(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月19日05時10分
山口県油谷港
(北緯34度22.8分 東経131度01.7分)
2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 |
漁船漁勝丸 |
漁船第八入江丸 |
総トン数 |
13.52トン |
2.9トン |
全長 |
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13.00メートル |
登録長 |
14.78メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
502キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
(2)設備及び性能等
ア 漁勝丸
漁勝丸は,昭和54年12月にD社で建造されて進水し,周年にわたり同県の外海海域及び油谷港内において棒受網による敷網漁業に従事する全通一層甲板のFRP製漁船で,上甲板上の船体中央船尾寄りに操舵室,船首部に錨台,前部甲板下に魚倉,後部甲板下に漁具倉庫がそれぞれ配置され,操舵室内中央に磁気コンパス及び舵輪,右舷側に機関遠隔操縦ハンドル及びその後ろに固定式のいす,並びに左舷側に無線装置,GPSプロッター,レーダー,魚群探知機及びソナーがそれぞれ備えられていたが,汽笛を装備していなかった。
イ 第八入江丸
第八入江丸(以下「入江丸」という。)は,昭和61年11月にE社で建造されて進水し,周年にわたり小型機船底びき網漁業に従事する全通一層甲板のFRP製漁船で,上甲板上の船体中央やや船尾寄りに操舵室,同室の前部及び後部各甲板下に魚倉がそれぞれ配置され,同室船首側の船体中心線上に甲板上高さ3メートルのマスト,後部甲板上の同室寄りに油圧駆動のネットウインチ,同ウインチの右舷側に機関遠隔操縦ハンドル及び遠隔操舵用コントローラー,同ウインチ基部から船尾方に向かって櫓と称する長さ約5メートルのステンレス鋼管製枠組み(以下「船尾櫓」という。)が,仰角約35度でその先端が船尾端上方高さ3メートルとなるようにそれぞれ備えられていた。
入江丸は,マスト頂部に緑色全周灯とマスト灯とを左右に並べてその下方1メートルのところに両色灯を設置し,船尾櫓頂部に後方向き俯角約45度で150ワットの投光器1個,同櫓中央及び操舵室後方の甲板上高さ2メートルのところに100ワットの笠付き作業灯各1個をそれぞれ設けていたが,船尾灯及び白色全周灯を備えておらず,また,汽笛も装備していなかった。
C受審人は,夜間の操業時には,トロールによる漁ろうに従事している船舶が表示する法定灯火として緑色全周灯と白色全周灯とを上下に連掲する必要があったが,白色全周灯を装備していなかったことから,緑色全周灯と両色灯のみを点灯し,操業中の自船に接近する他船に対しては,自ら製作した300ワットの投光器に点滅スイッチを取り付けた発光信号器を使用して避航を促していた。
(3)操業形態等
ア 漁勝丸
漁勝丸の棒受網漁は,夜間,投錨して錨索を左舷中央部に係止後,長さ12メートルの鋼管2本を船首尾方向にそれぞれ8メートル突き出し,両管の船首及び船尾各先端の間に浮子付きの漁網を取り付け,これを右舷側舷外に降ろして潮流及び錨索を巻き込むことにより舷側から離しておき,3キロワットの水中集魚灯3個を点灯してイワシなどを集魚したのち,漁網の裾を引き揚げて掬い獲るもので,これを一晩に2回行っていた。
イ 入江丸
入江丸の底びき網漁は,小型機船底びき網漁業取締規則によって定められた漁業種類である手繰第二種のビームを有する網具を使用して行われるえびこぎ網漁業で,長さ7メートルの袋網と長さ10メートルの袖網とで構成される漁網を,長さ10メートルのビームで強制的に開口し,同ビーム両端に直径22ミリメートル長さ50メートルの合成繊維製索各1本を股綱としてそれぞれ取り付け,同綱をまとめて直径16ミリメートルのコンパウンドロープに接続し,夜間曳網するもので,1回の操業に要する時間が,投網が約5分,曳網が約1時間30分及び揚網が約25分で,揚網後,最後に袋網のチャック式開口部からタモ網で活きエビを掬い取って活魚倉に移したのち,直ちに次の投網を開始していた。
操業時の速力(対地速力,以下同じ。)は,投網時には,低速で漁具を海面に繰り出したのち,増速してコンパウンドロープを水深の約5倍を目安とする予定量まで繰り出し,曳網時には,機関を全速力前進が回転数毎分3,100のところ1,700にかけて1.5ノットとし,揚網時には,機関を微速力前進の同毎分1,000にかけ,ネットウインチを作動させて漁具を巻き揚げ始めると,機関による前進速力と,同ウインチでの漁具の巻き揚げによって船体が後方に引き寄せられる速力とが均衡し,行きあしがほとんどなくなって操縦性能が制限される状態になっていた。
C受審人は,揚網開始前に周囲の他船の状況を把握したのち,ネットウインチの右舷側に船尾方を向いて立ち,同ウインチの操作ハンドル,機関遠隔操縦ハンドル及び遠隔操舵用コントローラーをそれぞれ操作するとともに,漁具の方向や同ウインチの巻き取り状況を注視し,コンパウンドロープが同ウインチに整列して巻き取られるようにこれを捌きながら,揚網時の操船を行っていた。
(4)油谷港及び同港内の操業漁船
油谷港は,港則法の非適用港で,山口県本場鼻と同県油谷半島西端の俵島との間を湾口とし,幅約2海里で東方に約7海里湾入する油谷湾全域を港湾区域とする避難港で,湾内に港則法適用港の粟野港のほかに,阿川,掛淵,大浦及び久津各第2種漁港が築造されていた。また,油谷港は,時期によっては70隻以上の漁業種類の違う漁船が輻輳して操業することがあり,慣習で,同港内を航行する船舶が,時期,時間帯,操業場所及び作業灯の点灯模様などから,どのような漁業種類の漁船が操業中であるかを判断し,必要に応じて避航しなければならない水域であった。
3 事実の経過
漁勝丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,シラスを漁獲対象とする棒受網漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年10月18日18時00分掛淵漁港を発し,法定灯火を表示して油谷港内の魚群探索に向かった。
A受審人は,油谷港内で操業している20隻ばかりの棒受網漁船や,10隻ばかりの小型底びき網漁船の明かりが見える状況下,同港内中央部を探索後,同港北東部にある手長島の南側水域に棒受網漁船の水中集魚灯の明かりを認め,同水域で操業することとしてそこに向かい,22時00分油谷港掛渕西防波堤灯台(以下「掛渕灯台」という。)から298度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で投錨し,水中集魚灯を点灯して集魚を始め,翌19日01時00分から1回目の操業を開始し,04時00分2回目の操業を終えたのち,同集魚灯と漁具の片づけを始めた。
05時05分半少し過ぎA受審人は,前示投錨地点で,片づけを終えて抜錨したのち,単独の船橋当直に就いて操舵室のいすに腰を掛け,機関を半速力前進にかけて発進し,船首を135度に向けて帰途に就き,同地点付近で操業中の6隻の漁船を見つつ,掛渕灯台を正船首わずか左に見るように左手で舵輪を操作してゆっくり左回頭しながら,13.0ノットの速力で進行した。
発進時にA受審人は,左舷船首14度1,710メートルのところに入江丸がおり,レーダーを活用すれば同船の存在が分かる状況であったが,掛淵漁港まで約5分間の短時間の航程なのでレーダーを作動させるまでもないし,平素はこの時間帯に同漁港から出航する漁船が多いものの,これらを認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,レーダーを活用するなどして前路の見張りを十分に行うことなく,入江丸に気付かないまま,同漁港に向かった。
05時08分A受審人は,掛渕灯台から290度1,300メートルの地点に差し掛かり,船首が120度を向いたとき,左舷船首7度800メートルのところに,入江丸が表示している緑色全周灯1灯,並びに船尾向きの投光器及び後部甲板照明用の作業灯の明かりを視認でき,その後,同船が行きあしのない状態で停留していることから小型底びき網漁船が揚網中であることが分かり,このままゆっくり左回頭しながら進行すると,同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが,依然,前路の見張りを十分に行っていなかったうえに,入江丸の明かりが,左舷船首10度方向に見える同灯台の群閃緑光毎6秒2閃光の灯光や,掛淵漁港で水揚げ中の棒受網漁船が点灯している作業灯の明かりに紛れたこともあって,このことに気付かず,入江丸の進路を避けずに続航した。
A受審人は,掛渕灯台の灯光とその左方に広がる掛淵漁港付近の明かりとを見ていて入江丸に気付かずに,ゆっくり左回頭しながら進行中,05時10分掛渕灯台から285度500メートルの地点において,漁勝丸は,船首が115度を向いたとき,原速力のまま,その左舷船首部が,入江丸の右舷船尾端に後方から10度の角度で衝突した。
当時,天候は小雨で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期にあたり,視程は2海里以上で,日出時刻は06時24分,月齢4.5,月の正中時刻が16時47分であった。
また,入江丸は,C受審人が1人で乗り組み,アカエビを漁獲対象とする小型機船底びき網漁の目的で,船首0.35メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,同月18日18時00分久津漁港を発し,救命胴衣を着用せずに,法定灯火を表示して掛淵漁港西方の漁場に向かった。
18時30分C受審人は,前示漁場に到着し,マスト頂部の緑色全周灯,同中央部の両色灯,船尾櫓の投光器及び後部甲板照明用作業灯をそれぞれ点灯して操業を始め,掛渕灯台の西方約500メートルのところから,同灯台の西方約2,500メートルのところにある竹島の北方沖合までの間で,東西方向に往復して曳網する操業を繰り返し,翌19日03時30分当夜5回目の曳網を開始し,05時00分前示衝突地点付近に至り,合羽の着用,後部甲板上の片づけを行ったのち,ネットウインチの右舷側に船尾方を向いて立ち,同ウインチを始動して揚網準備を始めた。
05時08分C受審人は,前示衝突地点で,船首が105度の方位で掛渕灯台に向き,機関を微速力前進にかけて揚網を開始したのち,間もなく行きあしのない状態になったとき,左舷船尾8度800メートルのところに,漁勝丸が表示する白1灯を初めて認めた。このとき,同受審人は,漁勝丸の紅灯も視認でき,その後,同船が緑灯をも見せ始めてゆっくり左転しながら,衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かる状況であったが,自船が緑色全周灯,船尾櫓の投光器及び作業灯を明るく点灯しているから,他船が接近しても,これらの明かりに気付いて避けていくものと思い,一瞥しただけで,引き続き漁勝丸に対する動静監視を行うことなく,このことに気付かず,汽笛不装備で,警告信号を行わず,いったん揚網を中止して発光信号器により避航を促すことも行わないまま,操縦性能が制限されて転舵も変速もできなくなった状態で,ネットウインチのドラム部へのコンパウンドロープの巻き取り状況などを注視しながら揚網を続けた。
05時10分わずか前C受審人は,ふと後方を見たところ,正船尾間近に漁勝丸の白1灯及び両色灯を認めたものの,何をすることもできず,衝突の危険を感じて左舷側から海中に飛び込んだ直後,入江丸は,船首が105度に向いたまま,行きあしがない状態で揚網を続けているとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,漁勝丸は,左舷船首部に破口を生じ,入江丸は,右舷船尾端の脱落を生じたが,のちそれぞれ修理された。また,C受審人は,合羽を着たまま自船に泳ぎ着いたところを,漁勝丸の乗組員に引き揚げられて救助された。
(航法の適用)
本件は,山口県油谷港内において,揚網のために行きあしのない状態でトロールによる漁ろうに従事中の入江丸と,棒受網操業を終えて帰航中の漁勝丸とが,衝突のおそれがある態勢で接近して衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
海上衝突予防法上,両船が互いに他の船舶の視野のうちにある場合において,漁ろうに従事中の船舶と航行中の船舶との関係が同法第18 条に規定されており,同法に従えば,掛淵漁港に向けて帰港のために航行中の漁勝丸が,けた網を使用してトロールによる漁ろうに従事中の入江丸の進路を避けなければならなかった。
ところで,油谷港は,慣習により,同港内を航行する船舶が,緑1灯を舷灯よりも高い位置に表示して低速あるいは行きあしのない状態で航行中の船舶を認めたときには,同船が小型機船底びき網によるトロール従事船であることを認識し,その進路を避けて航行する水域であった。
本件においては,夜間,油谷港内において,入江丸が,トロールに従事中の法定灯火を適正に表示していなかったものの,緑色全周灯1灯,両色灯,船尾向き投光器1灯及び笠付き作業灯2灯を点灯しており,同港を利用する他船から入江丸を見れば,時期,時間帯,操業場所及び作業灯の点灯模様により,慣習的に,同船がトロール従事船であることを認識できたことから,海上衝突予防法第18条の規定を適用することになる。
(本件発生に至る事由)
1 漁勝丸
(1)A受審人が,発進後,掛渕灯台を正船首わずか左に見るようにゆっくり左回頭しながら進行したこと
(2)A受審人が,油谷港内を13.0ノットの速力で進行したこと
(3)A受審人が,掛淵漁港までの間に他船はいないものと思ったこと
(4)入江丸の点灯していた緑1灯のほかの作業灯などの明かりが,掛渕灯台の灯光や,掛淵漁港で水揚げ中の棒受網漁船が点灯している作業灯の明かりに紛れたこと
(5)A受審人が,発進時にレーダーを作動させなかったこと
(6)A受審人が,前路の見張りを十分に行わなかったこと
(7)A受審人が,掛渕灯台の灯光や,掛淵漁港の明かりを見ながら進行したこと
(8)A受審人が,入江丸の進路を避けなかったこと
2 入江丸
(1)トロールに従事中の法定灯火を適正に表示していなかったこと
(2)操縦性能が制限された状態で漁ろうに従事していたこと
(3)C受審人が,漁勝丸に対する動静監視を行わなかったこと
(4)汽笛を装備していなかったこと
(5)C受審人が,警告信号を行わなかったこと
(6)C受審人が,自ら製作した発光信号器を使用して避航を促さなかったこと
3 その他
油谷港内においては,航行船舶が,時期,時間帯,操業場所及び作業灯の点灯模様などから,どのような漁業種類の漁船が操業中であるかを判断し,必要に応じて避航しなければならないこと
(原因の考察)
本件は,漁勝丸が,前路の見張りを十分に行っていたならば,入江丸の存在と同船がトロールによる漁ろうに従事中の船舶であることが分かり,その進路を避けることにより,発生しなかったものと認められる。
したがって,A受審人が前路の見張りを十分に行わなかったこと及び入江丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
A受審人が,掛淵漁港までの間には他船はいないものと思ったこと及び発進時にレーダーを作動させなかったことは,いずれも前路の見張りを十分に行わなかった理由であり,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
A受審人が,発進後,掛渕灯台を正船首わずか左に見るようにゆっくり左回頭しながら進行したこと,油谷港内を13.0ノットの速力で進行したこと,掛渕灯台の灯光や掛淵漁港の明かりを見ながら進行したこと及び入江丸の明かりが掛渕灯台の灯光や掛淵漁港で水揚げ中の棒受網漁船が点灯している作業灯の明かりに紛れたことは,いずれも本件発生の原因とならない。
入江丸が,漁勝丸に対する動静監視を十分に行い,同船に避航の気配が認められないときに,警告信号を行っていたならば,本件発生を回避できたものと認められる。
したがって,入江丸が汽笛を装備していなかったこと,並びにC受審人が漁勝丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと及び汽笛不装備で警告信号を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
C受審人が自ら製作した発光信号器を使用して避航を促さなかったことは,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,汽笛を装備しなければならないこととともに,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
ところで,船舶が表示しなければならない灯火あるいは形象物の目的は,海上衝突予防法に明示されているとおり,船舶の存在,種類,状態あるいは大きさ等を示すことにある。船舶が他の船舶との衝突を防止するためには,先ず他の船舶の存在を知ることが必要不可欠であり,その存在を知ったのちに,灯火あるいは形象物の有無を確認して初めて当該他の船舶の種類,状態あるいは大きさ等を認識することができ,次いで自他両船間の見合い関係により適用される航法を判断し,衝突を防止するために必要な措置をとることになる。このためには,灯火あるいは形象物が適切に表示され,かつ,灯火あるいは形象物を確実に認知できるような見張りが十分に行われることが必要である。
このことから,入江丸が,トロールによる漁ろうに従事中の法定灯火を適正に表示せずに,けた網による小型底びき網の漁ろうに従事していたことは,同船の運航形態を正確に示していなかったものの,油谷港内においては,航行船舶が,法定灯火を正しく表示せずにトロールに従事する漁船を漁ろうに従事中と認識してその進路を避けて航行していた慣習があることから,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,山口県油谷港において,帰航のために東行中の漁勝丸が,前路の見張り不十分で,揚網のために行きあしのない状態でトロールによる漁ろうに従事中の入江丸の進路を避けなかったことによって発生したが,入江丸が,汽笛を装備していなかったばかりか,動静監視不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,山口県油谷港において,掛淵漁港に向けて帰航のために東行する場合,前路でトロールによる漁ろうに従事中の入江丸を見落とさないよう,レーダーを活用するなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,平素は05時ごろの時間帯に掛淵漁港から出航する漁船が多いものの,これらを認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,入江丸に気付かず,掛渕灯台の灯光とその左方に広がる掛淵漁港付近の明かりとを見ながら,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,漁勝丸の左舷船首部に破口を,入江丸の右舷船尾端の脱落をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
C受審人は,夜間,山口県油谷港において,揚網のために行きあしのない状態でトロールによる漁ろうに従事中,漁勝丸が表示する白1灯を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,自船が緑色全周灯,船尾櫓の投光器及び作業灯を明るく点灯しているから,他船が接近しても,これらの明かりに気付いて避けていくものと思い,一瞥しただけで,引き続き漁勝丸に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,汽笛不装備で警告信号を行わないまま,揚網を続けながら進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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