日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第142号
件名

漁船第八みち丸漁船漁福丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第八みち丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:漁福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八みち丸・・・右舷船首部に擦過傷
漁福丸・・・船首部ファッションプレートを圧壊,船長及び甲板員が,それぞれ頭部打撲で2日間の加療を要する負傷

原因
第八みち丸・・・狭い水道等の航法不遵守,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
漁福丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第八みち丸が,汽笛を装備せず,かつ,狭い水路の右側端に寄って航行しなかったばかりか,漁福丸と衝突のおそれが生じた際,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置が遅れたことによって発生したが,漁福丸が,汽笛を装備せず,かつ,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月8日04時05分
 博多港第1区南西部

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八みち丸 漁船漁福丸
総トン数 19トン 4.5トン
全長 18.99メートル 13.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 60

3 事実の経過
 第八みち丸(以下「みち丸」という。)は,操舵室を船体後部に設けたFRP製漁船で,専ら漁獲物の運搬に従事し,昭和51年6月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み,福岡県博多漁港の魚市場で養殖ぶりを水揚げしたのち帰港の目的で,船首1.50メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,平成16年10月8日03時57分同漁港の,荒津大橋橋梁灯(R1灯)(以下,荒津大橋橋梁灯については「荒津大橋」の冠称を省略する。)から167度(真方位,以下同じ。)510メートルにあたる岸壁を,法定灯火を点灯して離岸し,長崎県水崎漁港に向け発航した。
 A受審人は,みち丸に汽笛が装備されていないことを知っていたが,これを装備しないまま運航していた。
 ところで,博多港第1区南西部においては,博多漁港及び長浜船だまりに入出港する漁船や貨物船などが,同港西防波堤南端の防波堤入口,及び可航幅約100メートルの荒津大橋下の水路をそれぞれ通航することから,同防波堤入口から荒津大橋に至る間の約900メートルの水域に,逆くの字形の錨泊禁止区域が設定され,これらの船舶の水路が確保されていた。
 離岸したときA受審人は,荒津大橋下の水路の中央部付近に向けるつもりでいたところ,右舷側に出航船がいて橋梁灯(C1灯)に向けられなかったことから,このまま北上して反航船と行き会うときに右転すればよいと思い,同出航船の船尾方を替わるなどして同水路の右側端に寄せることなく,針路を同橋梁灯のわずか左方に向く348度に定め,機関を微速力前進にかけ,4.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
 04時02分半A受審人は,橋梁灯(R1灯)から005度90メートルの地点に達したとき,新たな出航船が右舷船尾方に後続することから右側端に寄せることが困難な状況となったうえ,反航船が自船に向かってくることから,しばらく荒津1丁目の岸壁に寄せたところで停留したのち,水路が空くのを待って出航しようと思い,針路を322度に転じ,機関の回転をわずかに落とし,3.0ノットの速力で水路の左側端を斜航した。
 04時03分少し過ぎA受審人は,橋梁灯(R1灯)から347度140メートルの地点に至って,機関のクラッチを中立とし,同じ針路のまま惰力前進中,同時04分同灯から340度185メートルの地点に達し,約1.5ノットの速力となったころ,右舷前方430メートルのところに漁福丸の白,緑2灯を初めて視認し,同船が水路に沿って南東方に航行中であることを知った。
 04時04分少し過ぎ,A受審人は,橋梁灯(R1灯)から339.5度195メートルの地点で,約1.0ノットの速力となったとき,右舷船首13度360メートルに接近した漁福丸が,両舷灯を見せるようになり,同船が右転して自船の前路至近に向けたことを認め,その後同船と互いに衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが,近づけば惰力前進中の自船を避けくれるものと思い,汽笛不装備で警告信号を行わず,速やかに後進をかけるなどして衝突を避けるための措置をとらなかった。
 04時05分少し前A受審人は,漁福丸が右舷前方至近に迫って衝突の危険を感じ,左舵一杯に続いて機関のクラッチを後進に入れ,全速力後進にかけたが,とき既に遅く,04時05分橋梁灯(R1灯)から336.5度230メートルの地点において,みち丸は,船尾を左方に振りながら船首が331度を向いたとき,わずかな前進行きあしを残し,その右舷船首部に漁福丸の船首が前方から6度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の南西風が吹き,視界は良好であった。
 また,漁福丸は,操舵室を中央部に設けたFRP製漁船で,専ら福岡湾内における小型底びき網漁に従事し,昭和51年6月に二級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人ほか甲板員1人が乗り組み,船首0.22メートル船尾1.42メートルの喫水をもって,同月7日18時00分福岡県玄界漁港を発し,能古島北北西方わずか沖合の漁場に至って操業し,えび等約7キログラムを漁獲して漁を終え,水揚げの目的で,翌8日03時40分残島灯台から331度1,500メートルの漁場を発進し,博多漁港に向かった。
 B受審人は,漁福丸に汽笛が装備されていないことを知っていたが,これを装備しないまま運航していた。
 発進するときB受審人は,法定灯火を点灯し,針路を博多港西防波堤南端部の防波堤入口に向く122度に定め,機関を全速力前進にかけ,14.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
 ところで,B受審人は,漁福丸が全速力で航行するとき,操舵室から見張りを行うと,船首浮上で前方に水平線が見えなくなる死角を生じることや,操舵室前に煙突があること,また,そのすぐ船首側の,前部甲板マストに甲板上約2.0メートルの高さでブラケットを設置して笠付き作業灯2個を取り付けており,前方の見通しが悪いことから,操舵室天井に開口部を設け,同天井上の四隅に支柱を立ててその上にオーニングを張り,前方にアクリルガラスの風防を設置し,操舵室内の両舷側に,床から約70センチメートルの高さで板を渡してその上に立ち,胸部から上を同開口部から出し,海面からの眼高が約2.8メートルとなる状態として船首死角や前方の見通しの悪さを補っていた。
 B受審人は,発進時から渡し板の上に立った姿勢で,前部甲板マストの笠付き作業灯2個を点灯し,同甲板上で甲板員に魚の選別作業を行わせながら続航し,04時03分半少し前博多港西公園下防波堤灯台を右舷側に15メートルで航過し,間もなく,機関の回転をわずかに落とし,12.0ノットの速力で錨泊禁止区域の水路を進行した。
 04時04分少し過ぎB受審人は,橋梁灯(R1灯)から336度550メートルの地点で,水路の右側端に寄るよう,針路を橋梁灯(P1灯)のわずか左方に向く157度に転じた。
 転進したときB受審人は,左舷船首2度360メートルのところにみち丸の白,緑2灯を視認でき,その後同船の方位が明確に変化せず互いに衝突のおそれがある態勢で接近したが,魚市場前岸壁のフォークリトのヘッドライトや,同岸壁で水揚げ作業にあたる漁船の作業灯などが明かるく,航行中の他船の灯火が紛れやすい状況のもと,自船は水路の右側端に寄せているから反航船などはいないと思い,右舷方の石油センターの景色などを見たりして,前路の見張りを十分に行わなかったので,みち丸の存在も,同船と互いに衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず,みち丸に対して警告信号を行わず,行きあしを止めるなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行中,漁福丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,みち丸は右舷船首部に擦過傷を,漁福丸は船首部ファッションプレートを圧壊したが,のち修理され,B受審人及び漁福丸甲板員Cが,それぞれ頭部打撲で2日間の加療を要する傷を負った。

(原因)
 本件衝突は,夜間,博多港第1区南西部において,みち丸が,汽笛を装備せず,かつ,出航の目的で荒津大橋下及びこれに連なる狭い水路を北上する際,同水路の右側端に寄って航行しなかったばかりか,南下する漁福丸と衝突のおそれが生じたとき,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置が遅れたことによって発生したが,漁福丸が,汽笛を装備せず,かつ,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,博多港第1区南西部において,出航の目的で荒津大橋下及びこれに連なる狭い水路を北上する場合,反航船と行き会わないよう,同水路の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに,同人は,反航船と行き会うときに右転すればよいと思い,同水路の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により,反航船や同航船が輻湊するに及んで更に左側端に寄ることとなり,南下する漁福丸との衝突を招き,みち丸の右舷船首部に擦過傷を,漁福丸の船首部ファッションプレートに圧壊をそれぞれ生じさせ,B審人及び漁福丸のC甲板員にそれぞれ頭部打撲で2日間の加療を要する傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,博多港第1区南西部において,入航の目的で荒津大橋下及びこれに連なる狭い水路を南下する場合,前方の魚市場周辺の灯火が明るく,航行中の他船の灯火が紛れやすい状況であったから,接近する他船の灯火を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船は水路の右側端に寄せているから反航船などはいないと思い,右舷方の石油センターの景色などを見たりして,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近するみち丸に気付かず,汽笛不装備で警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自らと自船甲板員が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:24KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION