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平成16年広審第83号
件名

漁船正栄丸貨物船サン スプリング衝突事件
第二審請求者〔補佐人 B〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一,高橋昭雄,道前洋志)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:正栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B,C,D,E
指定海難関係人
F 職名:サン スプリング一等航海士

損害
正栄丸・・・右舷前部から後部に至る舷縁に破損及び船尾やぐらに折損,船長左膝内側側腹靱帯損傷,甲板員が背中と頭を強打して頭蓋骨骨折,急性硬膜外血腫及び脳挫傷の負傷
サンスプリング・・・右舷船首部外板に擦過傷

原因
正栄丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
サンスプリング・・・告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,正栄丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るサンスプリングの進路を避けなかったことによって発生したが,サンスプリングが,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月16日16時13分
 岡山県真鍋島東方沖合
 (北緯34度22.0分 東経133度36.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船正栄丸 貨物船サンスプリング
総トン数 4.7トン 996トン
全長 13.55メートル 65.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,103キロワット
漁船法馬力数 15  
(2)設備及び性能等
ア 正栄丸
 正栄丸は,昭和60年10月に進水したFRP製漁船で,底引き網漁に従事し,船体のほぼ中央部に操舵室を,船尾甲板に主機駆動式の揚網機及び同機付近から船尾斜め上方に伸びるやぐらをそれぞれ有し,操舵室には舵輪,主機操縦装置及び自動操舵装置を設備しているほか,操舵室右舷後方外壁にも舵輪と主機操縦装置が設けられていた。そして,航海計器の装備は何らなく,船位測定や周囲の見張りなどは専ら目視によって行われていた。
イ サンスプリング
 サンスプリング(以下「サ号」という。)は,昭和60年11月に日本で建造された船尾船橋型のケミカルタンカーで,船体の左右両舷に合計8個の貨物槽を有し,主に日本,中華人民共和国,台湾及び大韓民国各国間の貨物輸送に従事していた。
 操舵室には,ジャイロコンパスを組み込んだ操舵スタンドのほか,レーダー2台,GPS1台及びVHF無線電話2台などを装備していた。
 船体部公式試運転成績書写によれば,旋回時の最大縦距及び最大横距は左及び右旋回ともに約190メートルで,主機回転数毎分320の11.4ノットで航走中の最短停止距離は625メートルで,停止時間は2分17.5秒であった。

3 事実の経過
 正栄丸は,A受審人及び同人の息子で甲板員のGが乗り組み,底引き網漁の目的で,船首0.35メートル船尾1.52メートルの喫水をもって,平成16年4月16日06時00分岡山県寄島漁港の係留地を発し,同県六島東方沖合の漁場に向かい,07時30分同漁場に至ってマストに鼓型形象物を掲げて操業を開始した。
 A受審人は,前示漁場で操業を繰り返したのち,15時30分岡山県真鍋島と香川県佐柳島との間の中央付近に向けて最後のえい網を始め,船首方に見える岡山県下水島東端と香川県手島北西端の高ノ越鼻との見通し線が操業許可区域の境界線であったことから,両島の開き具合を見て同許可区域内であることを確かめながらえい網を続けた。
 A受審人は,やがて真鍋島と佐柳島との間の中央付近に至ってえい網を終え,G甲板員に揚網作業に取り掛かるよう指示し,16時00分岡山県大島58メートル山頂三角点(以下「大島三角点」という。)から162度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点で,針路を013度に定め,機関を全速力前進にかけ,2.3ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室右舷後方外壁に設けられた舵輪で手動操舵にあたって,揚網しながら進行した。
 16時06分半A受審人は,大島三角点から158度1.8海里の地点で,G甲板員が揚網作業を終えたので,針路を寄島東岸の少し沖合に向く001度に転じて自動操舵とし,揚網を終えたことにより8.0ノットの速力となって帰航の途についた。
 帰航の途についたとき,A受審人は,右舷船首19度1.8海里のところにサ号を初めて視認し,同船が真鍋島南方沖合に向け南西進して前路を左方に横切る態勢であったが,自船は同島に近づくから,サ号がこれまで見掛けた貨物船と同じく真鍋島と佐柳島との間の中央寄りを航行して自船の船尾を替わすものと思い,サ号に対する動静監視を十分に行うことなく,船尾甲板に移動してそのほぼ中央で右舷船尾方を向き,同甲板右舷角で左舷方を向いたG甲板員とともに魚の選別作業を始めた。
 16時07分半A受審人は,大島三角点から156度1.7海里の地点に達したとき,サ号が右舷船首19度1.5海里のところに接近し,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,魚の選別作業にあたり,依然としてサ号に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船の進路を避けないまま進行した。
 こうして,A受審人は,魚の選別作業を終えようとしたとき,16時13分大島三角点から139度1.1海里の地点において,正栄丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首に,サ号の右舷船首が,前方から19度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は低潮時であった。
 また,サ号は,船長H及びF指定海難関係人の両大韓民国人ほか同国人,インドネシア共和国人,ミャンマー連邦人及び中華人民共和国人の11人が乗り組み,2-エチルヘキサノールなど約1,360トンを積載し,船首4.40メートル船尾4.75メートルの喫水をもって,同日14時30分岡山県水島港を発し,中華人民共和国張家港に向かった。
 H船長は,船橋当直を航海士と甲板手の2人体制による4時間3直制とし,出航操船ののち,天候や視界が良好で周囲に他船が少なかったことから,二等航海士と甲板手に船橋当直を任せて降橋した。
 F指定海難関係人は,出港配置が解除されたのち,ポンプルームなどを点検してシャワーを浴び,15時53分大島三角点から054度3.0海里の地点で,甲板手とともに昇橋し,前直の二等航海士から針路,速力のほか前方に漁船が2隻いることなどを引き継いで船橋当直に就いたとき,左舷船首方4.5海里のところにそのうちの1隻である正栄丸を初めて視認し,前直者から引き継いだまま,針路を真鍋島南方沖合に向く212度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,9.2ノットの速力で進行した。
 F指定海難関係人は,甲板手をトリム調整などの甲板作業に赴かせて単独で船橋当直にあたり,レーダーと双眼鏡で正栄丸の動静を監視したところ,16時05分少し過ぎ同船を左舷船首11度2.0海里のところに見るようになり,同時07分半大島三角点から096度1.2海里の地点で,正栄丸が漁ろうに従事しているのではなく航行中であることが分かり,その方位があまり変化しないことから,まだ遠いうちに同船との距離をとっておこうと,自動操舵で針路を217度に転じた。
 針路を転じたとき,F指定海難関係人は,正栄丸を左舷船首17度1.5海里のところに見るようになり,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,漁船は間近になって避航動作をとるものと考え,警告信号を行わず,さらに接近しても,機関を使って行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 こうして,F指定海難関係人は,16時13分少し前正栄丸が間近に迫ってようやく衝突の危険を感じ,手動操舵に切り換えて左舵一杯をとったものの及ばず,サ号は,200度に向首し,ほぼ原速力で,前示のとおり衝突した。
 H船長は,自室で休息していたところ,異音を聞いたので昇橋し,衝突したことを知って事後の措置にあたった。
 衝突の結果,正栄丸は,右舷前部から後部に至る舷縁に破損及び船尾やぐらに折損を生じたが,のち修理され,サ号は,右舷船首部外板に擦過傷を生じた。また,A受審人が衝突の衝撃で転倒して左膝内側側腹靱帯損傷を,G甲板員が折損した船尾やぐらで背中と頭を強打して頭蓋骨骨折,急性硬膜外血腫及び脳挫傷をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,岡山県真鍋島東方沖合において,北上中の正栄丸と南西進中のサ号とが互いに進路を横切る態勢で接近して衝突したものであるから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用する。

(本件発生に至る事由)
1 正栄丸
(1)A受審人がサ号に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)A受審人が魚の選別作業にあたったこと
(3)A受審人がサ号の進路を避けなかったこと

2 サ号
(1)船長が操船指揮を執っていなかったこと
(2)F指定海難関係人が甲板手を甲板作業に赴かせて単独で船橋当直にあたったこと
(3)F指定海難関係人が警告信号を行わなかったこと
(4)F指定海難関係人が衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 A受審人は,サ号に対する動静監視を十分に行っていたなら,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近している状況に気付いて,サ号の進路を避けることが可能であり,その行動を妨げる要因は何ら存在しなかった。
 したがって,A受審人がサ号に対する動静監視を十分に行わなかったこと及び同船の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が魚の選別作業にあたったことは,動静監視を十分に行わなかった態様である。同作業中も周囲の見張りを怠ってはならない。
 一方,F指定海難関係人は,正栄丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したから,警告信号を行い,さらに接近したならば,衝突を避けるための協力動作をとることが可能であり,それらの行動を妨げる要因は何ら存在しなかった。
 したがって,F指定海難関係人が警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 船長が操船指揮を執っていなかったこと及びF指定海難関係人が甲板手を甲板作業に赴かせて単独で船橋当直にあたったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,未だ島々の間を航行中で不測の事態に備えるべきであり,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,真鍋島東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する正栄丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るサ号の進路を避けなかったことによって発生したが,サ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,真鍋島東方沖合において,操業を終えて北上する際,右舷船首方に認めたサ号が南西進して前路を左方に横切る態勢であった場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,自船は真鍋島に近づくから,サ号が同島と佐柳島との間の中央寄りを航行して自船の船尾を替わすものと思い,魚の選別作業にあたり,サ号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近している状況に気付かず,その進路を避けないまま進行してサ号との衝突を招き,正栄丸の右舷前部から後部に至る舷縁に破損及び船尾やぐらに折損を,サ号の右舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ,また,自身が左膝内側側腹靱帯損傷を,G甲板員が頭蓋骨骨折,急性硬膜外血腫及び脳挫傷をそれぞれ負う事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
 F指定海難関係人が,真鍋島東方沖合において,同島南方沖合に向け南西進中,正栄丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,警告信号を行わず,機関を使って行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 F指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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