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平成16年門審第116号
件名

貨物船第32児島丸貨物船金栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月8日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,千手末年,上田英夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第32児島丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:金栄丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:金栄丸機関長

損害
第32児島丸・・・左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損等
金栄丸・・・船首外板に亀裂を伴う凹損

原因
金栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第32児島丸・・・錨泊当直の維持不十分,注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,金栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,錨泊中の第32児島丸を避けなかったことによって発生したが,第32児島丸が,錨泊当直の維持が不十分で,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月3日05時05分
 大分県守江港外
 (北緯33度22.6分 東経131度41.4分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 貨物船第32児島丸 貨物船金栄丸
総トン数 699トン 199トン
全長 73.50メートル 58.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 735キロワット
2)設備及び性能等
ア 第32児島丸
 第32児島丸(以下「児島丸」という。)は,平成4年10月に進水した,全通一層甲板船首尾楼甲板付船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで,船体後部に機関室を,同室上部に乗組員居住区及び船橋を有し,船橋楼前部に,左右両舷に区画された貨物槽8個を有する構造で,船橋にはARPA機能付レーダーのほかレーダー1基,GPSプロッター等が装備されていた。
イ 金栄丸
 金栄丸は,平成5年5月に進水した,全通2層甲板の船尾船橋型鋼製貨物船で,船体後部に機関室を,同室上部に乗組員居住区及び船橋を有し,船橋楼前部に貨物倉を有する構造で,船橋にはレーダー2基のほかGPSプロッター及びジャイロコンパス等が装備されていた。そして,同船は,主として大分港で鋼材を積載し,同港と九州一円の各港間の航海に従事していた。

3 事実の経過
 児島丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,キシレン1,000トンを積載し,船首3.3メートル船尾4.3メートルの喫水をもって,平成16年5月2日17時30分岩国港を発し,大分港に向かった。
 A受審人は,大分県守江港外の,10隻ばかりの船舶がほぼ一塊となって錨泊している付近に至り,翌朝の大分港入港に備えて錨泊して待つこととし,22時45分臼石鼻灯台から200度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点で,左舷錨を投じて錨鎖4節を延出した。
 そして,A受審人は,錨泊中を示す白色全周灯を船体前部及び後部にそれぞれ1個と危険物積載中を示す赤色全周灯1個とを掲げ,前部マスト及び船橋前壁から作業灯で甲板上を照射したほか,後部甲板の照明灯等を点灯して錨泊を開始したものの,錨泊地点が,通常,船舶の航行する海域であり,危険物を積載中でもあったが,その後の入港作業や荷役作業に備えて乗組員を休養させようと思い,錨泊当直割を決めるなどして錨泊当直を維持せず,23時30分降橋して船橋を無人とした。
 翌3日A受審人は,04時10分昇橋して周囲の状況を確認したところ,異常を認めなかったので再び降橋して船橋を無人とし,依然,錨泊当直を維持することなく,その後,食堂でくつろいでいた。
 A受審人は,04時59分児島丸が148度を向いていたとき,左舷船尾70度1.0海里のところに金栄丸が存在し,その後,自船に向かって衝突のおそれがある態勢で,避航の気配を見せないまま接近する状況であったが,この状況に気付かず,注意喚起信号を行わずに錨泊中,05時05分臼石鼻灯台から200度2.0海里の地点において,児島丸は,148度に向いた状態で,その左舷船首部に金栄丸の船首が後方から70度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は,衝撃を感じて直ちに昇橋し,金栄丸との衝突を知り,事後の措置に当たった。
 また,金栄丸は,B受審人及びC指定海難関係人が乗り組み,空倉のまま,船首1.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,同月2日08時00分熊本県合津港を発し,大分港に向かった。
 ところで,金栄丸には運航者からの指示で居眠り防止装置が積み込まれていたが,B受審人は,同装置の使用電源が直流24ボルトであることを知り,自船にその電源はないものと思っていたので,同装置を使用していなかった。
 B受審人は,発航後,船橋当直を単独6時間交代制にして航行し,翌3日01時00分周防灘でC指定海難関係人に同当直を行わせたが,以前,同指定海難関係人から眠気を感じた際に報告を受けたことがあったので,そのようなときには何らかの対応をとってくれるものと思い,眠気を覚えた際には外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかった。
 ところで,C指定海難関係人は,出港作業終了後,5時間ばかり休息をとって同日13時から18時30分まで船橋当直に就き,その後降橋して夕食をとり,夕食後睡眠をとっていたので,特に睡眠不足の状態ではなかった。
 船橋当直に就いたC指定海難関係人は,国東半島に沿って南下し,04時22分臼石鼻灯台から045度5.5海里の地点で,前方のD社の煙突の灯りを左舷船首方に見て自動操舵としたものの,このとき目標とすべき煙突の灯りを取り違えたまま,針路を218度に定め,機関を全速力前進に掛けて10.2ノットの対地速力で,舵輪後方の背もたれ付きのいすに腰を掛けて見張りに当たって進行した。
 04時40分C指定海難関係人は,臼石鼻灯台から054度2.5海里の地点に達したとき,海上平穏で周囲に他船を認めず,入直してから4時間ばかりたっていたうえいすに腰を掛けていたことや居眠りに陥りやすい時間帯であったことなどから,気が緩み眠気を覚えてウトウトしたが,立ち上がって外気に当たるなどして,居眠り運航の防止措置をとらなかった。
 C指定海難関係人は,いつしか居眠りに陥り,04時59分臼石鼻灯台から181度1.1海里の地点に達したとき,正船首方1.0海里のところに錨泊している児島丸が存在し,その後,同船に衝突のおそれがある態勢で接近していたが,このことに気付かず,同船を避けずに同じ針路及び速力で続航中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,児島丸は左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損等を,金栄丸は船首外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち,いずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,守江港外において,錨泊中の児島丸と航行中の金栄丸とが衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 海上衝突予防法上,航行中の船舶と錨泊中の船舶との関係について個別に規定した条文はないから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 児島丸
(1)錨泊当直基準の維持を十分に行わなかったこと
(2)注意喚起信号を行わなかったこと
(3)A受審人が,乗組員に休息を与えようと思ったこと

2 金栄丸
(1)運航者からの指示で積み込んだ居眠り防止装置を使用していなかったこと
(2)B受審人が,船橋当直者に対し,眠気を覚えた際には居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかったこと
(3)船首目標を取り違えたまま針路を定めたこと
(4)船橋当直者がいすに腰を掛けていたこと
(5)船橋当直者が,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(6)船橋当直者が居眠りに陥ったこと
(7)船橋当直者が児島丸を避けなかったこと

(原因の考察)
 児島丸が,錨泊当直を十分に維持していたなら,金栄丸を早期に視認でき,余裕のある時機に注意喚起信号を行うことができたのであるから,A受審人が,乗組員に休息を与えようと思ったこと,同当直を十分に維持しなかったこと及び注意喚起信号を行わなかったことは原因となる。
 金栄丸が,居眠り運航の防止措置をとっていれば,居眠りに陥ることはなく,前路で錨泊している児島丸を視認することができ,同船を避けられたのであるから,C指定海難関係人が居眠り運航の防止措置をとらなかったこと,居眠りに陥ったこと及び同船を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 B受審人が,船橋当直者に対し,眠気を覚えた際には居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかったことは,同当直者が眠気を覚えた際に居眠り運航の防止措置をとっていれば居眠り運航は防止できたものと認められるので,本件発生の原因となる。
 運航者から提供された居眠り防止装置を使用していなかったこと及び船橋当直者がいすに腰を掛けていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,船橋当直者が眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとっていれば居眠り運航を防止することができたのであるから,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,このことは,海難防止の観点から,是正すべき事項である。
 船首目標を取り違えたまま針路を定めたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,居眠りに陥らなければ,前路で錨泊している児島丸を視認することができ,同船を避けられたのであるから,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められず,原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,守江港外において,金栄丸が,大分港に向けて航行する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路で錨泊中の児島丸を避けなかったことによって発生したが,児島丸が,錨泊当直の維持が不十分で,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 金栄丸の運航が適切でなかったのは,船長が,無資格の船橋当直者に対し,眠気を覚えた際には居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかったことと,同当直者が,眠気を覚えた際に居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 B受審人は,夜間,周防灘で,単独の船橋当直を無資格の船橋当直者に引き継いで降橋する場合,眠気を覚えたときには外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとるよう指示するべき注意義務があった。しかるに,同人は,強い眠気を感じた際の報告を受けたことがあったので,そのようなときには報告をしてくれるものと思い,眠気を覚えた際には居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかった職務上の過失により,同船橋当直者が居眠りに陥り,前路で錨泊中の児島丸を避けずに進行して衝突を招き,自船の左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損等を,金栄丸の船首外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,守江港外において,錨泊する場合,錨泊地点が,通常,船舶が航行する海域であり,また,危険物を積載中でもあったから,著しく接近して航行する船舶に対して注意喚起信号ができるよう,錨泊当直を十分に維持すべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲に10隻ばかりの船舶が錨泊していたうえ,気象条件も良かったので,大丈夫と思い,同当直の維持を十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する金栄丸に気付かず,注意喚起信号を行わずに錨泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 C指定海難関係人が,夜間,単独で船橋当直に就いて大分港北方沖合を同港に向けて航行中,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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