(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月18日06時23分
大阪港大阪区第1区
(北緯34度38.8分 東経135度25.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第八金栄丸 |
旅客船シン ジャン ゼン |
総トン数 |
199トン |
14,543トン |
全長 |
57.91メートル |
156.69メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
15,444キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第八金栄丸
第八金栄丸(以下「金栄丸」という。)は,昭和63年9月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,愛知県豊橋港,大阪港,京浜港の各港間で鋼材の輸送に従事していた。
上部船橋には,エアホーン1台が装備さており,船橋には,レーダーが2台,GPSプロッター,ジャイロなどが装備されていた。
海上公試運転成績表の旋回力試験では,旋回径が左右とも60メートルであった。
イ シン ジャン ゼン
シン ジャン ゼン(以下「シ号」という。)は,西暦1994年1月に進水した,可変ピッチプロペラと790キロワットのバウラスターを装備した2機2軸の,船橋が船首から34メートル後方に位置する船首船橋型ローロー船兼旅客船で,大阪,神戸と上海を結ぶ定期フェリーであった。
上部船橋には,モーターホーンとエアホーンがそれぞれ1台ずつあり,船橋には,レーダー2台,GPSナビゲーター,コースレコーダー,エンジンロガ,AISなどが装備され,操舵装置と操機ハンドルが船橋内と左右ウイングにそれぞれ備えられていた。
3 大阪港における大型船と小型船の航法
大阪港は,港則法で定める船舶交通が著しく混雑する特定港内の1港で,総トン数500トン以下である船舶であって雑種船以外の船舶(以下「小型船」という。)は,小型船及び雑種船以外の船舶(以下「大型船」という。)の進路を避けなければならず,大型船は,国際信号旗数字旗1をマストに見やすいように掲げなければならなかった。
4 事実の経過
金栄丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,鋼材450トンを載せ,船首2.7メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,平成16年5月18日06時00分大阪港大阪区第3区の大正内港第10号地を発し,咲洲(さきしま)の北西岸沖を経由する予定で,同第4区の南港鉄鋼流通岸壁に向かった。
離桟後,A受審人は,単独でレバー操舵による操船に当たり,同第3区を西行して港大橋の北寄りを通過したのち,06時18分大阪北港口防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から108度(真方位,以下同じ。)1,950メートルの地点に達したとき,針路を271度に定め,機関を回転数毎分330にかけ,9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したとき,A受審人は,左舷船首15度1,150メートルのところに国際フェリーターミナルKF1岸壁から出航するシ号を認めたが,一瞥して未だ着岸しているものと思い,右舷前方の夢洲(ゆめしま)コンテナふ頭から出航しようとしていた大型コンテナ船の動静に気をとられ,その後シ号の動静監視を十分に行うことなく続航した。
このとき,シ号は,大型船であることを示す国際信号旗数字旗1をマストに掲げていなかったが,同号が大型船であることはその外形から容易に判別できる状況であった。
定針直後,A受審人は,汽笛信号短音3回を2度鳴らしながら後進を開始したシ号を認め得る状況となったが,操舵室後部出入口の扉が開放されており,主機などの運転音が大きく聞こえていたので,同号の音響信号に気付かないまま進行した。
06時20分A受審人は,防波堤灯台から116度1,360メートルに至ったとき,船首を右に振りつつ後進するシ号を認めることができ,その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然として動静監視を十分に行っていなかったので,そのことに気付かず,速やかに停止するなど,同号の進路を避けないまま進行した。
06時22分半A受審人は,左舷前方至近にシ号を認め,右舵一杯,全速力後進としたものの及ばず,06時23分防波堤灯台から148度700メートルの地点において,金栄丸は,船首方位301度,速力2.0ノットとなったとき,その左舷船首がシ号の左舷後部に前方から29度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
また,シ号は,B指定海難関係人ほか54人が乗り組み,回航の目的で,船首5.30メートル船尾5.75メートルの喫水をもって,同日06時15分同大阪港大阪区第3区の国際フェリーターミナルKF1を離岸し,神戸港に向かった。
ところで,B指定海難関係人は,港則法での前示規定について代理店から知らされておらず,また自ら調査していなかったので,国際信号旗数字旗1を掲げないまま,離岸したのであった。
B指定海難関係人は,一等航海士以下5人を船首に,二等航海士以下5人を船尾に配置し,自らは三等航海士,操舵手2人を率いて右舷ウィングで操船に当たり,機関,舵,バウスラスターを適宜使用して,岸壁に対して並行に船体を離してから徐々に船尾を開いていった。
06時18分B指定海難関係人は,防波堤灯台から141度1,160メートルの地点に至って,シ号の船首が135度を向いたとき,左舷船首59度1,150メートルのところに金栄丸が存在し,その後接近しつつあったが,右舷ウィングで離岸操船に集中して,左舷側の見張りを十分に行わなかったので,金栄丸の存在に気付かないまま,汽笛信号短3回を2度吹鳴して,右舷主機を微速力後進にかけ,国際フェリーターミナル沖合に向けて,船首を右に振りながら後進を開始した。
06時20分B指定海難関係人は,防波堤灯台から145.5度980メートルに達したとき,金栄丸が左方から接近し,衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,警告信号を行うことも,さらに同船が間近に接近しても,速やかに停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく,徐々に増速しながら後進を続けた。
06時21分少し前指定海難関係人は,船首で作業中の一等航海士から金栄丸が接近しつつある旨の報告を受けて,船橋左舷側に赴き,初めて至近に接近した金栄丸に気付き,短3回を1度吹鳴してから,機関を停止し,前進としたが及ばず,06時23分シ号は,150度を向き,後進行きあしが前進に変わったとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,金栄丸は左舷船首ブルワークに凹損を,シ号は,左舷後部外板に亀裂を生じたが,のちいずれも修理された。
(本件発生に至る事由)
1 金栄丸
(1)A受審人が,操舵室後部出入口の扉が開放されており,主機などの運転音が大きく聞こえていたので,2度鳴らされたシ号の短音3回を聞き漏らしたこと
(2)A受審人が,右舷前方で離岸間近のコンテナ船の動静に集中して,シ号の動静を監視していなかったこと
(3)A受審人が,シ号の進路を避けなかったこと
2 シ号
(1)B指定海難関係人が,国際信号旗数字旗1を掲揚していなかったこと
(2)B指定海難関係人が,岸壁に並行に離れることに集中して,見張りを十分に行わなかったこと
(3)B指定海難関係人が,警告信号を行わなかったこと
(4)B指定海難関係人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
港則法の規定により,大阪港において小型船である金栄丸は,大型船であるシ号の進路を避けなければならなかったが,シ号の動静監視を十分に行っておれば,容易にシ号の進路を避けて衝突を回避できたはずである。
したがって,A受審人がシ号の動静監視を十分に行わなかったこととシ号の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,シ号が金栄丸の見張りを行っておれば,前広に警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとって,衝突を回避することが可能であった。
したがって,B指定海難関係人が金栄丸の見張りを十分に行っていなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,操舵室後部出入口の扉が開放されており,主機などの運転音が大きく聞こえていたので,2度鳴らされたシ号の短音3回を聞き漏らしたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
シ号が大型船を示す国際信号旗数字旗1を掲揚していなかったことは,本件発生の原因とはならないものの,法令順守の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,大阪港大阪区において,西行中の小型船である金栄丸が,動静監視不十分で,離岸作業で後進中の大型船であるシ号の進路を避けなかったことによって発生したが,シ号が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
1 A受審人
A受審人は,大阪港大阪区において,単独で船橋当直に当たって西行中,左舷方に離岸中のシ号を認めた場合,シ号の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,一瞥してシ号は着岸中であるものと思い,シ号の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,後進を開始したシ号の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,金栄丸の左舷船首ブルワークに凹損を,シ号の左舷後部外板に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 B指定海難関係人
B指定海難関係人が,大阪港大阪区において,離岸して後進する際,左舷前方から接近する金栄丸の見張りを十分に行わないで,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,今後見張りを十分に行って早めの避航動作をとり,二度と海難を発生させないよう努力することを約していることに懲し,勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
(拡大画面:16KB) |
|
|