(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月24日20時29分
広島湾大須瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船かめりや |
作業船第12栄進丸 |
総トン数 |
91トン |
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全長 |
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14.92メートル |
登録長 |
28.40メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
180キロワット |
3 事実の経過
かめりやは,平水区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製油送船で,A受審人ほか2人が乗り組み,潤滑油90キロリットルを積載し,船首1.1メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,平成16年3月24日14時30分山口県徳山下松港を発し,大畠瀬戸,奈佐美瀬戸及び大須瀬戸を経由する予定で,広島県広島港に向かった。
ところで,大須瀬戸は,広島県似島とその南方に位置する同県江田島との間の東西方向に伸びる水道で,似島南端の外方ノ鼻南方沖合に暗岩が存在したり,似島及び江田島の周辺海域にかき養殖施設が設置されたりして可航幅が狭められ,同瀬戸西口付近では,似島寄りの,安渡島灯台から020度(真方位,以下同じ。)1.1海里,016度1.4海里,044度1.8海里,046度1.7海里,050度1.8海里及び053度1.8海里の各地点を順次結ぶ線で囲まれた区域に,並びに同灯台から050度1.8海里及び056度2.2海里の両地点を結ぶ線と似島との間に,また,江田島寄りの,同灯台から068度1.4海里,070度1.6海里,094度1.3海里及び093度1.2海里の各地点を順次結ぶ線で囲まれた区域にそれぞれかき養殖施設が設置されて可航幅が約500メートルになっており,同瀬戸西口の西方が江田島湾の入口になっていた。
A受審人は,出航操船に続いて船橋当直にあたり,18時30分大畠瀬戸を通過して広島湾に入ったところで,いったん甲板長に当直を委ねて操舵室内で休息し,19時55分広島県爼石及び同県西能美島西岸間の海上を北上中,奈佐美瀬戸及び大須瀬戸の通航に備え,甲板長と交替して操船の指揮をとり,同人を操舵につけ,航行中の動力船の灯火を表示して奈佐美瀬戸に向かった。
20時02分A受審人は,奈佐美瀬戸西口に至り,安芸爼礁灯標から030度1,400メートルの地点で,針路を063度に定め,機関を全速力前進にかけて8.2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
A受審人は,間もなく奈佐美瀬戸を通過し,20時18分少し前安渡島灯台から017度300メートルの地点に達し,大須瀬戸西口まで約1.3海里となったとき,同瀬戸の右側端に寄って航行するつもりで,針路を068度に転じ,同じ速力で続航した。
20時24分A受審人は,安渡島灯台から061度1,800メートルの地点に差し掛かったとき,左舷船首7度1.3海里のところに大須瀬戸を航行する第12栄進丸(以下「栄進丸」という。)の白,紅2灯を初めて認め,同瀬戸西口の狭い水道内で同船と互いに左舷を対して航過することを知り,その動静に留意して進行した。
A受審人は,20時26分少し前大須瀬戸西口付近に達したとき,それまで見えていた栄進丸の紅灯が緑灯になったことから,同船が左転し同瀬戸を右側から左側に向け斜航する態勢に変わったことを認め,同時26分同船が左舷船首11度1,390メートルになったとき,速力を7.5ノットに減じたところ,その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,同瀬戸を斜航する同船がいずれ避航措置をとるものと思い,同船に向けてサーチライトを照射したものの,警告信号を行わず,さらに接近したとき,直ちに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための措置をとらなかった。
A受審人は,大須瀬戸西口を右側端に寄ったまま続航し,20時29分少し前栄進丸が避航の気配を見せないで至近に迫ったとき,右舵一杯をとり,機関を全速力後進にかけたが,及ばず,20時29分安渡島灯台から064度1.6海里の地点において,かめりやは,135度に向首し,1.0ノットの速力になったとき,その左舷船首部に,栄進丸の船首が,後方から89度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
また,栄進丸は,船体中央より少し前方に操舵室を有し,主としてボーリング工事に従事するFRP製作業船で,B受審人(平成15年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,工事用機械など0.25トンを積載し,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日11時00分香川県三本松港を発し,江田島湾の南西部に位置する広島県中田港に向かった。
B受審人は,専ら操舵室中央の舵輪後方に置いた台に腰を下ろし,操舵と見張りにあたって瀬戸内海を西行し,音戸ノ瀬戸を通過したのち,江田島東岸及び本州間の海域を北上して大須瀬戸東口に至り,20時14分屋形石灯標から318度900メートルの地点で,針路を248度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で,航行中の動力船の灯火を表示し,同瀬戸を通過したのち左転して江田島湾に入るつもりで,同瀬戸の右側端に寄り,手動操舵によって進行した。
20時24分B受審人は,ドウゲン石灯標から200度600メートルの地点に達したとき,左舷船首7度1.3海里のところにかめりやの白,紅2灯を初めて認め,大須瀬戸西口の狭い水道内で同船と互いに左舷を対して航過することを知り,その動静に留意して続航した。
20時26分少し前B受審人は,かめりやの灯火の様子や接近状況などから,同船が自船よりも大きく,陸岸やかき養殖施設を少し離して航行しているものと判断し,かめりやと江田島北西端の鼻グリとの間を航行することができるものと思い,大須瀬戸の右側端に寄って航行することなく,近道をして江田島湾に入るつもりで,針路を224度に転じ,速力を8.0ノットとし,同瀬戸の右側から左側に向け斜航する態勢で進行した。
B受審人は,20時26分かめりやが右舷船首13度1,390メートルになったとき,同船が同じ針路のまま減速し,その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,同船が鼻グリを離して航行するのでいまに左転するものと思い,直ちに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための措置をとることなく続航中,同時29分少し前かめりやが船首至近に迫って衝突の危険を感じ,機関を全速力後進にかけたが,及ばず,栄進丸は,原針路のまま,4.0ノットの速力になったとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,かめりやは,左舷船首部外板にペイント剥離を,栄進丸は,船首部外板に亀裂等の損傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,夜間,広島湾の大須瀬戸西口において,西行する栄進丸が,狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,東行するかめりやが,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,広島湾の大須瀬戸西口において,単独の船橋当直にあたり,江田島湾に向けて西行する場合,同瀬戸の右側端に寄って航行するべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方に認めた東行中のかめりやが自船よりも大きく,陸岸やかき養殖施設を少し離して航行しているものと判断し,かめりやと江田島北西端の鼻グリとの間を航行することができるものと思い,大須瀬戸の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により,近道をして江田島湾に入るつもりで,同瀬戸の右側から左側に向け斜航して同船との衝突を招き,かめりやの左舷船首部外板にペイント剥離を,栄進丸の船首部外板に亀裂等の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3条を適用して同人を戒告する。
A受審人は,夜間,広島湾の大須瀬戸西口を右側端に寄って東行中,西行中の栄進丸が同瀬戸の右側から左側に向けて斜航し,衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合,警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,大須瀬戸を斜航する栄進丸がいずれ避航措置をとるものと思い,警告信号を行わなかった職務上の過失により,栄進丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3条を適用して同人を戒告する。