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平成16年門審第122号
件名

漁船良風丸漁船神風丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,清重隆彦,織戸孝治)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:良風丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:神風丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
良風丸・・・船首部を圧壊,のち廃船処理
神風丸・・・右舷船首外板に破口

原因
良風丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守
神風丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は,神風丸が,汽笛を装備していなかったばかりか,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,良風丸が,汽笛を装備していなかったばかりか,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月11日02時10分
 周防灘東部
 (北緯33度55.5分 東経131度39.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船良風丸 漁船神風丸
総トン数 4.92トン 4.9トン
登録長 0.30メートル 11.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 15
(2)設備及び性能等
ア 良風丸
 良風丸は,昭和54年5月に進水したFRP製漁船で,小型機船底びき網漁業に使用され,船体中央部に操舵室が有り,同室には,機関遠隔操縦装置,レーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機などが装備され,同室後部には遠隔操舵装置が取り付けられていた。
イ 神風丸
 神風丸は,平成7年11月に進水した小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室が有り,同室には舵輪,機関遠隔操縦装置,レーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機などが装備されていた。

3 事実の経過
 良風丸は,A受審人が1人で乗り組み,船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成16年5月10日09時30分山口県床波漁港を発し,同県笠戸島南方の漁場に至って底びき網漁を行い,その後,同県野島南方の漁場に移動して同漁を行ったのち,帰港の目的で,翌11日01時40分周防野島灯台(以下「野島灯台」という。)から196度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点を発進し,同港に向かった。
 なお,良風丸は,全長12メートル以上であったものの,汽笛を備えていなかった。
 発進時,A受審人は,針路を山口県佐波島の少し左方に向く282度に定め,機関を全速力前進がプロペラ回転数毎分2,800のところ1,500にかけ,網を引き洗いしながら3.2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,船尾甲板で魚の選別作業にあたり,自動操舵により西行した。
 ところで,A受審人は,操業中から両舷灯を表示したほか,笠付き白色作業灯を船尾甲板に3個点灯していたが,通航船舶の少ない海域であり,作業灯を点灯していれば自船に気付くであろうと思い,マスト灯及び船尾灯を消灯したままとして,航行中の動力船の灯火を適切に表示しなかった。
 02時05分A受審人は,野島灯台から242度1.8海里の地点に達し,洗網中の網を揚げて4.0ノットの速力となったとき,左舷船首15度1,520メートルのところに,神風丸が表示する緑,緑2灯を視認でき,灯火の表示状況からその実態を的確に識別できないものの,その後,その方位が変わらず,同船と衝突のおそれのある態勢で互いに接近することが分かる状況となったが,これまで自船が低速力航行中のときは他船が避航していたことから,自船に接近する他船はいないものと思い,船尾甲板で次の操業に備えて網を捌(さば)く作業に専念していて,見張りを十分に行っていなかったので,同船の灯火を見落とし,このことに気付かず,汽笛不装備で警告信号を行わないまま,同じ針路,速力で進行した。
 こうして,A受審人は,依然,見張りを十分に行っていなかったので,接近する神風丸に気付かず,行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中,02時10分野島灯台から248度2.1海里の地点において,良風丸は,原針路,原速力のまま,その船首が神風丸の右舷船首に前方から25度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は高潮時にあたり,視界は良好であった。
 また,神風丸は,B受審人が1人で乗り組み,船首0.15メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,同月10日07時00分宇部港を発し,笠戸島南方の漁場に至って底びき網漁を行い,その後,野島南方の漁場に移動して同漁を行ったのち,帰港の目的で,翌11日01時00分,同漁場を発進し,同港に向かった。
 なお,神風丸は,全長12メートル以上であったものの,汽笛を備えていなかった。
 発進時,B受審人は,針路を宇部港沖に向け,機関を全速力前進がプロペラ回転数毎分2,900のところ2,000にかけ,網を引き洗いしながら船尾甲板で魚の選別作業にあたり,自動操舵により西行した。
 ところで,B受審人は,操業中から両舷灯及び緑色全周灯1灯をそれぞれ表示したほか,笠付き白色作業灯を前部甲板に1個及び船尾甲板に3個点灯していたが,この付近の海域は漁船だけなので,緑色全周灯を点灯していればお互い分かるだろうと思い,マスト灯及び船尾灯を消灯したままとしており,宇部港沖に向け発進したときも同様の灯火の表示方法とし,航行中の動力船の灯火を適切に表示しなかった。
 B受審人は,船尾甲板での魚の選別及び洗網作業を終えて操舵室に戻ったところ,僚船から無線でプロペラに網を巻いたので来てくれとの要請を受け,01時52分野島灯台から252度3.9海里の地点で,自動操舵のまま反転し,針路を野島とオモゼ灯標との間に向く077度に定め,機関をプロペラ回転数毎分2,500にかけ,6.0ノットの速力で,僚船の救援に向かった。
 02時05分B受審人は,野島灯台から250度2.6海里の地点に達したとき,右舷船首10度1,520メートルのところに,良風丸が表示する紅1灯を視認でき,灯火の表示状況からその実態を的確に識別できないものの,その後,その方位が変わらず,同船と衝突のおそれのある態勢で互いに接近することが分かる状況となったが,定針したとき操舵室から周囲を一瞥(いちべつ)して他船の灯火を認めなかったことから,自船に接近する他船はいないものと思い,僚船を曳航する場合に備えようと船尾甲板に出て,同甲板に広げていた網を片付ける作業に専念していて,見張りを十分に行っていなかったので,同船の灯火を見落とし,このことに気付かず,汽笛不装備で警告信号を行わないまま,同じ針路,速力で進行した。
 こうして,B受審人は,依然,見張りを十分に行っていなかったので,接近する良風丸に気付かず,行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中,神風丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,良風丸は船首部を圧壊し,のち廃船処理され,神風丸は右舷船首外板に破口を生じたが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,海上交通安全法が適用される周防灘東部の海域において,西行する良風丸と東行する神風丸とが衝突したものであるが,同法には,本件に対し適用する航法が規定されていないので,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 当時,両船は,共に操業を終え,実態的に漁ろうに従事中ではなかったものであり,航行中の動力船の灯火を表示すべき状況であった。ところが,両船共にマスト灯及び船尾灯を点灯することなく,舷灯及び数個の笠付き白色作業灯を,神風丸においては,これに加えて緑色全周灯を点灯していたものであり,実態的には2隻の動力船が互いに進路を横切る関係であったものの,両船の灯火の点灯状況では,互いに相手船の運航の実態を的確に識別することは困難であったと認められる。したがって,海上衝突予防法第38条及び39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 良風丸
(1)汽笛を備えていなかったこと
(2)法定灯火を適切に表示していなかったこと
(3)A受審人が,船尾甲板で網を捌く作業に専念していたこと
(4)A受審人が,自船に接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(5)A受審人が,警告信号を行わなかったこと
(6)A受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと
2 神風丸
(1)汽笛を備えていなかったこと
(2)法定灯火を適切に表示していなかったこと
(3)A受審人が,船尾甲板で網を片付ける作業に専念していたこと
(4)B受審人が,自船に接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(5)B受審人が,警告信号を行わなかったこと
(6)B受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,夜間,いずれも航行中の動力船の灯火を適切に表示していなかった良風丸と神風丸とが,衝突のおそれのある態勢で接近して発生したものであり,良風丸は,見張りを十分に行っていれば,神風丸を視認することができ,方位に変化のないまま接近する同船に対し,警告信号を行い,衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 一方,神風丸も同じく,見張りを十分に行っていれば,良風丸を視認することができ,方位に変化のないまま接近する同船に対し,警告信号を行い,衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 したがって,A,B両受審人が,共に汽笛を備えていなかったこと,自船に接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 さらに,A受審人が,船尾甲板で網を捌く作業に専念していたこと及びB受審人が,船尾甲板で網を片付ける作業に専念していたことは,見張りが不十分となった遠因となり,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,両舷灯のみを,B受審人が,両舷灯及び緑色全周灯を点灯し,両人が共に法定灯火を適切に表示していなかったことは,本件衝突に至る過程において関与した事実であるが,双方とも前路の見張りを十分に行っておらず,相手船の灯火をいずれも視認していなかったのであるから,本件と相当因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,周防灘東部において,両船が共に汽笛を装備せず,かつ,灯火の表示が不適切のまま衝突のおそれのある態勢で接近中,東行する神風丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,西行する良風丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,周防灘東部において,操業を終えて帰航中,無線連絡を受けて僚船の救援に向かう場合,接近する良風丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,定針したとき操舵室から周囲を一瞥して他船を認めなかったことから,接近する他船はいないものと思い,船尾甲板に赴き,網を片付ける作業に専念していて,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれのある態勢で接近する良風丸に気付かず,警告信号を行わず,行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き,良風丸の船首部に圧壊を,神風丸の右舷船首外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,周防灘東部において,操業を終えて帰航する場合,接近する神風丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまで自船が低速力航行中のときは他船が避航していたことから,自船に接近する他船はいないものと思い,船尾甲板で網を捌く作業に専念していて,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれのある態勢で接近する神風丸に気付かず,警告信号を行わず,行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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