを行っていなかったこと
3 A受審人が,潮流に圧流されてかき養殖筏に接近したこと
4 A受審人が,至近にかき養殖筏を認めた際,気が動転したこと
5 A受審人が,竹崎港沖合に向けて航行中に船位を確認しなかったこと
6 A受審人が,視認した黄色点滅灯をかき養殖施設の東側に設置された標識灯と間違え,同灯を迂回して海苔養殖施設に向首進行したこと
(第2)
1 A受審人が,海苔養殖施設に乗り入れた際,同養殖施設のロープ等をプロペラに巻き込んだこと
2 ロープ等を巻き込んだ際,船底に破口が生じたこと
3 A受審人が,機関が停止したとき,船体の損傷状況の確認を行っていなかったこと
4 A受審人が,船底の破口や浸水状態にも,自船が海苔養殖施設の外縁ロープに支えられていることにも気付かなかったこと
5 A受審人が,海苔養殖施設から抜け出ることに専念し,同養殖施設の外縁ロープを切断したこと
6 機関室に多量の海水が浸入したこと
7 水船状態のまま曳航されて浮力を喪失したこと

(原因の考察)
(第1)
 本件養殖施設衝突は,夜間,佐賀県竹崎島沖の海域において,単独で操業して揚網中の船長が,停留してもつれた網を解いているうち潮流によってかき養殖筏に圧流されたことを知ったとき,気が動転して同筏から離れて船位を確認しないまま,付近に設置された海苔養殖施設に向首進行したことによるものである。
 したがって,A受審人が,竹崎港沖合に向けて航行中に船位を確認せず,視認した黄色点滅灯をかき養殖施設の東側に設置された標識灯と間違え,同灯を迂回して海苔養殖施設に向首進行したことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,もつれた網を解く作業にかかる際,錨を入れなかったことから潮流に圧流されてかき養殖筏に接近したこと及び同作業に時間がかかり,この間周囲の見張りを行っていなかったことからかき養殖筏を至近に認めて気が動転したことは,いずれも本件衝突に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(第2)
 本件沈没は,機関を後進にかけた状態で海苔養殖施設に乗り入れた際,船倉や機関室の点検が十分に行われず,船底に破口が生じていることに気付かないまま,同養殖施設から抜け出るため,船尾の浮上を支えていたロープ等を切断したことから水船状態となり,同状態のまま海苔養殖施設から引き出され,曳航されて航行中,浮力を喪失したことによるものである。
 したがって,海苔養殖施設に乗り入れたときにロープ等をプロペラに巻き込んで船底に破口を生じた際,A受審人が,船体の損傷状況の確認を行っていなかったことから,船底に生じた破口や浸水状態にも,自船が外縁ロープに支えられていることにも気付かないまま,海苔養殖施設から抜け出ることに専念し,船体を支えていた同養殖施設の外縁ロープを切断したことから機関室に多量の海水が浸入して水船状態となり,そのまま曳航されて浮力を喪失したことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
(第1)
 本件養殖施設衝突は,夜間,佐賀県竹崎島沖の海域において,停留中に潮流によってかき養殖筏に圧流され,同筏から離れて沖合に向かう際,船位の確認が不十分で,付近に設置された海苔養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(第2)
 本件沈没は,夜間,佐賀県竹崎島沖合において,海苔養殖施設に乗り入れ,プロペラが同養殖施設のロープ等に絡んで停止した際,船体の損傷状況の確認が不十分で,船底に生じた破口や機関室の浸水状態にも,自船が外縁ロープに支えられていることにも気付かないまま,同ロープ等を切断したため水船状態となり,同状態のまま海苔養殖施設から引き出されたのち,曳航されて修理地に向けて航行中,浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人は,夜間,佐賀県竹崎島沖の海域において,停留中に潮流によってかき養殖筏に圧流され,同筏から離れて沖合に向かう場合,付近の海苔養殖施設に向かって進行しないよう,GPSプロッターに表示させていたB4観測櫓と竹崎島の間の位置関係を見るなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,かき養殖施設を十分に離すことのみに気をとられ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同養殖施設の北東方に設置されている海苔養殖施設に接近し,認めた黄色点滅灯をかき養殖施設の標識灯と間違え,海苔養殖施設に向首進行して同養殖施設への衝突を招き,自船の船底に破口を生じさせ,海苔養殖施設の海苔網,外縁ロープ及びアンカーロープ等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
(第2)
 A受審人は,夜間,佐賀県竹崎島沖合において,海苔養殖施設に乗り入れ,プロペラが同養殖施設のロープ等に絡んで停止した場合,船底に損傷を生じているおそれがあったから,船倉や機関室の点検など,船体の損傷状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,海苔養殖施設から抜け出ることのみに気をとられ,船体の損傷状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,船底に生じた破口や機関室の浸水状態にも,自船が外縁ロープに支えられていることにも気付かないままプロペラに絡んだ海苔養殖施設のロープを切断して水船状態となり,同状態のまま同養殖施設から引き出して修理地に向けて曳航中,浮力を喪失して沈没を招き,操舵室及び機関室の機器に濡損を生じさせ,廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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