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平成16年神審第112号
件名

押船第十五豊栄丸被押バージ豊隆灯標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學,平野浩三,横須賀勇一)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:第十五豊栄丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
豊?・・・押船列豊隆の船首部に擦過傷
灯標・・・プラットホーム全損

原因
見張り不十分

主文

 本件灯標衝突は,見張りが不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月25日11時40分
 大阪港
 (北緯34度33.5分 東経135度23.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第十五豊栄丸 バージ豊隆
総トン数 297トン  
全長 28.05メートル 81.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,206キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第十五豊栄丸
 第十五豊栄丸(以下「豊栄丸」という。)は,平成14年6月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする,操舵輪左横にレーダー2基及びGPSを備えた2機2軸の鋼製押船で,豊隆の船尾凹部に船首部を嵌合して全長約90メートルの押船列(以下「豊栄丸押船列」という。)をなし,主としてセメント原料などの運搬に従事していた。
イ 豊隆
 豊隆は,非自航型のクレーンを装備した鋼製バージで,前示のとおり,豊栄丸と押船列をなし,同じくセメント原料などの運搬に従事していた。

3 事実の経過
 豊栄丸押船列は,A受審人ほか4人が乗り組み,豊栄丸は船首3.9メートル船尾4.2メートル,豊隆は船首2.5メートル船尾3.9メートルの喫水をもって,平成15年12月25日11時10分大阪港堺泉北区の桟橋を発し,同港大阪区へ向かった。
 A受審人は,豊栄丸船橋の操舵輪後方に置かれたいすに腰を掛けた姿勢で,豊栄丸押船列の操舵操船に当たり,11時33分堺浜寺南防波堤灯台から208度(真方位,以下同じ。)1.3海里の地点で,針路を344度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,主レーダーのみを作動させて自動操舵によって進行した。
 ところで,A受審人は,豊栄丸の船橋で見張りに当たると,豊隆の船首マスト及びクレーンポストによって,豊栄丸押船列の正船首方に少しばかり死角が生じる状況であったことから,死角内に隠れてしまう灯標や小舟などの小物標を見落とすことがないよう,作動させていたレーダーを活用するなりして,船首死角を補う見張りを十分に行う必要があった。
 11時38分A受審人は,堺浜寺南防波堤灯台から256度0.9海里の地点に至ったとき,正船首方740メートルのところに,浜寺航路第11号灯標を視認することができ,そのまま進行すると衝突のおそれがある状況となったが,年末年始に掛けての航海日程が決まっていなかったことから,乗組員の正月休暇などを考えることに気を取られ,前示いすに腰を掛けたまま,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同灯標の存在に気付かず,これを避けることなく続航した。
 こうして,A受審人は,その後も,船首死角を補う見張りを十分に行うことなく進行中,11時40分堺浜寺南防波堤灯台から280.5度1.0海里の地点において,豊栄丸押船列は,原針路,原速力のまま,豊隆の船首が浜寺航路第11号灯標に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期に当たり,視界は良好であった。
 衝突の結果,豊栄丸押船列は豊隆の船首部に擦過傷を生じ,浜寺航路第11号灯標はプラットホームを全損した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,いすに腰を掛けた姿勢のまま見張りに当たっていたこと
2 A受審人が,船首死角を補う見張りを十分に行わず,正船首方に存在した灯標に気付かなかったこと
3 A受審人が,灯標を避けることなく進行したこと

(原因の考察)
 豊栄丸押船列は,レーダーを活用するなりして船首死角を補う見張りを行うことは容易であり,見張りを十分に行っていれば,正船首方に存在した灯標を見落とすことはなく,これを避けることは可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,船首死角を補う見張りを十分に行わず,正船首方に存在した灯標に気付かないまま,これを避けずに進行したことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,いすに腰を掛けた姿勢で見張りに当たったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件灯標衝突は,大阪港において,浜寺航路を横切る態勢で北上する際,船首死角を補う見張りが不十分で,正船首方に存在した浜寺航路第11号灯標に気付かず,同灯標を避けることなく進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,大阪港において,浜寺航路を横切る態勢で北上する場合,正船首方に少しばかり死角が生じていたのであるから,同航路に敷設されている灯標などの小物標を見落とすことがないよう,レーダーを活用するなりして,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,年末年始に掛けての航海日程が決まっていなかったことから,乗組員の正月休暇などを考えることに気を取られ,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,正船首方に存在した浜寺航路第11号灯標に気付かず,これを避けることなく進行して衝突を招き,豊栄丸押船列の豊隆船首部に擦過傷を生じさせるとともに,同灯標のプラットホームを全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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