(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月15日11時10分
伊予灘南部
(北緯33度27.4分 東経132度06.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第五神力丸 |
漁船勝龍丸 |
総トン数 |
498トン |
4.96トン |
全長 |
73.61メートル |
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登録長 |
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11.67メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
(2)設備及び性能等
ア 第五神力丸
第五神力丸(以下「神力丸」という。)は,平成3年10月に進水したコークス,石炭及び産業廃棄物等を運搬する船尾船橋型貨物船で,レーダー2台,GPS,バウスラスター及び自動操舵装置を装備していた。
イ 勝龍丸
勝龍丸は,昭和54年10月に進水したごち網漁業に従事する木造漁船で,船体後部に操舵室及び同室後方両舷側にロープリール各1台を備え,GPSプロッター,魚群探知機,自動操舵装置及びモーターサイレンを装備していた。
3 勝龍丸の操業模様
勝龍丸が行うごち網漁は,先端に浮標のついた1,000メートルばかりのロープ,漁網及び1,000メートルばかりのロープを順に左回りに投入して前示浮標まで戻り,直ちに2台のロープリールによって揚網するもので,投網及び揚網にそれぞれ15分を要し,1日に20回近くの操業を昼間だけに行うものであった。
4 事実の経過
神力丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,空倉で,船首1.4メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成16年9月15日00時30分岡山県水島港を発し,宮崎県細島港に向かった。
07時00分A受審人は,釣島水道北方で前直の一等航海士から単独の船橋当直を引き継いで同水道を南下し,08時03分由利島灯台から151度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点で,針路を速吸瀬戸に向く224度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
A受審人は,視界もよかったうえ航行船も見当たらなかったことから,レーダーをスタンバイとして肉眼による見張りを行い,約1時間毎にGPSを活用するなどして船位を確認しながら続航し,10時30分ころ右舷前方7海里ないし8海里のところに,操業中の漁船群を視認するようになった。
11時04分A受審人は,右舷船首12度2.0海里のところに,前示漁船群の中から抜け出して東行を始めた勝龍丸を初めて視認し,その動静を監視したところ,同船は航行中の小型漁船であることが分かり,同時06分見舞埼灯台から356度2.8海里の地点に達したとき,同方向1.2海里のところに勝龍丸を視認するようになり,その後同船が自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,それまで自船が避航船であっても小型漁船が避けてくれたことから,勝龍丸も同様に自船を避けてくれるものと思い,右転するなどして勝龍丸の進路を避けることなく進行した。
こうして,A受審人は,11時10分少し前勝龍丸が自船を避けないまま右舷船首至近に迫ったので衝突の危険を感じ,手動操舵に切り替えて左舵をとったが及ばず,11時10分見舞埼灯台から343度2.4海里の地点において,神力丸は,210度に向首し,原速力のまま,その右舷後部に勝龍丸の船首が前方から40度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期であった。
また,勝龍丸は,B受審人が1人で乗り組み,ごち網漁の目的で,船首0.25メートル船尾0.30メートルの喫水をもって,同日02時00分愛媛県双海町豊田漁港を発し,佐田岬北東沖合の漁場に向かった。
ところで,B受審人は,ごち網漁の揚網作業を行うに当たっては,網を正常な状態で巻き揚げるために両舷側のロープリール2台を同じ速度で回転させる必要があることから,各ロープリールをそれぞれ1人が操作できるように平素は長男と共に出漁していたところ,同人が風邪のため体調を崩して出漁できなくなったので,やむなく1人で出漁したものであった。
こうして,B受審人は,05時30分漁場について操業を4回ばかり繰り返したころ,付近で操業していた弟から1人で操業を続けるのは危ないから帰港するよう忠告されたので,操業を打ち切って帰港することとした。
10時50分B受審人は,漁場を発進して帰途につき,見舞埼灯台から288度3.7海里の地点で,針路を070度に定め,機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
11時00分B受審人は,周囲で操業中の漁船群の中から抜け出したとき,前路を一瞥(いちべつ)して他船を見かけなかったことから,自動操舵に切り替え,操舵室後方の甲板に船尾方を向いて座り,破れた漁網の修理を始めた。
11時06分B受審人は,見舞埼灯台から329度2.4海里の地点に達したとき,左舷船首14度1.2海里のところに南西進する神力丸を視認することができ,その後同船が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,漁網の修理に気をとられて見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず,同時08分には神力丸が避航の気配がないまま同方向0.6海里ばかりに接近したが,警告信号を行わず,更に間近に接近しても機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
B受審人は,なおも漁網の修理に気をとられて神力丸に気付かず進行し,勝龍丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,神力丸には損傷はなかったが,勝龍丸は,球状船首が脱落し,船首部に緩みを生じたが,のち修理された。
(航法の適用)
本件は,衝突4分前には,A受審人が右舷船首12度1.2海里のところに勝龍丸を認め,B受審人が左舷船首14度1.2海里のところに神力丸を視認することができる状況であり,両船は衝突直前まで同一の針路及び速力で航行して衝突しており,また,神力丸が勝龍丸の進路を避けること及び勝龍丸が衝突を避けるための協力動作をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったから,海上衝突予防法第15条を適用することになる。
(本件発生に至る事由)
1 神力丸
(1)A受審人が,勝龍丸は航行中の小型漁船であるから自船を避けてくれるものと思ったこと
(2)A受審人が,勝龍丸の進路を避けなかったこと
2 勝龍丸
(1)B受審人が,前路を一瞥して他船を見かけなかったこと
(2)B受審人が,操舵室後方の甲板に船尾方を向いて座り,破れた漁網の修理を行ったこと
(3)B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,警告信号を行わなかったこと
(5)B受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
神力丸は,海上衝突予防法第15条により,避航船の立場にあったから,余裕のある時期に右転するなどして勝龍丸の進路を避けなければならなかった。
したがって,A受審人が,勝龍丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,勝龍丸は航行中の小型漁船であるから自船を避けてくれるものと思ったことは,勝龍丸の進路を避けなかったことの背景である。
一方,勝龍丸は,海上衝突予防法第15条により,保持船の立場にあったから,神力丸に対して警告信号を行い,更に間近に接近したときには衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。B受審人は,見張りを十分に行っていれば,衝突4分前には左舷船首14度1.2海里のところに同船を視認することができ,その後神力丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であり,同船に避航の気配がなかったら警告信号を行い,更に避航の気配がないまま間近に接近したときには機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることが可能であった。
したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,神力丸に対して警告信号を行わず,更に間近に接近したときに衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,前路を一瞥して他船を見かけなかったことは,見張りが不十分となった背景である。
B受審人が,操舵室後方の甲板に船尾方を向いて座り,破れた漁網の修理を行ったことは,見張り不十分の態様である。
(海難の原因)
本件衝突は,伊予灘南部において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南西進する神力丸が,前路を左方に横切る勝龍丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行する勝龍丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,単独で船橋当直に当たって伊予灘南部を南西進中,勝龍丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合,同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船は小型漁船であるから自船を避けてくれるものと思い,右転するなどして勝龍丸の進路を避けなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,勝龍丸の球状船首を脱落させ,船首部に緩みを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,単独で乗船し,操業を終えて帰途について伊予灘南部を東行する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁網を修理することに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,神力丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず,警告信号を行うことも,機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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