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平成16年門審第143号
件名

漁船大海丸漁船喜代丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清,織戸孝治,寺戸和夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:大海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:喜代丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
大海丸・・・左舷船首部の錨台が脱落,船首部に擦過傷
喜代丸・・・右舷後部外板に破口を伴う亀裂,船長が約2箇月間の入院加療を要する骨盤骨折,右第3腰椎横突起骨折等の負傷

原因
喜代丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
大海丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,喜代丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る大海丸の進路を避けなかったことによって発生したが,大海丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月11日06時00分
 長崎県対馬下島神埼東南東方沖合
 (北緯34度03.2分 東経129度21.9分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 漁船大海丸 漁船喜代丸
総トン数 6.0トン 4.70トン
登録長 11.87メートル 9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 100 40
(2)設備及び性能等
ア 大海丸
 大海丸は,昭和59年3月にC社で建造されて進水し,主として長崎県の対馬及び壱岐両島間の海域において延縄漁業に従事する全通一層甲板のFRP製漁船で,船体中央に操舵室が配置され,同室天井の後部に設けられたマストに法定灯火,同室前後の甲板上高さ2.5メートルのところにいか釣り集魚灯各9灯,同室内に磁気コンパス,レーダー,舵輪,自動操舵装置,機関遠隔操縦ハンドル,電気ホーン装置,魚群探知機及びGPSプロッターがそれぞれ備えられ,船首甲板上の右舷舷側寄りにラインホーラー及び同ハンドルが設置され,その近くに遠隔操舵コントローラーが置かれていた。同船は,夜間の操業時にはトロール以外の漁ろうに従事している船舶が表示しなければならない法定灯火を表示していたものの,同漁ろうに従事中の法定形象物(以下「漁業形象物」という。)を搭載せず,昼間の操業時には同形象物を掲げていなかった。
 大海丸の底延縄漁具は,長さ1メートルの釣針付き枝縄100本を長さ500メートルの幹縄に等間隔に結び付けたものを,直径約60センチメートル高さ約10センチメートルの竹製の籠に巻き積み上げてこれを1籠と称し,操業時には3籠を連結して投入敷設し,その両端に取り付ける瀬縄には,海面上約3メートルの高さとなるぼんでんを接続し,その上部に方形の旗2枚を上下に取り付けて同漁具の存在が分かるようにしていた。また,操舵室前面の右舷側ブルワークトップに,籠を乗せるための受け台が舷外に張り出して取り付けられ,同漁具を投入する時に,枝縄5本ごとに重さ0.6キログラムの錘が釣針に掛けられていた。
 大海丸の操業は,A受審人が,投縄時には,操舵室で機関を微速力前進にかけて自動操舵で前進し,籠受け台の傍で錘を釣針にかけながら投縄作業を行い,揚縄時には,ラインホーラーの後ろで機関遠隔操縦ハンドル及び遠隔操舵コントローラーによる手動操舵により,操船しながら揚縄作業を行うものであった。なお,同船は,投縄中には,自由に減速あるいは転針を行うことができ,底延縄による漁ろうに従事中であっても操船の自由が確保されていた。
 また,大海丸は,機関を微速力前進にかけて約7ノットの対水速力を超えると船首が浮上し,ラインホーラーの後ろに立って前方を見ると,正船首前方から左舷側約40度までの範囲に水平線が見えなくなる死角を生じる状況であった。
イ 喜代丸
 喜代丸は,昭和54年8月にD社で建造されて進水し,同県対馬周辺海域において引き縄一本つり漁業に従事する全通一層甲板のFRP製漁船で,上甲板上の船体中央やや船尾寄りに後方が開放された3層構成の甲板室が設けられ,第3層及び第2層が前面及び側面にそれぞれガラス窓が設けられた操舵室になっており,同室床になっている第1層の下部には機関室が,船首側には居住区が配置され,第3層の右舷側天井には見張り用の開口部(以下「天窓」という。)が設けられていた。また,第1層に法定灯火を含む電気機器のスイッチ盤,第2層に磁気コンパス,レーダー,舵輪,機関遠隔操縦ハンドル,魚群探知機及びロランC受信装置並びに天窓使用時の足場となる取り外し式差し板がそれぞれ備えられていた。
 喜代丸の引き縄漁具は,操舵室外壁後部に金具で取り付けた長さ8メートルのFRP製の竿2本を,その先端が海面上3メートルになるように両舷舷外にそれぞれ張り出し,左右各竿の先端部には,直径3ミリメートル長さ5メートルの元糸の先に,バクダンと称する抵抗板が付いた直径1ミリメートル長さ15メートルの幹縄が,更に同中央部には,同元糸の先に,潜航板が付いた長さ10メートルの幹縄がそれぞれ結び付けられ,各幹縄には擬餌針付きの直径0.7ミリメートル長さ1メートルのナイロン製の鉤素及び漁獲物取り込み用の道糸がそれぞれ取り付けられていた。
 喜代丸の操業は,竿の先端の擬餌針が海面直下を,潜航板が海面下約4メートルをそれぞれ引くことができるように,対水速力を6ノットないし7ノットとし,竿の先端のしなり具合あるいは潜航板の急浮上によって釣獲を確認したら,道糸を引き寄せて漁獲物を船内に取り込むものであった。なお,同船は,FRP製の竿2本を両舷舷外にそれぞれ張り出すなどの操業準備を,漁場到着後に漂泊して行っていた。

3 事実の経過
 大海丸は,A受審人が1人で乗り組み,底延縄漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年4月11日04時30分長崎県対馬下島の東岸にある高浜漁港を発し,法定灯火を表示して同島最南端にある神埼の東南東方沖合約8海里の漁場に向かった。
 05時30分A受審人は,神埼灯台から102.5度(真方位,以下同じ。)8.6海里の地点に至って漁場に到着し,北西方に向かって投縄を開始したのち,同時47分同灯台から099.5度7.9海里の地点で,3籠を連結した1列目の底延縄漁具の投入を終え,2列目の同漁具を1列目の南西方に平行に投入することとして,投縄開始地点の南西方約0.5海里のところに向かって南下を始めた。このとき同受審人は,日出前の薄明時であったが,周囲が明るくなり,1海里ばかり離れたところにいる数隻の漁船を視認できるようになったことから,法定灯火を消灯して南下を続けた。
 05時55分A受審人は,北西方向に向かって2列目の投縄を開始することとして回頭を始め,同時55分半神埼灯台から106度8.3海里の地点で,船首を315度に定めて自動操舵に切り替え,機関を微速力前進にかけたとき,左舷船首54.5度820メートルのところに,北東方に向けて航行中の喜代丸を初めて認め,一瞥して同船が引き縄漁船であることを知り,同種漁船は自船よりも速力が遅いから,喜代丸が自船の船尾方に替わるものと思い,引き続き喜代丸に対する動静監視を十分に行うことなく,投縄のために操舵室から船首甲板に移動し,漁業形象物を掲げずに,ラインホーラーの後ろに右舷側を向いて立ち,投縄を行いながら,7.0ノットの対地速力で進行した。
 05時57分A受審人は,神埼灯台から105.5度8.1海里の地点に達したとき,喜代丸が方位に変化のないまま540メートルに接近し,その後,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが,依然,同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,直ちに操舵室に戻って警告信号を行わず,更に接近したとき,機関回転数を落として減速するなり,手動操舵に戻して右転するなりして同船との衝突を避けるための協力動作をとらず,投縄を続けながら続航中,06時00分神埼灯台から104度7.8海里の地点において,大海丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,喜代丸の右舷後部に後方から83度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南風が吹き,潮候は低潮時にあたり,視界は良好で,日出時刻は05時57分であった。
 また,喜代丸は,B受審人が1人で乗り組み,ヨコワを漁獲対象とする引き縄漁の目的で,船首尾とも0.6メートルの等喫水をもって,同日04時00分長崎県対馬下島の東岸にある阿須湾漁港を発し,法定灯火を表示し,前日他の引き縄漁船が好漁したという情報を得て神埼の東南東方沖合約8海里の漁場に向かい,05時30分同漁場に到着して漂泊し,操業準備を始めた。
 05時50分B受審人は,神埼灯台から111.5度8.0海里の地点で,操業準備を終えて発進し,針路を008度に定め,機関を全速力前進が回転数毎分2,800のところ1,300にかけ,6.0ノットの対地速力で,擬餌針を投入して引き縄操業を始め,操舵室の差し板の上に立ち,天窓から上半身を出して竿先のしなり具合を見たり,時々差し板の上で立ち膝になって1.5海里レンジとして作動させたレーダー画面を見たりしながら,舵輪に左足を乗せて操作する手動操舵により進行した。
 05時57分B受審人は,神埼灯台から106.5度7.85海里の地点に至ったとき,右舷正横前17.5度540メートルのところに,北西方に向けて航行中の大海丸を初めて視認し,その後,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが,この海域に出漁している漁船は全て前示好漁の情報を得て出漁した引き縄漁船であると思い込んでいたこともあって,一瞥しただけで,大海丸が自船と同じ速力で航行する同種漁船であるから,このまま進行すれば,大海丸が自船の船尾方を無難に替わるものと思い,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うことなく,このことに気付かず,減速するなどして同船の進路を避けないまま,竿先のしなり具合を見ながら,同じ針路,速力で続航した。
 05時59分B受審人は,神埼灯台から105度7.8海里の地点に至ったとき,右舷側の竿の潜航板が急浮上したことから,天窓から屈んで差し板を降り,右舷船尾に走って幹縄を取り込み始め,途中まで取り込んで,ふと大海丸が気になって右舷方を見たところ,間近に接近した同船を再び認め,急いで幹縄の取り込みを中止して操舵室に戻り,右舵一杯にとったが間に合わず,喜代丸は,原速力のまま,船首が038度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大海丸は,左舷船首部の錨台が脱落するとともに船首部に擦過傷を生じたものの,修理は行われず,喜代丸は,右舷後部外板に破口を伴う亀裂を生じたが,のち修理された。また,B受審人は衝突時の衝撃で操舵室から左舷船尾に跳ね飛ばされ,約2箇月間の入院加療を要する骨盤骨折,右第3腰椎横突起骨折等の傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,長崎県対馬下島神埼の東南東方沖合において,漁業形象物を掲げずに底延縄による漁ろうに従事中の大海丸と,引き縄一本釣りによる操業中の喜代丸とが,互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近して衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することとなる。
 予防法上,両船が互いに他の船舶の視野のうちにある場合において,漁ろうに従事中の船舶と航行中の船舶との関係が同法第18条に規定されており,同法に従えば,漁ろうに従事中とみなされない引き縄一本釣り操業を行うために航行中の船舶である喜代丸が,漁ろうに従事中とみなされる底延縄操業を行っていた大海丸の進路を避けなければならなかったものであるが,本件においては,大海丸が,漁業形象物を掲げておらず,実態は長さ1,500メートルの1本の底延縄を投縄作業中の漁ろうに従事している船舶であったが,他船から見れば,大海丸のいか釣り集魚灯の装備状況やその速力などにより,単に航行中の船舶と見えることから,同法第18条の規定を適用することはできず,両船の接近模様から,同法第15条の横切り船の航法規定が適用される。
 大海丸は,避航動作をとらずに接近する喜代丸に対して警告信号を行わなければならず,さらに,A受審人に対する質問調書中,「動静監視をして喜代丸の接近に気付けば,転舵して衝突を避けることができたと思う。」旨の供述記載により,間近に接近したときに,衝突を避けるための協力動作をとることができたのであるから,同法第17条及び同法第34条が適用される。一方,喜代丸は,同法第16条が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 大海丸
(1)A受審人が,約1箇月間入院生活を送り,退院後初めての出漁で,操船に関する勘が鈍っていたうえ,動作が多少不自由な状況であったこと
(2)A受審人が,日出前の薄明時に法定灯火を消灯したこと
(3)漁業形象物を掲げずに底延縄による漁ろうに従事していたこと
(4)A受審人が,右舷側船首甲板上に立ち,身体を右舷前方に向けて投縄していたこと
(5)右舷側船首甲板上に立つと約7ノットの速力で船首浮上により左舷前方に死角が生じること
(6)A受審人が,引き縄漁船の速力が4ノットないし5ノットであろうと思っていたこと
(7)A受審人が,動静監視を十分に行わなかったこと
(8)A受審人が,警告信号を行わなかったこと
(9)A受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 喜代丸
(1)B受審人が,平成16年1月に脳梗塞により倒れて10日間入院生活を送り,退院後異常なく出漁していたこと
(2)B受審人が,1.5海里レンジとして作動させていたレーダー画面を監視せず,竿先のしなり具合を確認することに熱中していたこと
(3)B受審人が,この海域の漁船は全て前日好漁した他船の情報を得て出漁した引き縄漁船であると思い込んでいたこと
(4)B受審人が,大海丸が,自船の船尾方を無難に替わるものと思ったこと
(5)B受審人が,動静監視を十分に行わなかったこと
(6)大海丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,喜代丸が,大海丸に対する動静監視を十分に行っていたならば,同船と横切り態勢で接近していることがわかり,その進路を避けることにより,発生しなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が動静監視を十分に行わなかったこと及び大海丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,この海域の漁船は全て前日好漁した他船の情報を得て出漁した引き縄漁船であると思い込んでいたこと,竿先のしなり具合を確認することに熱中して1.5海里レンジとしたレーダーを監視しなかったこと,及び大海丸が自船の船尾方を無難に替わるものと思ったことは,衝突3分前に右舷正横少し前方540メートルのところに大海丸を初認したのち,同船の動静監視を十分に行わなかったことの理由にはなるが,それぞれ本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 B受審人が,脳梗塞により10日間入院生活を送っていたことは,退院後体調が戻って出漁を続けていたことから,本件発生の原因とならない。
 大海丸が,喜代丸に対する動静監視を十分に行っていたならば,同船と横切り態勢で接近していることがわかり,同船に避航の気配が認められないときに,警告信号を行い,更に接近したときに,衝突を避けるための協力動作をとることにより,本件発生が回避されていたものと認められる。
 したがって,A受審人が動静監視を十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 ところで,船舶が表示しなければならない灯火あるいは形象物の目的は,海上衝突予防法に明示されているとおり,船舶の存在,種類,状態あるいは大きさ等を示すことにある。船舶が他の船舶との衝突を防止するためには,先ず他の船舶の存在を知ることが必要不可欠であり,その存在を知ったのちに,灯火あるいは形象物の有無を確認して初めて当該他の船舶の種類,状態あるいは大きさ等を認識することができ,次いで自他両船間の見合い関係により適用される航法を判断し,衝突を防止するために必要な措置をとることになる。このためには,灯火あるいは形象物が適切に表示され,かつ,灯火あるいは形象物を確実に認知できるよう見張りが十分に行われることが必要である。
 このことから,A受審人が,漁業形象物を掲げずに底延縄による漁ろうに従事していたこと及び日出前の薄明時に法定灯火を消灯したことは,いずれも予防法に違反しており,かつ,同船の運航形態を正確に示さなかったものであるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 大海丸が約7ノットの速力で船首浮上により前方に死角が生じること,A受審人が右舷側船首甲板上に立ち,身体を右舷前方に向けて投縄していたこと及び引き縄漁船の速力が4ノットないし5ノットであろうと思っていたこと,また,A受審人が,約1箇月間入院生活を送り,退院後初めての出漁で,操船に関する勘が鈍っていたうえ,動作が多少不自由な状況であったことは,いずれも本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,対馬下島の東南東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,喜代丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る大海丸の進路を避けなかったことによって発生したが,大海丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,対馬下島の東南東方沖合において,引き縄操業中,右舷正横少し前方に大海丸を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,一瞥しただけで,大海丸が自船と同じ速力で航行する引き縄漁船であり,このまま進行すれば,大海丸が自船の船尾方を無難に替わるものと思い,引き続き大海丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず,その進路を避けずに進行して衝突を招き,大海丸の左舷船首部錨台の脱落と船首部に擦過傷を,喜代丸の右舷後部外板に破口を伴う亀裂をそれぞれ生じさせ,自ら骨盤骨折等の傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 A受審人は,対馬下島の東南東方沖合において,底延縄の投縄中,左舷正横少し前方に喜代丸を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,一瞥して同船が引き縄漁船であることを知り,同種漁船は自船よりも速力が遅いから,喜代丸が自船の船尾方に替わるものと思い,引き続き喜代丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず,警告信号を行わず,更に接近したとき,同船との衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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