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平成16年門審第135号
件名

漁船第八海栄丸漁船第五海幸丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第八海栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第五海幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八海栄丸・・・船首部の外板に亀裂,手摺りの曲損及び海錨索などの損傷
第五海幸丸・・・船首部甲板及び左舷船首外板に亀裂等

原因
第五海幸丸・・・動静監視不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第八海栄丸・・・見張り不十分,警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第五海幸丸が,動静監視不十分で,漂泊中の第八海栄丸を避けなかったことによって発生したが,第八海栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月21日16時30分
 長崎県壱岐島北方沖合
 (北緯34度02.2分 東経129度41.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八海栄丸 漁船第五海幸丸
総トン数 19.0トン 18.0トン
全長 23.04メートル 21.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 478キロワット

3 事実の経過
 第八海栄丸(以下「海栄丸」という。)は,周年に渡っていか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央に操舵室が,同室後方の煙突を挟んで船尾寄りに船員室がそれぞれ配置され,平成3年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得して同12年11月に交付を受けた同操縦士免状を受有するA受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,同16年2月21日14時00分長崎県勝本港を発し,同県壱岐島北方沖合約10海里の漁場に向かった。
 ところで,海栄丸のパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)は,直径10ミリメートル長さ20メートルの合成繊維製展張索を多数取り付けた直径20メートルの同繊維製パラシュートの頂部に,重量約15キログラムの鉛錘とオレンジ色の発泡スチロール製浮標を取り付けた連結索を接続し,まとめられた展張索の後端に撚り戻し金具を介して直径34ミリメートルの同繊維製海錨索を連結したものであった。同海錨索は,天候に応じてその長さが調整され,漂泊時には,その後端を三重もやい結びによって三ツ股としたアイが船首部のタツ及びカンヌキの左右端にそれぞれ掛けられ,シーアンカー投入時には,機関を後進にかけながら短時間で繰り出し,回収時には,浮標に取り付けた比重の軽い直径22ミリメートルの合成繊維製引上げ索により船内に取り込まれていた。また,いったん船首が風に立った状態でシーアンカーを回収するには,約20分間を要していた。
 15時00分A受審人は,若宮灯台から359度(真方位,以下同じ。)10.0海里の地点に至って前示漁場に到着し,船首を南南西方に向けてシーアンカーを投入し,海錨索及び引上げ索をそれぞれ約70メートル繰り出したのち,機関を停止して漂泊を開始した。その後同受審人は,操業開始予定の17時30分ころまで休息待機することとし,甲板員を船尾の船員室で休息させ,自ら操舵室の床に横になってテレビを見ながら休息した。
 16時24分A受審人は,シーアンカーを投入した地点で,船首が風に立って185度に向いた状態で漂泊を続けているとき,右舷船首27度1.0海里のところに,第五海幸丸(以下「海幸丸」という。)を視認することができ,その後,同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが,自船はシーアンカーを投入して漂泊しているから,他船が接近すれば同アンカー浮標と海錨索に気付いて自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行うことなく,海幸丸に気付かず,同じ姿勢のまま休息を続けた。
 16時27分A受審人は,海幸丸を同方位930メートルに認め得る状況となったが,依然,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同船に対して警告信号を行わないまま,漂泊を続けた。
 16時29分半少し過ぎA受審人は,船尾甲板に出ていた甲板員から海幸丸が接近している旨の報告を受け,立ち上がって前方を見たところ,右舷船首27度100メートルのところに,自船船首部に向首して衝突の危険のある態勢で接近する海幸丸を初めて認め,急いで汽笛による短音を繰り返し吹鳴したものの,避航の気配を見せずに更に接近することから,機関を始動して後進にかけたが,効なく,16時30分若宮灯台から359度10.0海里の地点において,海栄丸は,船体がほとんど動かずに船首が185度を向いているとき,その船首部に,海幸丸の左舷船首が前方から27度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南風が吹き,潮候はほぼ低潮時にあたり,発生地点付近は黄砂の影響により遠方の視界が多少制限されていたものの,2海里以内の視界は良好であった。
 また,海幸丸は,周年に渡っていか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央に操舵室が,同室後方の煙突を挟んで船尾寄りに賄室及びその下部に船員室がそれぞれ配置され,昭和61年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得して平成13年2月に交付を受けた同操縦士免状を受有するB受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首1.1メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,同16年2月21日14時00分長崎県郷ノ浦港を発し,同県壱岐島北方沖合約15海里の漁場に向かった。
 ところで,海幸丸は,発航時の喫水状態のときに,船首端上部が操舵室の前面窓の上部と同じ高さになっているうえ,10ノットの速力で航行すると船首が浮上し,同室中央の舵輪の後ろに立って前方を見ると,正船首を挟んで左右各15度の範囲に水平線が見えなくなる死角(以下「船首死角」という。)が生じる状況であり,同死角を補う見張りを行うためには,レーダーを活用するほか,船首を左右に振るとか,甲板員を船首方の見張りに当たらせるなどの必要があった。
 こうして,B受審人は,発航後,夜間の操業中に連続して作業を行う甲板員を船員室で休息させ,自ら単独の船橋当直に就き,蟐蛾ノ瀬戸を経由して壱岐島の西岸沿いに北上したのち,15時57分半若宮灯台から331度6.2海里の地点で,針路を032度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの速力で,船首死角を補う見張りを行うために,舵輪の後ろやや左舷側に立ち,操舵室右舷側に設置の1号レーダーを6海里レンジに,舵輪の左舷側に隣接して設置の2号レーダーを1.5海里レンジにそれぞれ設定して作動させ,この2台のレーダーを監視しながら,自動操舵によって進行した。
 B受審人は,定針時に1号レーダーで前方約5海里に数隻の映像を認め,目視して確認しようとしたが黄砂のためにこれらを確認できなかったものの,その後レーダー映像によってこれらが移動している様子のないことを知り,いずれも自船と同業のいか釣り漁船で,シーアンカーを投入して漂泊しているものと考え,1海里に接近してから避けるつもりで続航した。
 16時18分B受審人は,若宮灯台から351.5度8.4海里の地点に至り,正船首方2.0海里のところに海栄丸の映像を認めたとき,船首死角外の右舷船首方約1海里のところに3トンばかりの小型漁船数隻を視認し,その後これらの小型漁船群と行き会う態勢で接近していたことから,同漁船群との接近模様に注意しながら,同じ針路,速力で進行した。
 16時24分B受審人は,若宮灯台から356度9.2海里の地点に達し,前示小型漁船群が右舷側約50メートルの距離で航過したとき,海栄丸を正船首方1.0海里のところに視認することができ,その後,同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが,同小型漁船群との接近模様に気をとられているうちに,いつしか海栄丸の存在を失念し,船首を左右に振るなり,甲板員を船首方の見張りに当たらせるなりして船首死角を補うための見張りにより,同船に対する動静監視を十分に行うことなく,このことに気付かず,同小型漁船群と安全に航過したことで気が緩み,最近の漁模様が良くないことや,漁場を何処に選定するかなどを俯いた姿勢で考えながら,レーダー監視をせずに続航した。
 16時27分B受審人は,若宮灯台から357.5度9.6海里の地点に至ったとき,海栄丸を同方位930メートルに認め得る状況となったが,依然,同船の存在を失念していてその動静監視を十分に行っていなかったので,シーアンカーを投入して漂泊中の海栄丸を避けずに進行中,同時30分わずか前前方に音響信号を聞いたものの,何をする間もなく,海幸丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突し,プロペラ軸に海栄丸のシーアンカー引上げ索が絡まって行き足が止まった。
 衝突の結果,海栄丸は,船首部の外板に亀裂,手摺りの曲損並びに海錨索及び引上げ索の切損を生じ,海幸丸は,船首部甲板及び左舷船首外板に亀裂等を生じたが,のちそれぞれ修理された。

(原因)
 本件衝突は,長崎県壱岐島北方沖合において,北上中の海幸丸が,動静監視不十分で,前路でシーアンカーを投入して漂泊中の海栄丸を避けなかったことによって発生したが,海栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,長崎県壱岐島北方沖合において,漁場に向けて航行中,レーダーにより前路に海栄丸を探知し,その映像を監視して同船が漂泊中あるいは錨泊中の船舶であることを知った場合,船首死角が生じていたから,海栄丸との衝突のおそれの有無が分かるよう,船首を左右に振るなり,甲板員を船首方の見張りに当たらせるなりして船首死角を補うための見張りにより,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,右舷船首方に視認した小型漁船群との接近模様に気をとられているうちに,いつしか海栄丸の存在を失念し,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,海栄丸に対して衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,海栄丸の船首部外板に亀裂,手摺りの曲損並びに海錨索及び引上げ索の切損を,海幸丸の船首部甲板及び左舷船首外板に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,長崎県壱岐島北方沖合において,シーアンカーを投入して漂泊する場合,衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近する海幸丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,自船はシーアンカーを投入して漂泊しているから,他船が接近すれば同アンカー浮標と海錨索に気付いて自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近する海幸丸に気付かず,警告信号を行わないまま漂泊を続けて海幸丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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