日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年広審第94号
件名

貨物船碧隆丸貨物船サニー リンデン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一,吉川 進,黒田 均)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:碧隆丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
B,C,D
指定海難関係人
E 職名:サニー リンデン船長
補佐人
F,G,H,I,J

損害
碧隆丸・・・右舷船首部外板に破口を伴う凹損等
サニー リンデン・・・船首部外板に破口等の損傷

原因
碧隆丸・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
サニー リンデン・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,碧隆丸が,前路を左方に横切るサニー リンデンの進路を避けなかったことによって発生したが,サニー リンデンが,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月31日01時56分
 広島県福山港
 (北緯34度26.4分 東経133度26.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船碧隆丸 貨物船サニー リンデン
総トン数 5,196トン 3,996トン
全長 115.02メートル 107.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,471キロワット 3,912キロワット
(2)設備及び性能等
ア 碧隆丸
 碧隆丸は,平成4年2月に進水した中央船橋型のロールオンロールオフ貨物船で,バウスラスタ及び可変ピッチプロペラを装備し,専ら広島県福山港から千葉県千葉港や名古屋港への鋼材輸送に従事していた。
 操舵室には,その前面に左舷側から順にサーチライトスイッチ,ジャイロコンパスレピーター,汽笛スイッチ,VHF無線電話及びサーチライトスイッチがそれぞれ配置され,同レピーターの後方に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側に機関操縦盤が,同右舷側にレーダー2台が装備され,右側の主レーダーには電子海図が表示されて,自動衝突防止援助装置及びGPS情報表示器が組み込まれていた。またサーチライトがコンパス甲板に装備され,操舵室内天井に取り付けられたレバーによってその方向を変えることができた。
 海上試運転成績書によれば,バラスト状態で機関回転数毎分188.6プロペラ翼角20.5度における速力は15.7ノットであったが,通常は同185プロペラ翼角19ないし20度で14.5ないし16.5ノットの速力で航行し,半速力前進における旋回径は左旋回約330メートル,右旋回約310メートルで,最短停止距離は約590メートルであった。
イ サニー リンデン
 サニー リンデン(以下「サ号」という。)は,1995年1月に進水した船尾船橋型の貨物船で,大韓民国の蔚山及び釜山両港と日本の広島県広島,福山,岡山県水島,神戸及び大阪各港との間の定期コンテナ輸送に従事していた。
 操舵室には,その前面に左舷側から移動式昼間信号灯,汽笛スイッチ,VHF無線電話,ジャイロコンパスレピーター,汽笛スイッチがそれぞれ配置され,同レピーターの後方に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側に主レーダーが,同右舷側に機関操縦盤が装備されていた。
 海上試運転成績書によれば,最大速力は機関回転数毎分206の16.7ノットで,同速力における旋回径は左旋回約210メートル右旋回約240メートルで,最短停止距離は約980メートルであった。

3 福山港
 福山港には港則法に定める航路はないが,通称本航路,分岐航路及び同航路の奥に接続する内港航路があった。
 本航路は,福山港の港口から北方にあるK社(以下「製鉄所」という。)の原料岸壁に至る深喫水船のためにそのほとんどが水深16メートルに掘り下げられた航路で,幅約350メートル長さ約4.8海里あり,港口付近の福山港第1号灯標(以下,灯標及び灯浮標の名称について「福山港」を省略する。)及び第2号灯標から原料岸壁沖合の第10号灯浮標に至る各灯標及び灯浮標よって表示されていた。
 そして,本航路の東側海域は,大型船の指定錨地が同航路東側境界線東方の450ないし700メートル離れた港界付近に数箇所設けられているものの,水深が8メートル以上あることから,サ号は本航路ばかりでなく同海域を経て福山港に入航することができた。
 分岐航路は,製鉄所の南岸壁とその南方のコンテナターミナルや石油基地などがある箕沖岸壁との間の水路内に設けられた航路で,製鉄所南東端にある製鉄所船舶信号所(以下「私設信号所」という。)付近で本航路と分かれて北西方に向かい,その幅は分岐第1号灯浮標以西では約300メートル,同灯浮標以東では岸壁が石油基地を北東角として南方に折れ曲がっているので約900メートルに広がり,分岐第1号灯浮標から同第4号灯浮標までの各灯浮標によって表示されていた。
 そして,分岐航路の水深は,そのほとんどの部分で約11メートル,分岐第1号灯浮標以東の岸壁が南方に折れ曲がっている水域では6.6メートル以上あることから,同航路を東行する碧隆丸は石油基地の共同桟橋を通過したのち,同水域を経て福山港を出航することができた。

4 事実の経過

 碧隆丸は,A受審人ほか8人が乗り組み,鋼材2,435トンを積載し,船首5.10メートル船尾5.11メートルの喫水をもって,平成16年5月31日01時40分福山港の製鉄所南岸壁を発し,千葉港に向かった。
 A受審人は,所定の灯火を表示し,左舷ウイングで遠隔操縦装置を使って離岸操船を行い,分岐航路の中央付近に至ったのち,操舵室に移動して操船指揮をとり,三等航海士を手動操舵にあたらせて,01時45分私設信号所から288度(真方位,以下同じ。)1,540メートルの地点で,針路を分岐第1号灯浮標に向く126度に定め,機関を回転数毎分185プロペラ翼角7度の微速力前進にかけ,折からの同航路に沿う潮流に乗じて6.9ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 01時48分少し前A受審人は,私設信号所から277度1,000メートルの地点で,出港配置を終えて昇橋した二等航海士から入航船があるとの報告を受けたのとほぼ同時に,箕沖岸壁石油基地タンク越しの右舷船首29度1.9海里のところにサ号の白,白,紅3灯及び船首部の作業灯を初めて視認し,双眼鏡を使って同船がコンテナ船で分岐航路内のコンテナバースに向かうことが分かり,針路信号のつもりで左舷側のサーチライトを同船に向けて閃光2回の発光信号を行い,針路を120度に転じ,同航路の右側端に寄って続航した。
 A受審人は,石油基地共同桟橋を右舷正横方に通過したころ,手動操舵にあたりながらサ号の動静を監視していた三等航海士から,右転してサ号を替わしましょうかと助言があったものの,これに応じることなく,01時51分少し過ぎ私設信号所から236度430メートルの地点で,サ号と互いに右舷を対して航過しようと,再びサーチライトを同船に向けて閃光2回の発光信号を行い,針路を118度に転じて進行した。
 01時51分半A受審人は,私設信号所から229度400メートルの地点で,サ号を右舷船首37度1.0海里に見るようになり,折しも同船からVHF無線電話で互いに左舷を対して航過するよう連絡があったものの英語であったためその内容が分からず,その後サ号が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,発光信号で自船の左転を伝えたし,サ号は分岐航路内のコンテナバースに向け左転するから,互いに右舷を対して航過できるものと思い,速やかに右転するなどして同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして,A受審人は,01時54分わずか前私設信号所から165度510メートルの地点で,針路を114度に転じ,本航路に近付いて南流により2度右方に圧流され,6.7ノットの速力となって進行し,やがて本航路に入ったところ,サ号が左転しないまま近距離に迫って衝突の危険を感じ,同時55分プロペラ翼角を0度とし,その後左舵一杯をとって左回頭中,01時56分私設信号所から142度850メートルの地点において,碧隆丸は,090度に向首し,5.0ノットの速力となったとき,その右舷船首に,サ号の船首が後方から40度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の南東風が吹き,視程は約3海里で,潮候は下げ潮の末期にあたり,付近には微弱な南流があった。
 また,サ号は,E指定海難関係人ほか13人が乗り組み,総重量3,374トンのコンテナ296TEUを積載し,船首5.50メートル船尾6.60メートルの喫水をもって,同月30日05時25分大韓民国釜山港を発し,福山港に向かった。
 E指定海難関係人は,船橋当直を航海士と甲板手の2人体制による4時間3直制として,関門海峡を経て瀬戸内海を東行し,日没となって所定の灯火を表示し,21時30分昇橋して来島海峡通峡の操船指揮をとり,その後も引き続き在橋して岡山県六島東方及び同県梶子島南方の各沖合を経て福山港の港口付近に至った。
 E指定海難関係人は,本航路を経て分岐航路内箕沖岸壁のコンテナバースに向かうこととし,翌31日01時30分入港配置を発令して船首部の作業灯を点灯し,三等航海士を船長補佐に,甲板手を手動操舵にそれぞれあたらせ,やがて福山港の港界を横切り,第2号及び第4号両灯標間を経て,同時39分少し過ぎ私設信号所から176度3.1海里の地点で,針路を000度に定め,機関を航海速力下限の回転数毎分130にかけ,折からの潮流に抗して10.2ノットの速力で進行した。
 01時51分E指定海難関係人は,私設信号所から167度1.1海里の地点で,機関を港内全速力前進に減じ,折からの潮流に抗して8.7ノットの速力で続航した。
 E指定海難関係人は,背景の明かりに紛れて碧隆丸の灯火や同船が発した発光信号に気付かないでいたところ,01時51分半私設信号所から166度1.0海里の地点で,レーダー監視にあたっていた三等航海士からの報告を受けて,左舷船首25度1.0海里のところに碧隆丸の白,白,緑3灯を初めて視認し,航過距離をとろうと針路を002度に転じた。
 針路を転じたとき,E指定海難関係人は,碧隆丸にVHF無線電話で左舷を対して航過するよう英語で呼びかけても応答がなく,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,いずれ碧隆丸が右転して自船の進路を避けるものと考え,警告信号を行わず,碧隆丸が自船の進路を避ける様子のないままさらに接近しても,機関を使って行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく,同じ針路,速力で進行した。
 こうして,E指定海難関係人は,三等航海士が何度もVHF無線電話で呼びかけても碧隆丸から応答がないまま,同船が近距離に迫って衝突の危険を感じ,汽笛を連続吹鳴するとともに右舵一杯をとって右回頭中,サ号は,050度に向首し,ほぼ原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,碧隆丸は,右舷船首部外板に破口を伴う凹損等を生じてバウスラスタルームに浸水し,サ号は,船首部外板に破口等を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,港則法が適用される福山港において,分岐航路を東行中の碧隆丸と本航路を北上中のサ号とが,本航路内で衝突したものであるが,分岐航路及び本航路は前示のとおり港則法に定める航路ではなく,同法には適用する規定がないので,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)を適用することになる。
 碧隆丸は,分岐航路のほぼ右側端を航行して石油基地共同桟橋を通過したのち,サ号と互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,右転するなどしてサ号の進路を避けることができ,その行動をとる十分な時間的,距離的余裕があり,それを妨げる要因はなかった。
 また,サ号は,碧隆丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避ける様子のないまま接近した際,機関を使って行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとることができ,その行動をとる十分な時間的,距離的余裕があり,それを妨げる要因はなかった。
 したがって,両補佐人の陳述に異論はなく,本件には予防法第15条の横切り船の航法を適用する。

(本件発生に至る事由)
1 碧隆丸
(1)A受審人が針路信号として発光信号のみ行って汽笛を使用しなかったこと
(2)A受審人が三等航海士の助言に応じることなくサ号と右舷を対して航過しようとしたこと
(3)A受審人がサ号の進路を避けなかったこと
(4)A受審人がサ号からのVHF無線電話による呼びかけが英語であったため分からなかったこと

2 サ号
(1)E指定海難関係人が背景の明かりに紛れて碧隆丸の灯火や同船の発光信号に気付かず初認が遅れたこと
(2)E指定海難関係人が警告信号を行わなかったこと
(3)E指定海難関係人が衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 A受審人が,サ号が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が三等航海士の助言に応じることなくサ号と右舷を対して航過しようとしたことは,避航動作を適切にとって同船の進路を避けなかった態様である。
 A受審人が針路信号として発光信号のみ行い汽笛を使用しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,サ号がこれに気付いておらず,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,予防法第34条に違反しており,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 A受審人がサ号からのVHF無線電話による呼びかけが英語であったため分からなかったことは,両船が意志の疎通をはかる機会を失うこととなったが,同人は三級海技士(航海)の海技免許を受有しており,碧隆丸が内航船とはいえ開港を外国籍船と共用しているのであるから,IMO標準海事航海英語などで針路,速力,航過方法などを伝え合うことができるようにしておくべきである。
 一方,E指定海難関係人が,碧隆丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避ける様子のないまま接近した際,警告信号を行わず,行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 E指定海難関係人が背景の明かりに紛れて碧隆丸の灯火や同船の発光信号に気付かず初認が遅れたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同人が初認後衝突を避けるための協力動作をとる十分な時間的,距離的余裕があったから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,港奥に向かう途上で出航船と出会うことは想定することができ,背景の明かりに紛れた出航船がないか厳重に見張りを行うべきであり,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,福山港において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,東行する碧隆丸が,前路を左方に横切るサ号の進路を避けなかったことによって発生したが,サ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,夜間,福山港において,分岐航路を東行中,サ号が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近した場合,右転するなどしてサ号の進路を避けるべき注意義務があった。しかし,同人は,発光信号で自船の左転を伝えたし,サ号は分岐航路内にあるコンテナバースに向けて左転するから,互いに右舷を対して航過できるものと思い,右転するなどしてサ号の進路を避けなかった職務上の過失により,小刻みに左転しながら進行してサ号との衝突を招き,碧隆丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損等を生じさせてバウスラスタルームに浸水させ,サ号の船首部外板に破口等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

2 勧告
 E指定海難関係人が,夜間,福山港において,本航路を北上中,碧隆丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避ける様子のないまま接近した際,警告信号を行わず,機関を使って行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 E指定海難関係人に対しては,深く反省し注意して運航している点に徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:36KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION